おまけ・余計な一言
R指定する程じゃないですが、ちょいとイチャコラ入ります。
その注意点を踏まえた上でよろしければどうぞ
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「小鳥遊、ん!」
そう言って左手をオレへ差し出す榎本の右手には、高級メガネ拭きが握られている。
もちろんそのメガネ拭きはオレがメガネを買った時に付いていたおまけのようなものではなく、メガネをかけてない榎本がメガネを拭くためだけに買ったメガネ拭きだ。
「はいはい…」
いつものようにメガネを外して榎本に渡すと、笑顔を我慢しきれない榎本は、ニヤニヤとだらしのない笑顔で眼鏡をせっせか拭きだした。
裸眼であんまりはっきり見えないので、目を細めながら榎本のそれを眺めていると、
「ん…?んん??」
榎本が怪訝な声を出し始めたので、近づいてどうしたのか訊ねる。
すると「小鳥遊、ここ。拭いても拭いても綺麗にならない!」と榎本がメガネのレンズを指さした。
「え…どこ?」
「ここ、ここ!」
そう言われてメガネの角度を変えて光に当てながらよーく見ると…
「あぁ…これか。コーティング剥がれちゃったんんじゃない?」
「コーティング…?」
「汚れつきにくくするためのコーティングとかがさ、レンズの表面にしてあるんだけど。使ってるうちにはげてきちゃうことあるんだ。メガネかけたまま風呂に入ったりしてるから…余計はげやすいんじゃないかな?」
オレが何の気なしにそう答えて、剥げた場所以外綺麗に磨かれたメガネをかけると、
「…コーティング……風呂のせい……」
榎本はそう呟いてこの世の終わりのような顔をしていた。
「……そんな気にすることじゃないよ。別に困ってないからこのままでもいいし…ダメでもレンズだけ取り換えれば済むし。あ、でも結構長く使ってるからそろそろ買い換えてもいいかもな」
そう言うと榎本は途端にぱぁっと目を輝かせ、
「メガネ屋…!そうだ、メガネ屋へ行こう!!」と大声で叫んだ。
榎本の表情になんか嫌な予感しかなかったが、榎本のことだからコーティングのはげたレンズをこのままだなんて許さないだろうし、仕方なく一緒へメガネ屋へ行くことにした。
そわそわする榎本とともに店へ着き、自動ドアをくぐる。
すると急に榎本が視界から消えたので「え?」と思って振り返ると、榎本は入り口の前で立ち止まり、胸に手を当てて深呼吸をしていた。
そんな榎本にオレがかける言葉などなく、オレは遠い目をして1人先に入店した。
「いらっしゃいませー」
「いらしゃいませー」
店内にはオレ以外に店員と客が3人ずついた。
オレは店員に話しかけられるのが苦手なので、目線を合わさないようにしながらまずは安めのコーナーを物色。
すると、榎本がようやく入店したのだろう。入店の音がした後に、オレが入った時よりもワントーン高い女性店員の「いらっしゃいませー」が聞こえ、若い女性店員が入口の方へ寄っていくのが見えた。
チラッと横目で入口の方を見ると、榎本は若干涙目で、感極まったような顔をして突っ立っていた。
そんな榎本にオレは若干引いたが、女性店員はひるむことなく榎本に話しかけている。
「どんな眼鏡をお探しですかー?」
「……っ」
しかし榎本は女性店員の言葉など耳に入らないようで、ゆっくりと周りを見回したのちにくわっ!!!と目を見開いてメガネの元へと駆け寄り、震える両手で大事そうに1つの眼鏡を手に取った。
そしてそれを持ったまままた周りを見回してはくわ!!!っと目を見開いて別のメガネに駆け寄っては手に取っていた。
取り敢えず今のところ榎本は大人しくはしているので、一旦そんな榎本からは目を外して、自分もメガネ選びに戻る。
安いコーナーだけでなく他の場所もフラフラと物色し、ぱっとだけど、だいたい一通り見終わった。
しかしオレが「いいなー」と思うフレームは若干高くて、安いものは…悪くはないんだけど何かイマイチというか、自分の好みのものがなかった。
(……やっぱり、レンズだけ変えようかな)
そう思って店員さんを探すと、若い女子店員はまだ引いていなかったようで、榎本のそばにくっついていた。
他の店員さんは他のお客さんの対応をしていたので、仕方なく榎本の方へと向かう。
するとオレを視界に入れた榎本がバッとオレへと振り返り、
「これ…これをかけてくれ…!!」とわなわなメガネを差し出してきた。
「………」
「………」
差し出されたまま一向に下げられないその手に、しかたなくメガネをかけ替えると
「……っ」
榎本の息の飲む音が聞こえた。
「つ、次これ!」
また差し出され、またかけ替える。
「っ!次これ!!」
そうやって何度かかけ替えたのちに、榎本はわなわなと震えて泣きそうになりながら高らかとこう言った。
「小鳥遊…!お前、最高だよ…!!!!」
「……」
「……」
これにはさすがの女性店員も引いたようで、固まった笑顔を張り付けたまま、ゆっくりと後ろへと去って行った。
その後レンズだけ取り換えると言ったオレに榎本は納得せず、
結局オレは自分の金でレンズを取り換えて、それとは別に榎本の気に入ったメガネを予備メガネとして榎本からプレゼントされることになった。
榎本の買った新しいメガネは保証期間が半年あるからレンズの取り換えはその間無料でできると説明されたが、オレは度が変わろうがコーティングが剥げようが、もう2度とこの店にはこれないと思った。
榎本は予備でいいと言ったが、せっかくプレゼントされたので、家に帰ってから榎本がくれたメガネをかけてみる。
黒に近い紺色でマットなそのメガネは、自分では進んで買わないタイプのメガネだったが、流石榎本が選んだだけあるというか…初めてかけたとは思えないほどすごくオレにしっくりしていた。
(確かこれ、安いコーナーにはなかったから…結構いい値段したんだろうな…)
そう思って申し訳なく榎本を見ると、
「…やっぱり、すげー似合う。すっごい好き」
榎本はとろけるような甘い顔で、眼鏡の縁をそっとなぞった。
(好きってメガネ?オレ?どっち…??)
まぁ今日はメガネでもいいけど…メガネをかけたオレってことだといいな…
そんな風にぼんやり思っていると、榎本に肩をぐっと押され、後ろへ押し倒される。
「…んっ」
ちゅ、ちゅ…
メガネや頬への浅いキスから始まり、だんだんとキスが深くなっていく中、するりとTシャツの間から手が侵入し、わき腹や胸のあたりを優しく撫でられる。
オレもされるだけじゃなくて、榎本をまさぐりながら必死にキスを返していると、Tシャツの下にあった榎本の手が一旦引き抜かれてオレの顔へと伸びていき、
すっ…とメガネをはずしたかと思うと、はずしたメガネをぽんっとベッドサイドの棚の上に置いた。
「…はずすの?」
オレはてっきり、榎本は新しいメガネに燃えたのだと思ってたから意外に思ったのだが、
榎本は裸眼のオレに見えるくらい顔を近づけてからにっこり笑い、
「…オレはメガネなくても小鳥遊のことすげー好きだもん」
そう言ってちゅっとまた軽くオレの唇に触れた。
オレはバカみたいに胸がきゅんってなって、嬉しくて泣きそうになって。ぎゅうっと榎本に抱き付いた。
…でもその言葉にはまだ続きがあったようで、榎本はぎゅっとオレを抱き返しながらも、こう付け足した。
「…それにさ、メガネに見られてると思うと、すげぇ燃える」
「………………」
ちゅ…ちゅ…
「………………………………」
「…?どうした、小鳥遊?」
「…榎本……」
榎本、お前はそれで燃えるかもしれないが…
悪いがお前のその一言で、オレは完全に
「……萎えた。」
「えぇ!?」
終 2015.5.27
(榎本が攻めか襲い受けかはご想像にお任せします)
メガネは顔の一部じゃない 蜜缶(みかん) @junkxjunkie
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