【詩】雲母虫の死
悠月
【詩】雲母虫の死
銀の
そいつが食べた本のいろ
インクのいろや物語のいろ
体に宿った千の詩のいろ
銀の星色、インクの藍色
紙魚と呼ぶにはあまりに可愛しい
真夜中の黒、宇宙の翠
体はさびしさで膨れている
月夜の窓辺に、雲母虫が一ぴき
星になれなかったかなしみにないている
机に齧りつき 本に囲まれて
一ぴきの雲母虫がないている
その文字の狭間で、もう誰もいないのに
インクをしたたらせ雲母虫がないている
その声は誰にも届きやしないで
ただもう黄ばんでくずおれる紙のなかで
きゅぅ、とさびしい声をあげている
一ぴきの雲母虫の腹腔のなかには
生まれなかった物語が詰まっている
触角や手脚はもう灰になって
読まれない物語を抱えたままで
もう一歩さえ歩んでは行かれない
生まれなかった夢をかかえて
雲母虫は一ぴきで死のうとしている
【詩】雲母虫の死 悠月 @yuzuki1523
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