その7 「クレープ?」
クレープ生地だけ出来上がっている物を使って、中身を自分の好きなように盛り付ける。
家でクレープを作る時はこの方が手軽でいい。好きなようにクリームやチョコレート、フルーツを盛って自分の好みのクレープを作る事が出来る。何より盛り付けるだけだから、組み合わせ以外で失敗する要素は無い……と、思っていた。
「これは頼んだ私が悪かった」
「そう言われると余計に傷つくよー」
あまり傷ついているように聞こえないし、表情は悲しそうじゃなくて怒っているように見える。全然迫力はないけれど。
話を戻そう。
私達が犯した失敗、それは彼女に生クリームの泡立てを任せた事だ。
クレープを作るとなった時、ホイップクリームはどうしても欲しいと思った。だから生クリームを用意したけれど、そこでチョコレートを買ってくるのを忘れていた事を思い出して買い物に行った。その間に彼女が気を効かせて生クリームを泡立てていた、というわけだ。
そして出来上がったものは、ふわりとしたホイップクリームとは真逆の、真っ白な固形物。小学校の時に理科の授業で見た、ジャガイモから取りだしたデンプンみたいにも見える。
「……食べられるの?」
「舐めてみたけど、ちゃんと生クリームの味がしたよー」
この前初めて口にした事で、彼女が作る料理はあくまで味を変えずに状態を変質させるものだとわかった。だから今回は躊躇無く舐めてみたようだ。
「とはいえ、さすがにこれをクレープに入れるのはキツいかな」
「えー、なんで?」
「舌触りが悪くなる」
カレールウやカレー粉をそのままの状態で食べないように、味や成分が同じでも、食感が損なわれるのでは意味がない。
「生クリームはまだ残ってる?」
「半分くらい使っちゃったけど、まだ残ってるよー」
「それじゃ、その残りはちゃんとしたホイップクリームにして使いましょう」
「私が作ったこれは?」
彼女の作った、固形の生クリームは捨てない。もったいないというのもあるし、ある事を思いついたから試してみようと考えたから。
「冷蔵庫にラップして入れておいて」
その日のクレープは二人で美味しくいただいた。
翌日、私は仕事の帰りにブラウニーを二人分買ってきた。
そして冷蔵庫から固形の生クリームを取り出し、粉状になるまで崩す。
「そのクリームをどうするの?」
「粉砂糖代わりにしてみる」
ホイップクリームを作るにあたって砂糖は入ってるはずだし、元は生クリームだから合わないはずがない。
「……うん、美味しい」
私の予想は当たっていた。
そして私の感想を耳にして、彼女がぱっといい笑顔になる。
それは料理なの? 紅羽根 @BraveFive
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