2
気がつくと喧噪につつまれた教室にいた。
机を取り囲み雑談に興じる生徒、荷物をまとめている生徒、鞄を持って廊下へと出ていく生徒、どうやら放課後らしい。
スマートフォンを取り出して時刻を確認すると、六限目が終わって十分ほど経った所だった。
彼は画面に表示された日付を目にし、よしと頷いた。
時間が一日と一時間半ほど巻き戻っている。
彼は教科書をリュックに詰めると友人の誘いを断り、高校を飛び出して神社へと向かう。
いつからキューブはあの場所にあったのだろうか。彼が発見したのは五時少し前だったが、それ以前からあったとしたら、それに触れることでさらに過去へ戻れるのではないだろうか。そう彼は考えたのだった。
鎮守の森の横手に自転車を停めてブナの木を目指す。雑木林の中、記憶を頼りに一本の木を探すのは困難かと思えたが、腐葉土を踏み進んで行くとすぐにそれは見つかった。
木肌に浮いた地衣類のシミがそのブナだと告げている。
しかし、キューブはない。
まだ現れていないだけなのか、あるいはやり直した時間軸ではキューブは存在しないのか。
あたりが暗くなるまで、スマートフォンでゲームをしながらその場で待機していたが、結局キューブは出現しなかった。
翌朝も、家を少し早めに出てブナのもとへと向かった。
雑木林に入った時点でキューブの存在は視認できた。あの時よりも明らかに光が強く、そして明らかに大きい。
戻れる時間が体積に比例しているかどうかは彼にはわからなかったが、それでもより過去へ戻れるという確証は得られた。同じ時間の移動であっても出発点が違えば到着する時間も異なる。理屈上は、さらなる過去でキューブを発見し続ければ、任意の時間へと移動する事が可能だ。
しかし、キューブの出現頻度が著しく低いのであれば、戻った過去にもキューブがある確率は低いだろう。さらに言えば、たとえキューブがあったとしても、彼の足で捜索可能な範囲内になければ、それ以前には行けなくなる。
そう考えるとキューブを今使うのは徒労しか生まないように思えた。戻った先の時間にキューブが存在している保障などない。ならば、確実にキューブがあるこの時間軸上で一日を繰り返す方が良い。
この半日でやれることを探り、五時になったらまた神社から過去へと飛ぶ。そうやって一日を反復し、最も素晴らしい一日を送れたと感じた時、真弓を神社に行かせないように働きかけ運命を確定させる。
それこそが彼のやるべきことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます