ただひとつだけきょうつうして言えることは

 ぼくはちょっとずつすなをかぶっていった。とうめいだったはだはしろくにごって、ざらざらになっていった。ラベルくんはところどころあながあいて、もじはかすれていた。話すこともほとんどなくなってしまった。話すとむかしのことがうかんでしまって、むなしくなる。


 今のぼくは、まるでゴミだった。


 ウミがものをはこんできた。ぼくのとなりに、アジくんがやってきた。お話しようとおもって声をかけたけど、すこしもうごかなかった。へんじをするかわりに、きょうれつなにおいをだすようになった。すると、まっくろいトリがやってきて、アジくんをつんつんした。ウミにいたとき、アジくんがぼくにしていたうごきだった。アジくんはいなくなってしまった。


 ついでとばかりに、ぼくのこともつんつんつついた。でも「エサ」でないことがわかると、トリはとんでいってしまった。くろいすがたがとおのいてくのを見て、ぼくのおなかのなかにあったものをおもいだす。


 きっと、だいじなのはぼくのなかにあったものであって、ぼくはだいじじゃないんだとおもう。すなのうえにたどりついて、いきついたこたえがそれだった。


 これがぼくのゆくすえなのだとしたら。ぼくはアラシをうらんだ。そのすぐあとで、このうらみをアラシにぶつけるのはまちがいだと気づき、ぼくはしずむおひさまをながめた。お話はしなかった。したら、きっとぼくはもっときずついてしまう。


 たくさんの人間がぼくのところへやってきた。片手にしろくておおきなビニールぶくろをもち、はんたいの手には、おれまがったてつのぼうをもっていた。人間はそのぼうですなのうえにあるものをはさんで、ふくろのなかへ捨てていた。きっとぼくも拾われるのだろう。でも、あのときみたいな、うれしいとか、こわいとか、そういうかんじはなかった。


「僕たち、ゴミになるんだ」


 ラベルくんはかすれた声で言った。ひさしぶりに声をきいた気がする。


「もうずっと、ぼくはゴミだったよ」


「これで正真正銘、名誉のゴミってことさ。僕らは拾われるくらい魅力的なんだ。誇ってしかるべき偉業だよ」


 ラベルくんはじぶんじしんをけなすように言った。ヒクツだけど、すごくまえ向きなことばだった。


「……もしかすると、僕らは本当に素晴らしいゴミなのかもしれないな。ウミを漂流したゴミなんて、そうあったもんじゃない。袋の中で注目の的さ。リサイクルされたあとも同様さ。僕たちが服になるのか、シートになるのか、そういうのはわからないけど、誇れるモノになるのは違いないんじゃないかな」


 リサイクルなんて、なつかしいことばをきいた。ぼくらはバラバラにされて、あたらしいものにうまれかわるのかもしれない。ぼくはゴミになったときから、うまれかわることをあきらめてしまっていた。いや、うまれかわれないものになってしまったのだとおもってしまってたみたいだった。


 ぼくたちはにんげんにひろわれ、そしてふくろのなかに捨てられた。


 ふくろのなかはべつのせかいがひろがっていた。たくさんのぼくたちがいた。にごったいろをしたはだに、すなやどろやよごれがこびりついていて、ぼうぜんとしたようすでひしめきあっている。ラベルくんの仲間もたくさんいた。すっぱだかのペットボトルくんもいたけど、ラベルくんとキャップさんがそろってるペットボトルくんもいた。ぎゃくに、ひとりぼっちのラベルくんやキャップさんもいた。そして、一本一本、びみょうにすがたがちがってて、おんなじすがたは一本もない。たったひとつだけ、きょうつうして言えることは、みんな「じしんさく」とはほどとおいってことだった。


 ぼくの知ってるキャップちゃんのすがたはどこにもなかった。もしかするとふくろのしたのほうにいるのかもしれないし、とおいところにいるのかもしれない。でもぼくはむやみにさがさないことにした。キャップちゃんは、さきにリサイクルされている。そんな気がする。それなら、おたがいあたらしいすがたであったほうが、よろこびもひとしおだろう。




 ビニールぶくろの口が、きゅっとしまった。ぼくたちはごろごろ、おたがいのはだをぶつけあいながら、ゆれていた。まるで水のうえにいたころみたいだ。みんなといっしょに、ゆれる。

 ぼくはあんしんして、ねむりについた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ボトル漂流物語 今田ずんばあらず @ZumbaUtamaro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ