第12話 蛙のアマしゃしゃりでる

「しからばお聞きしますが縁談のお相手は誰で

 ?」


「お旗本の赤道様とお聞きしましたが」


赤道・・聞いた事がない。

聞いた事がない以上あれこれ言う事も出来ない。


「存ぜぬお方で?相手がわからぬ・・」


幻十郎の言葉を遮ると


「そんな事をお尋ねしてるのではありません。

 縁談そのものについて、幻十郎様がどう思わ

 れているのか、それを聞いているのです」


「私が?」


訝しげな表情の幻十郎に、みさとが苛立った。


「もう、いいです!このわからずや、もういいです」


突然立ち上がると、そのまま部屋を出て行ってし

まった。


相変わらず、短気なお方だ。


苦笑する幻十郎の頭の中で


(あ・あ怒らせちゃった。・・私は知らないよ)


と声が響く。


「お前は誰だ」


(私はアマよ)


「アマ?」


幻十郎は、拳で自分の頭を叩いた。

声は間違いなく幻十郎の頭の中から響いてくる。


「アマとやらは、どこにいるんだ」


(どうやらあなたの頭の中にいるみたい)


「なんで?」


(私、蛙なの)


「かえる?」


おかしな状態だ。

はたから見れば、幻十郎が一人喋りしているよう

に見える。


幻十郎は自分の頭に喋っているのだが・・。


聞いてみればこうだ。


幻十郎が襲われた晩、蛙を踏みそうになった時、

ちょうどアマもそこに居合わせたという。


子供達に危ないから気をつけろと注意していたの

に、鈍い子供が、あわや踏まれそうになったとき

、アマが、幻十郎を呪い殺そうとしたという。


「蛙は人間を呪殺す事が出来るのかと!」驚く幻

十郎に、アマは「私は特別な蛙なの」と言い捨て

、先を続けた。


丁度アマが呪いの呪文をかけ終わったとき、幻十

郎も子蛙に気が付き、足をずらしたのが見えた。


慌ててアマも呪いを止めようとしたのだが、丁度

運悪く幻十郎が刺され、そのせいか、アマの魂が

呪いと一緒に幻十郎の体の中に取り込まれてしま

ったのだという。


にわかに信じがたい話だが、頭の中からアマの声

が聞こえてくるのも事実だ。


「じゃあ・アマさんは蛙の魂てことか?」


(そうゆうことになりますよね)


「複雑な気分だな」


(私の方がもっと複雑ですよ)


アマの拗ねた声が、妙にいじらしい。


「で、アマさんいつまで私の中にいるつもりで?」


(そんな事、私がしるわけないでしょ。出られ

 るんだったら、今すぐでも出たいぐらいなん

 だから)


「なぜ、蛙のアマさんが人間の言葉がわかるん

 ですか」


(言ったでしょ。私は特別なんだって)


「特別ねえ・・」


幻十郎は、髷を結ってない長い髪を掻きあげた。

       続く

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