第13話 驚いたよこの旦那色気より食い気だよ

怒ったみさとは、幻十郎が帰る時にも姿を現さな

かった。


世吉が、うろたえて、しきりに幻十郎に頭を下げ

て詫びてきたが・・


実際の話、


なぜ急にみさとが怒ったのか今一つ、幻十郎には

理由がわからなかったが、とにかくみさとが怒っ

ている事は、なんとなくわかった。


女は、扱いにくい。

幻十郎の偽らざる気持ちだ。


道場をいとまし、懐に両手をつっこみ、蛙のアマ

とまた話し始めた。


「わかるか、アマさんには」


(なにが?)


「どうしてみさとさんが怒ってるのか。アマさ

 んもメス・・いや女ならわかるんじゃないの

 ですか」


(呆れた。本当になんで怒ったのかわからない

 の?)


「はい」


(何を偉そうに言いきってるのよ。普通の人な

 ら誰だってわかるはずよ)


「じゃぁ・・私は普通の人じゃないんだ」


(呆れた、この人、居直っていますよ)


「教えてくださいよ。アマさん」


(あの娘、あんたに惚れてるのよ)


「惚れてる相手に、縁談の話なんかして、どう

 する気なんでしょうか?」


(あんたみたいな男を朴念仁ぼくねんじんていうんですよ)


「朴念仁ですか・・そうですか。私は朴念仁で

 すか」


頭を掻く幻十郎にさらなる追い打ち。


(腕は立ちそうだが、女心はさっぱりだね。旦

 那は)


みさとに好かれているのは思い当る事がある。


もともと、道場を去るきっかけが、みさとなのだ

が・・ま・今となっては・・。


過去を断ち切ったのだから・・。


「ところでアマさん」


(なんです?)


「あの跳躍、あれは、あなたのおかげで身につ

 いた技なんでしょうね」


立合いの時、自分でも驚くほどの跳躍、どうやら

、アマが自分の中に入ってきた事に原因があるよ

うだ。


(当然でしょ)


みさととの話題を急に止めたのが気に入らないの

か、つっけんどんな答え方だ。


「まだ何か私が驚くような力、あるんでしょう

 かね」


(どうして?)


「だって、そうでしょう。この先私が、蛙・・

 じゃない・・アマさんの食べる物しか食べら

 れなくなると、困りますから」


(呆れた、色気より食い気だ。この旦那、心配

 しなくていいですよ。嗜好は変わりませんか

 ら・・ただ・・)


「ただ?ただなんなんですか」


(あ・・いいの。なんでもないの)


どうも、歯切れが悪い。

なにかまだ隠している事があると、感ずいてはい

た幻十郎だが、あまり深くは詮索しなかった。


なんにしても、今は、他に考えなくてはいけない

事がある。


まずは目先の問題から解決していく必要がある。

        続く

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