無駄に一日を消費してしまった。五時までに神社に到着し、またこの一日を送らなければならないのかと彼は盛大に溜息をつく。

 これであればもう少し行動を起こしておくべきだった。どうせやり直せるのだから色々試してみるべきだったのだ。

 部活の準備をしている運動部を後目に、グラウンド脇の部室棟を抜けて自転車置き場に向かう。

 やり直せるというのは、つまり自分の行為をなかったことにできるわけだ。しかし、だからと言って何でもできるわけでもない。やろうと思えば犯罪行為、たとえば金銭を盗んで豪遊することも可能なのだろうが、それは彼の良心が許さなかった。

 自分の自転車にまたがった所で、去年同じクラスだった女子と出くわした。そう言えば、ここで一言二言交わすのだったな、と彼昨日の記憶が喚起された。そして、彼はちょっとした思いつきから口を開いた。

「なぁ、もし俺が好きだって言ったらどうする?」

「は? なにそれ。告白?」

「いや、ごめん。言ってみただけだよ」

 この状況であれば告白も容易いのではないか。そんなアイデアから言葉にしただけで、彼女に対して特別好意があったわけではない。それほど親しくもなく、会えば挨拶はする程度の仲でしかなかった。ただひらめいた時に彼女がいたから、それだけの理由でしかなかった。

「だよね。マジびっくりした。告白とかないわ」

 そのまま彼女と別れて裏門から高校を出て帰途につく。

 彼女の口調は軽いものであったが、それでも彼は恋愛対象ではないというニュアンスがあった。男として魅力がないと言われたように感じ少なからずショックを受ける。冗談でこれなのだ。本気の相手にフラれたらどれほど心に傷を負うのだろうか。キューブによってフラれたという結果はなくせるかもしれないが、精神的な苦痛までは癒せはしない。

 告白は却下だ。そう判断して彼は、街をうろつき飲食店に入る。どうせ金銭は過去に行けば復活するのだからと、普段食べない物を頼みささやかな贅沢をした。

 そうこうするうちに時間が迫ってきて彼は神社へと足を向けた。

 余裕を持って動いたので五時にはじゅうぶん間に合うとタカをくくっていた。

 しかし、彼はある事実を忘れていたのだ。

 境内をあるいていると、またそれはやって来た。

 腹痛だった。

 こうしてトイレに籠るはめになった。余計なものを食べたせいなのか、腹の調子は前回よりも悪く大幅なタイムロスとなった。

 彼がキューブの元へたどり着いた時には、真弓もまたそこにいた。

 再びまみえる二人。

 彼はひとりほくそ笑む。

 どうせ相手の出す手は知っている。

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