第72話 巻きで釣れたらいいよね!

 仲良しの中でも特に仲のよかったヤツラ(幼馴染+中学生の頃までに知り合った友達)、及びその相方がユキの家の離れに集まる。


 全員集合。


 何かしらイベントを催した場合、幼馴染のみに限定すると、全員揃うことは割とある。

 がしかし、中学で仲良くなった友達まで含めた集まりとなると、これが結構難しい。

 誰かしら、外せない用事が入ったりして不参加になっていた。

 恐らくこれまでに全員揃ったコトはない。


 今、部屋の人口密度がエライことになっている。



 この日は朗の帰郷祝。

 用意も終わり、料理で盛りだくさんになったテーブルを囲む。

 そして。


「「「かんぱ~い!」」」


 いつも通りマッタリと時が過ぎてゆく。

 朗の勤めていた会社のブラックっぷりに全員でドン引きつつもひとしきり盛上り、落ち着きを取り戻した頃。


 突然ミクが手を挙げて

 

「は~い!全員注目ぅ~。」

 

 いい感じで酔ってらっしゃる。

 頬に赤みが差し、トロ~ンとした表情がなんとも色っぽい。

 

「なん?どげしたん?」

 

 桃代が聞くと、突然立ち上がり、


「ウチ、今お腹に赤ちゃんおるっちゃん!しかも、もー4カ月!」

 

 嬉しそうに、少し目立ってきだしたお腹を突出しピースする。

 いつもの緩いカッコなので&肉付きも程よい感じなので言われるまで全く気付かなかった。

 涼の時はすぐ見破ったのに。



 桃代が子づくり計画を提案したのは6月中旬。

 今が10月。

 で、妊娠4カ月ということは、あのあとすぐに身ごもったということになる。

 

「マジで?おめでとぉ~!っち、なし妊娠したっち分かった時すぐに言わんかな~。」


「ん?サプライズしてみたかったん。ちょーど香澄帰ってくる話聞いたときやったきね。だき、それまで秘密にしちょこーかねっち思って。」

 

「なんか、それ~!」

 

 羨ましいばかりの桃代。

 

 先を越された!

 今、妊娠しても生まれてくるのは7月。

 気合を入れて頑張らなくては!

 

 実はこの時、既に澪と渓のお腹には赤ちゃんがいたのだが、まだ初期の段階で気付かなかった。

 判明したのはこの家飲みの数日後。



 ミクの発表を機に妊娠ラッシュが始まる。

 このあと菜桜、千春、涼、香澄、舞、環、美咲と続く。



 これまで桃代の心を修復するためにやりまくり過ぎて、精子が濃くなる暇がなかったユキ。

 流石に全員妊娠となると焦りまくる。


 一人だけ違う学年とか、なんか仲間外れっぽくてイヤだ!


 そんなわけで頑張った。

 どうにか桃代に我慢させ、濃くしてなんとか間に合った。

 予定日は来年の2月。

 計画を提案した張本人がダントツのビリだった。


 と、妊娠の話はこんな感じ。


 同い年の子供が生まれてくるその日が待ち遠しい。

 



 月日は流れ、出産ラッシュ。

 ユキ&桃代ペア以外はそれぞれ無事出産を終えて、初めての育児(環、香澄、涼は二度目)に励んでいる。



 2月。

 隣町の産婦人科にて産声が上がる。

 桃代にとっては二度目の出産だが、ユキにとってはこれが初めて。

 立ち会わせてもらうことにした。

 分娩台の脇でオロオロハラハラしながら励まし続ける。

 愛する旦那様に見守られての出産。

 有喜の時にできなかったコトが今度こそ実行できたため、安心してお産に臨むことができた。


 我が子が母体より取り出された際、ユキは臍の緒を切らせてもらった。

 母親が主役である一大イベント、出産。

 その中で、男親が参加できる数少ないアクション。

 分娩台横での応援と、コレだ。

 以前、桃代からそういったイベントがあるということを聞かされていて、次の子が生まれるときは是非ともやってみたいと思っていた。


「パパは臍の緒を切ってみますか?」


 看護師に提案され、


「はい。」


 躊躇いなく了承する。


 クリップで2カ所挟まれた臍の緒。

 内臓そのものだ。

 ハサミをわたされ、


「この間を切ってくださいね。」


 と説明される。

 恐る恐る実行。


 ぢょきっ!


 意外と硬く、結構な力がいる。

 肉を切る生々しい感触と音だが、感動の方がはるかに上回る。


 切った後。


 有喜の時にもしてあげたかったなぁ!


 しみじみと思った。



 今回の妊娠では、早い段階で性別をおしえてもらっていた。

 だから名前は既に決めていた。


 命名「彩恵」。


「さえ」と読む。


 みんなに好かれる元気な子に育ってほしい!



 生まれたての我が子を抱かせてもらう。

 ふやけてピンクとも紫ともつかない変な色。

 手足を突っ張って元気に泣いている。

 か弱いのに力強い。

 軽いのに重い。

 なんとも不思議な感覚。

 生命の尊さを感じる。

 とんでもなく感動的だ。

 思わず涙が頬を伝う。


 桃代は産後の処置をするため別の部屋へ。

 彩恵は身長体重測定を行うため、やはり別の部屋へ。

 それぞれ処置や測定が終わり、母子ともども病室へ戻ってきた。

 疲れた表情でベッドに横になる桃代。

 隣にはスヤスヤと眠っている我が子。

 夢にまで見た光景がここにある。


 なんか…幸せだ。


 少しして彩恵が目を覚ます。

 顔を改めてマジマジと見る。

 目がパッチリとしていてとても可愛らしい。のだが、またもやユキの特徴を受け継いでなかった。

 受け継いでないというよりも、薄過ぎるので表に出ない。

 女の子だからなのか、有喜よりも桃代似だ。

 ちょっと寂しいユキだった。



 これで全員。

 上手いこと同い年の子供が揃った瞬間だ。

 



 ユキにとって初めての子育てが始まる。

 毎日が驚きとテンパりの連続である。

 その点桃代は経験者なので、ユキよりは少しだけ余裕がある。

 前回の出産からかなり年月が経ってしまっていて、色々と忘れかけていたのだけれど、大切なところは覚えていた。

 純粋に、


 すごいな!流石経験者!


 と、感心してしまうユキだった。

 何をやるにしても頼もしい限りなのだ。

 

 

 ここで。

 只今桃乳は、重量感あふれる授乳仕様である。

 異動でこちらに帰って来た時よりもだいぶ大きくなっていた。

 あの時は「極貧乳」が「貧乳」にランクアップしていて嬉しかったのだが、今現在、「乳」にまでランクアップしている。

 今まで見たことのない大きさに絶賛感動中のユキ。

 彩恵が吸っていないときはユキが吸っている、といった有様だ。

 吸いながら弄っているとムラムラして勃起する。

 勃起するとしたくなる。

 立て続けに妊娠する可能性が非常に大きいペアの代表だ。

 ま、妊娠前みたいにやり過ぎて薄くなり、できないという噂もあるが。



 乳大好きなユキはさておき。

 有喜が9歳にしてついに本当のお兄ちゃんになった。

 今までのお兄ちゃん(仮)から「(仮)」が取れたのだ。

 家にいるときは、腹いっぱい彩恵を可愛がる。

 もう幸と研相手にお兄ちゃんごっこはしなくてもいい。

 とはいえ、これまでどおり二人とは仲が良い。それに加え朗の子供も友達になった。

 学年がみんな違うため、学校で遊ぶことはないけれど、家に帰るといつも一緒に遊んでいる。

 

 

 以上がユキと桃代の現状。


 他の幼馴染達はどうしているかというと。

 みんな初めての子育てに一生懸命。

 色々悩みながら、子育て経験のある桃代や環、涼や香澄にアドバイスを受けながら日々頑張っている。


 子供達は幸いなことに全員健康。

 とりあえず、風邪とかに注意しておけばいい感じ。

 本当に親孝行な子供達である。

 生まれた直後から顔見せしており、既に仲良しの兆しが見えている。



 会社の方は桃代、澪、環、渓、ミク、舞が産休。

 大変な時期が終わると正社員として復帰できることになっている。

 菜桜、美咲、千春、涼は会社を辞め、主婦として頑張っていくことにした。



 注)出産~子育て中の描写は「子供」の回と被る部分しかないのでバッサリと省略!




 子育ても大変な時期は終わり、心に余裕も出来てきた。

 このところ、家飲みの頻度も徐々に上昇中である。

 そうなってくると、自然に釣りの方へと話が向かいだす。

 

 

 というわけで、春。


「同い年の子供を作ろう計画」で生まれた子供達は既に3歳。

 ボチボチ次の子を作ろうか、といったタイミング。


 次の子、また同い年にしようかな?


 みんな、そんなことを考えていたりいなかったりの今日この頃だ。



 今日も歩いて前の川の土手。

 見通しも良くて、子供達を遊ばせるにはもってこいの場所。


 穏やかな日差し。

 時折頬を撫でてゆく風が心地よい。

 空の高いところでは小鳥のさえずる声。

 浅瀬では小魚が戯れている。


 春真っ盛り。


 子供達は親と同じく仲が良い。

 河川敷で思い思いに遊ぶ。

 釣りをしたり、ツクシを取ったり、虫や魚と戯れたり。

 そんな姿を見ていたら、ほのぼのとした気分になって癒される。


 これから、こいつらが主役の物語が始まる。


 実に楽しみだ。



 マッタリとした時が流れる。

 

 普通でいい。


 否。


 普通がいい。


 ドラマチックな出来事なんかなくていい。


 でも。


 欲を言えば、良い方のドラマチックな出来事がちょっとだけあればいいかな?


 とにかく!


 普通が一番だ。


 こんな日常がずっとずっと続けば嬉しいね!

 

 

 田んぼでは今年極早稲を作るらしい。

 去年よりも少し早く下流の水門が閉められた。

 おかげで3月初旬にはいろんなところで釣りができる水位に。


 それから二週間ほどが過ぎた。

 満水当初、ゴミが激しく浮いて撃ちの釣りしかできなかったが、その浮きゴミも何度か降った雨で粗方流れ、今ではプラグを引くこともできる。

 気温も水温も日に日に上昇してきている。

 巻きへの反応も良くなってきているはずだ。


 春爆。


 期待せずにはいられない!



 あの日。

 大好きな人の前で勇姿を見せることができたラッキーアイテム。

 黒金ノーマルワイルドハンチ。

 サオもリールもルアーも、狙うポイントさえもあの時と同じ。


 違うコトといえば…夏じゃないこと。


 そして。


 大好きだった人が家族になったこと。


 あと、二人の子供がいること。


 それくらいかな?




 カチッ!

 

 クラッチを切ってバックスイング。

 オーバーヘッドキャストで乱杭の奥めがけて鋭く振り抜いた。

 

 ビュッ!ヴ―――ン…ポチャ。

 

 ルアーが狙ったポイントを正確に射抜く。


 カチッ!

 

 ハンドルを回しクラッチを戻す。

 リトリーブ開始。

 杭と杭との間を抜けた瞬間。


 ゴッ!


 重くて鈍い衝撃が伝わってきた。


 ヒットしたポイントまでもがあの日あの時と同じとか!

 

「おっしゃ!食った!」


 サオをあおってフッキング。

 ファイトが始まる。

 重量感がハンパない。

 エラ洗い。


 魚体が見えた!デカい!


 突進。

 そしてまたエラ洗い。

 テンションをかけてやり過ごす。

 乱杭エリアに向かった。

 絡まれたら厄介だ。

 そうさせないためサオを立て、強引にリールを巻いてこちらを向かせる。

 横走りしながら尚も抵抗。

 図太いトルク感。

 さらにリールを巻くと、抵抗しながらもなんとか目前まで寄ってきた。

 掛かり具合を確かめるとハーモニカ食い、というかほぼ丸飲み。

 口から僅かにリップが見えている。

 糸に傷は入っていないはず。

 前後のフックが上あごと下あごにガッチリと掛っていることは明確だ。


 大丈夫!


「せーの!よっ!!」


 抜き上げた。

 間近で見ると水中で見た以上にデカい!

 しかも太い!!


 口はグーが入ってなお余裕があるほど。

 まだお腹に卵を抱えている真ん丸な魚体。

 指を広げ、ざっと測定すると三回目の半分以上。

 楽勝の50cm超え!

 スケールを合わせると55cm。


 3kgあるかも!


 今年初めての巻きフィッシュは特大サイズ。

 思わず顔もほころんで。


 

 やったね!やっぱ、



 巻きで釣れたらいいよね!

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巻きで釣れたらいいよね! Zee-Ⅲ Basser @1kd-ftv

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