17 真実

 ゴールドシュテイン博士が所長室で今後の予定を確認していると、ノックの音が聞こえる。

「入りたまえ」

 すると、助手の一人が部屋に入り、振り向いた博士と顔を合わせる。

「彼らは安全に帰ったかね?」

 博士が助手に訊ねると、黒髪の助手が答える。

「はい。多少時間はかかると思いますが、明後日には、日本の地方空港に到着するでしょう」

「そうか、ご苦労だったな」

 博士の労いの言葉に助手は首肯したが、同時に、不安げな表情も浮かべる。

「何か気になるのかね?」

「いつも思うことですが、彼らは本当に信じたのでしょうか?」

 すると、一瞬の間の後、博士が答える。

「さて、どうだろうな。余りにも荒唐無稽な話だ」

「しかし、それでは……」

「われわれの常識で考えれば、五千人の赤子と五千人の幼児がいれば、臓器移植の需要は満たせる。まあ、幼児の肝臓では最低五つはないと成人には足りないという事実を棚上げにすればだが……。また、仮に臓器移植に失敗しても、その事実はなかったことにできる。それが組織量というものだ。だが、しかし、我々の常識であって、彼らのではない」

「なるほど、確かにそうかもしれません」

 博士の言葉を噛み締め、助手が呟く。すると、それに返すように博士が尋ねる。

「さて、明日のパーティー用のアドレナリン・リッチの新鮮血は供給可能になったかね?」

「はい、その場で供給できるように手配済みです」

「よろしい。次に、赤ん坊工場から逃げ出した警備員の追跡と始末はどうなった?」

「警備員の居場所は確定しました。彼はまだ生きていますが、二時間後には灰になっているでしょう」

「そうか、いつも通りの仕事の速さだな」」

 いうと、博士は顎に手を当ててぼやく。

「しかし、わざわざ元警官を高級で雇ったのに、まさか、あの程度のストレスに負けるとは……」

「いや、それは彼だけの問題でしょう。他の元警官たちは現状に満足しています」

「そうか、まあ、それならば良いが……。だが、万が一のことがないように、監視の強化は継続してくれ」

「わかりました。……では、これから、ダビデ施設のメンテナンスを開始します」

「ああ、その報告来たのだったな。わかった。くれぐれもぼろが出ないようにお願いするよ。……ちなみに、次の訪問者は十一日後の予定だ」

「了解しました」

 博士のその言葉を聞き、助手が首肯き、所長室を去る。

「そろそろ空気を入れ替えるか」

 博士がそう呟き、三重のガラス戸を開けると、外の夜が迫ってくる。

 その後、ゴールドシュテイン博士は夜空に響くラッパ音を聞いた気がしたが、しかし、気のせいだと思い直した。

 後には、今後の計画に狂いが生じないように職務に専念するゴールドシュテイン博士の姿だけが残された。(了)

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奇妙な復帰、そして…… り(PN) @ritsune_hayasuki

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