第14話 あれがアマさんの子供たちかい
突然アマが言った。
(自分で何か変だと気がつかないの?)
アマが自分の中に入り込んだ事で、何か変わった
のかとの幻十郎の問いかけに、アマが笑う。
「というと?」
幻十郎が首をひねる。
アマの言ってる意味が解せない。
(お腹のまわり触ってみて)
「お腹・・て・・あれ、そういえば全然痛くな
いよな」
生死を彷徨う腹に刺された一撃の突き。
常磐津の師匠に治療されたとはいえ、よく考えれ
ばこんなふうに歩き回れるはずがない。
先ほどは、道場で、立ち回りまでした。
傷口に手を当ててみると痛みが全然感じられない。
(全快してるのよ!)
「嘘だろ・・なんで?!」
思わず大声をあげた幻十郎だったが、確かに治っ
ている。
試しに拳で傷口あたりを叩いてみても、痛みは全
然ない。
「ガマの油って本当にあったんだ」
感心してみせると
(ちょいと指先切ってみると、効果がわかるわ
よ)
剣を少し抜き、指先を這わせてみた。
うっすらと血の線が走る。
ピリリと痛みが走った。
しかし、二三度傷口をもんでいると、傷口は瞬く
間に無くなってしまった。
「す・・凄い。不死身か私は?」
(勘違いしちゃいけないよ。心の臓つかれたら
、さすがにガマの油の効力も効かないから)
「それにしても、すごい。で、アマさん、お前さ
ん、私がアマさんの子供を踏みそうになって
やむなく、私を呪殺そうとしたと、さっき言
ったよな」
(それがどうしたというのさ、我が子を助けよ
うとするのがいけないとでも言うのかい)
「そうじゃないさ。アマさんが私の中に入り込
んでしまった今、アマさんの子供たちは大丈
夫かって、それを心配してるんだよ」
頭の中が、妙に湿っぽくなってきた。
「おいおい、アマさん、お前さんまさか、泣い
てんじゃないだろうな」
(いや・・ね。言われるまですっかり子供達の
事忘れてたわ、私。子供達のこと思い出し
たら急に悲しくなってきちゃってね)
やっぱ、泣いていたんだ。
「なあ、アマさんほら、あそこの茂み、ちょい
と見てみないかい」
(なんだよ、、あ・・あ・・あれは・・)
いつの間にか、幻十郎達は、アマが幻十郎の中に
入り込んだ場所に来ていた。
笠岡の屋敷に行く途中にこの場所がある事に気づ
きフト寄ってみる気になったのだ。
蛙が三匹草むらの中に潜んでいた。
一匹は少し大ぶり、残りの二匹は少し小ぶり。
大ぶりの蛙はじっとしたまま天を仰いで、微動も
しない。
その大蛙を取り囲んで小さな蛙が、時折ぴょんぴ
ょんはねている。
「あれは、アマさんの子供たちかい」
(そうだよう・・そうだよう・・)
「あのじっとしてるのは、じゃあ、アマさんの
脱殻なんだ」
(嫌な言い方をするね・・脱殻だなんて)
幻十郎は、蛙達に近づいた。
子蛙達は幻十郎の気配に驚いたのだろう、どこか
に隠れてしまった。
続く
童話転生奇談(中断中) fuura @fuura0925
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