第71話 全員集合!

 6月初旬。

 ミクが結婚した。

 付き合い始めて約半年。スピード婚だった。とはいえ知り合ってからだと10年以上は経つけどね。

 これでつるんでいるヤツらすべてが結婚したことになる。

 めでたしめでたしだ。


 ここで一つ。

 問題というかなんというか。

 ユキと桃代の結婚以降。

 一番早く結婚した千尋&菜桜ペアですら子供がまだいない。

 なぜかというと。

 今までみんな、一度も異性と付き合ったことが無くて、二人で遊ぶのがこの上なく楽しい。子供は欲しいのだけど、まずはしばらく彼氏彼女気分を味わいたかったのだ。だからあえて妊娠しないようにしていた。




 ミクが結婚してから初めての家飲みにて。

 今日はお祝いを兼ねているので全員集まっている。

 そんな中、桃代が


「全員結婚したことやし!自分らみたいに同い年の子供作ろうや!」


 と、言い出した。


「それいーね!」


 全員が賛同。


 ここにいない朗と舞。


 賛同してくれるかな?


 ちなみに舞もまだ子供はいない。

 朗にはいる。もうすぐ4歳になる男の子だ。


 すぐさま二人にもその話しを振ってみることにする。

 ラインを送ると。

 二人とも「それいいね!」とすぐに返信。




 この日より「明るく楽しい家族計画」を実行し始めた。


 始まったのはいいが、ちょっとだけ気になることが。

 舞は地元にいるからすぐ会えるのだが、朗は県外。上手いこと子供が出来たとしても一緒に遊ばせてあげられない。どうしたものかと考えていた矢先、「帰郷する」との連絡が入った。どうやら会社がつぶれてしまったようだ。9月いっぱいで引き揚げてくるとのこと。

 連絡こそ取りあっていたものの、大学を卒業してからは一度も会っていない。会社の事情で帰省できなかったみたい。

 実に7年ぶりの再会となる。

 ここで気になってくるのが奥さんのコト。


 向こうで結婚したから帰郷のこと反対するんじゃないのかな?


 と、心配していたのだが…全く問題無かったみたい。というか大賛成だったらしい。

 話しが早くて助かる。助かるのだが…なんで?なんで大賛成?

 といった謎があったのだが、実は何を隠そう、奥さんはこちらの出身。しかも、小学校時代の同級生だったという。

 ということは、ミクや舞、涼とは知り合いなわけで。

 中学に上がるとき朗の就職していた県に引っ越したため、小学校が違うユキ達幼馴染は知らなかったのだ。

 ユキが朗から仕入れた奥さんに関する情報を、家飲みの時に聞かされて、三人とも心底驚いた。

 桃代のロストバージンとまでは言わないまでも、相当スゴイ確率だ。


 しかしまぁ…朗までもが幼馴染と結婚していたとは。


 マジでミラクルである。

 ともあれ。


 全員揃う!


 帰ってくる理由はアレだけど、またみんなで釣りができるし酒も飲める。

 色々と楽しくなりそうだ。




 10月1日。

 夕方、朗到着。

 これからお土産配り。


 ユキの家にて。

 勝手口をノックする音がし、


「は~い。」


 桃代が出ていくと、


「お~!朗くん、久しぶり!」


 高校を卒業する時までは、まだまだワルソの痕跡が色濃く残っていたが、今となってはそんなもの微塵もない。若干茶色がかったサラサラヘアーで爽やかなカッコイイオニーサンだ。


「よっ、桃!久しぶり。これ。」


 お土産をわたすと


「ありがと!わざわざすまんね。」


「いえいえ。離れっちこげな風になっちょーって。」


「うん。ここでしょっちゅうみんなと飲みよぉんばい。今度からおいでね。」


「わかった。ユキは?」


「ちょー待って。ユキく~ん!」


「な~ん?」


「朗くん来ちょーばーい!」


「マジ? 」


 有喜と一緒にテレビの部屋から出てきて、


「お~、久しぶり!元気やった?」


 感動の再会。


「うん。お土産持ってきた。」


「ほら、ユーキ。お父さんたちのお友達。こんばんはと名前は?」


 ユキに背中を押され前に出る。


「こんばんは。小路有喜です。」


 ビミョーに緊張しながら挨拶。


「こんばんは。お利口さんやの。へ~、桃にそっくりやんか。」


「ははは。ちょっとは似てほしかったよね。」


「男親としてはそぉよね。オイチャンは下口朗。よろしくの。」


「うん。」


「今日飲み来る?」


「流石に今日は来きらんやね。移動でクタブレ上がった(訳:疲れた)。みんなのトコ、これ配り終ったらゆっくりして寝る。」


「そっか。県外、お疲れさんやったね。」


「ま~…酷い目に遭ったよ。それは今度飲むとき話そ。んじゃあいつらんとこ行かないかんき。またね。」


「うん。じゃ~ね。」


 手を振ってユキの家を後にし、他の幼馴染の家をまわる。




 朗が帰郷した日の週末。

 早速飲み会が開かれる。

 場所はやっぱりユキの家。

 今回は全員参加。


 ノックの音がする。

 桃代がドアを開け、ミクと舞と涼で出迎える。


「よぉ、香澄!久しぶり!」


 超絶感動していた。17年ぶりの再会である。


「ぅわ~…でったん懐かしいき!あんたらあんまし変わっちょらんね!」


 朗と結婚することによって、すっかり筑豊弁を思い出している様子。全く違和感が無い。


 全員揃ったので飲み開始!

 とりあえず缶ビールを全員で持って、


「「「かんぱ~い!」」」


 一本目のビールを飲み干した頃、


「ま~それはそれは大変やったよ。職場環境悪いし。業務は過酷やし。」


 朗は大変だった県外での生活を振り返り、しみじみと語り出す。

 かなりのブラック企業だったみたい。

 勤務時間は定時が8:00~17:00ということなのだが、6:30には出社して仕事をできる状態にしておかなければならない。1分でも遅れると遅刻扱いされ、罰を受けさせられる。具体的には反省文の提出だ。帰りは当然の如く23:00をまわる。下手すると日付を越えるから、無理矢理タイムカードを押させられる。残業は最初の20時間のみ付くが、あとは全てサービス。休日出勤も当然の如くあり、それについての手当ても一切出ない。

 あまりにも劣悪な労働環境にまず香澄がキレた。ここで、同じ会社なのになぜ?といった疑問が湧いてくるのだが、事務と現場とは業務の形態が全く別物なのだ。

 分かってはいた。しかし自分の旦那がそんな目に遭うと黙っちゃいられない。いくら家族のためとはいえ、これじゃ身体を壊すのは時間の問題だ。自己都合退職を薦め実行に移そうとした時、ブチキレた社員15名が辞める前3か月分のタイムカードの写真とコピーを労基署に提出した。どうやら話を合わせ、水面下で会社をつぶす計画を立て、実行したらしい。

 監査が入り、サービス残業が明るみに出てテレビ沙汰にまでなった。全員長年働いていた超ベテランだったため、入社してからの残業代を一括で払わされ、会社はあえなく倒産、というのが帰郷に至った流れ。


「でったん最悪な会社やったきね~。まぁ、あの会社に行っちょらんやったら嫁さんとも出会えんやったっちゃけど。」


 という言葉で締めくくった。

 この話を聞いて、自分達は仕事面に関しちゃ恵まれていると思うことにした。


 朗は既に職安に登録している。会社都合の退職なので、今月から失業保険が出る。とはいえ速やかに就職するつもり。

 支度金をゲットしてやる!と、意気込んでいた。



 仕事の話しが終わると今度は釣りネタ。

 朗のいた県でもバス釣りはできた。

 川でも釣れるのだがちょっと遠かったらしく、メインは野池。近所に農業用のため池が多く、ほぼすべてにバスが入っている。しかも、福岡県よりは人口がはるかに少ない県だったため、釣り人口も大して多くない。先入者とガチ会うことがあまりないのだ。もしもいるのであるならば、いない池に移ればいい。しかもどの池もそれほど一生懸命にならなくて釣れるほど魚影が濃い。大体行けば二桁は釣れるパラダイス。仕事はアレだが釣りの方はなんとも羨ましい限りである。

 今まで頑張ってこれたのは釣りができたからと断定できる!的なことを言っていた。

 そして子供が男の子。勿論釣りデビューさせていて、スピニングが扱えるらしい。初バスもとっくの昔に釣っているとのこと。


 こんな話をしていると釣りに行きたくなってくる。

 いつもの如く、週末みんなで行くことが決定した。

 あまりの釣れなさに心折れなければよいが…。




 次の週末。

 集まったのはユキ、桃代、菜桜、千尋、美咲、悠太、朗、香澄。


「お~。久しぶりやな!釣れそうに見えるっちゃけどね~…ダメなんやろ?」


「うん。ボーズ覚悟。フィネスが効きにくいのが痛いよね。」


「いかんな。早速始めよーや!」


 季節は秋。

 もしかしたら秋の荒食いに当たるかも!

 釣れないとはいえ期待する。

 が…

 やっぱりである。

 今のところ何をどうやっても食ってくる気配がない。

 ちなみに全員フィネスじゃない方のベイトで巻いたり撃ったりしている。


「流石、有名になってしまっただけのことはあるね。キビシーわ。」


 そんなことを言いながらも朗は楽しそう。

 久々のフィールドを満喫中なのだ。


 そんな中、桃代が掛ける。


「おっしゃ!食った!」


 クランクベイトを巻いていたら食ってきた。

 信頼のワイルドハンチ。カラーはブルーバックチャート。

 エラ洗いして派手に暴れるも瞬殺。

 36cmのキレイなバスだ。


「おぉ~、流石、巻き名人。」


 朗が感心している。


「ごめ~ん!空気読まんで!ここは朗くんに釣ってもらわないかん場面なのに!」


 向こうで手を合わせ謝っていた。


「別に謝らんでも。桃が上手いっちことて。」


「へへへ、ありがと。」


 苦笑する。

 いつもの如く記念撮影して


「ありがと!バイバイ!」


 逃がす。

 これで全員ボーズは免れた。少しだけ気が楽になる。



「それにしても巻きかぁ。どーすっかな。悩ましいな。」


 朗は今、ラバージグ+ポークリンド。

 使っている人がいないからあえて選んだのだが、イマイチバイトが遠い。そして今、桃代が釣ったことで自信を持ってやりきれなくなっている。

 迷うとたいがい魚に見破られて釣れない。

 とりあえず、巻いてみることにした。

 選んだのはボーマーロングA。古くからある名作中の名作ミノーだ。フローティングタイプでサーフェイスの黒金を、ゆっくりただ巻きで使用する。


 巻きに替えて約20分。

 ついにその時が訪れる。

 岸沿いにできる限り遠投。

 護岸を叩きながら引いてくると、


「おっしゃ!食った!」


 止まるようなバイトだった。

 反射的にサオをあおりフッキング。

 直後エラ洗い。

 40cmは確実にある。

 首を振る感触。

 そして突進。

 またエラ洗い。


「ツエ~!やっぱ川バスは違うね!オモシレー!」


 心の底から楽しんでいる。

 見ている方も嬉しくなる。

 しばしのファイト。

 足元まで寄ってきた。

 掛かり具合を見るとハーモニカ食い。

 前後のフックがシッカリと掛かっている。


「よいしょ!」


 抜き上げた。

 そしてハリを外し、手に取る。


「ん~、いー魚!ただいまフィ~ッシュ!」


 実に嬉しそう。


「やったやん!」


 ユキが喜ぶ。

 測ってみると43cm。

 ちゃんと餌が食えていて太っている。


「やっぱ巻きかなぁ。んじゃスピナベもありかもね。」


 この状況を見て、菜桜は撃ちから巻きへとシフトする。

 ナチュラルカラーのDゾーン3/8をチョイス。

 直後、一気にサオ先が絞り込まれ


「食った!」


 アワセると突進される。

 数度のエラ洗い。

 激しいファイトの末、菜桜も取り込みに成功。

 40cmの太くて立派な魚。


「このタフな中、巻きで出たら嬉しいよね!」


 満面の笑顔で記念撮影している。


 このあと頑張ったが流石にハイプレッシャーフィールド。

 後が続かない。

 撤収することにした。




 この日から朗は週末になると必ず誰かと釣りに行っている。

 で、仕事はというと。

 すぐに近所の建設系の会社に決まり、支度金もゲット。即戦力として第一線で活躍している。




 帰ってきて大正解だ!


 心からそう思えた。

 友達がいて、慣れ親しんだ自然があって。

 ガラが悪く、何の取柄もないただの田舎町だけど、でもそれがいい!

 大気も県外に出ていっていたが、結局はこの町に落ち着いた。

 やっぱしみんなここが好きなんだ!


 もう二度と出ていかない。

 この地に根をおろすことを固く心に誓う朗だった。

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