【詩】ピエロ恐怖症
悠月
ピエロ恐怖症
詩人は年老いて死のうとしていた
人工呼吸器の最期の夢の中
彼はまだ彼の詩を探していた
もう老境に差し掛かっても
数十年前は鮮烈だった彼のスタイルで
詩人はいまも無邪気に詩を詠んだ
彼にはその詩しか詠めなかった
ある年あるマンションのクリスマスの夜
若者たちのクリスマスパーティーに
ひょうきん者がサンタの格好で乗り込んでみたが
もうみんな帰ってしまったあとで
疲れた家主と彼の親友が
反省会めいた日本酒を酌み交わしていた
ほんとうはパーティーはイブに行われて
十四、五人がぞろぞろとやってきて帰って
荒れ放題の部屋と酒臭さの空気と
うず高く積まれたケーキやピザやチキンやの
赤く脂汚れた臭い空き箱と
手みやげを持って立ち尽くすサンタクロースと
笑顔が死に固まってゆく白い顔面に
「まあ座れって」
衣装を脱いで畳んでいる背中ぞ悲しき
そんな老詩人の陳腐な旧い詩を
もう批判してくれる者さえいない
「これぞ彼」「老境の極み」と飾り言葉で
その意味は ハヤクシネ ハヤクシネ ハヤクシネ
ハヤクシネ もう終わった 化石 老害
介護者の笑顔こそ道化師に似て
底知れぬ詩人のピエロ恐怖症
下水の底に引き摺り込まれて
赤髪は逆立って抜け落ちてゆく
それでも詩人は老衰の中で
「最後の大詩人」を演じねばならず
長年の仮面を外すことも出来ず
詩人は詩人であるほどに言葉を喪って
詩人であるゆえに詩を手放した
かなしきピエロの一生である
【詩】ピエロ恐怖症 悠月 @yuzuki1523
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