異世界小説を書こう!
さいたまにすと
第1話 兼 最終話
異世界転生ものが流行りですね。
せっかくだから、無名のネット物書きである私もいっちょやってみようかと思いまして。
いくつか人気作を読んでみた上で、これらを超える作品を書くために自分にできる事は何だろうと悩みに悩んで、思い付いたのは取材活動。
お前何を取材するんだよ、現実に転生者なんているわけ無いだろう、とお思いでしょうが、私はやりました。見つけました。転生者です。探せばいるもんですねぇ。
「カクヨムと申します」
「この度はお時間を頂きましてありがとうございます」
「いえ、とんでもない。私の話を聞いてくださるだけでも嬉しいですよ」
「それは有り難いです。早速ですが、カクヨムさんは転生されたということですが」
「はい。前世で交通事故に遭ったのですが、目が覚めたら今の姿になってましてね」
近所のコメダ珈琲店にて始まったインタビュー。カクヨムさんという方は見た目は小学2年生くらいの男の子ですが、口調は異様にしっかりしています。緊張します。
「それはやはりトラック等に轢かれてしまったのでしょうか?」
「歩いているところにトラックが突っ込んできたのを避けた、と思ったら電柱が折れて下敷きになりまして、もう痛いのなんの。それでフッと意識が途切れて次の瞬間にはこの身体ですよ」
「それはお辛い体験を。というかトラックとか電柱とかがある世界だったんですね」
「ええ、今の世界にあるものは前世でもだいたいありました。むしろ前世にあって現世に無いものをお話しする方がいいですね?」
「おっ、是非お願いします」
「まず前世では人類の言語はほぼ日本語で統一されていて、顔は白人風でした」
「なるほど」
「それから人類のほかに亜人という種族がいましてね、耳が顔の横じゃなくて頭の上に」
「おっ、それは猫耳とかですか」
「はい、あと尻尾とか」
「いいですねー」
「おっぱいが4つ以上あったり」
「それはちょっと」
「で、そういう亜人さんは戦闘能力が高いので、街にちょくちょく出没する魔物を倒して生計を立てるわけです」
「物騒ですねー」
「そうでもないですよ、現世も野生動物が街に出てきちゃって駆除したりするでしょう」
「急にスケールダウンした」
「ほらクマとかイノシシとか、あれが溶岩で出来てたり青酸カリを撒き散らす程度と思えば」
「ダウンしてなかった!」
うーむ、異世界というのはなかなか激しいところです。一言も聞き漏らせません。
「それで、魔物はどうやって倒すんですか?」
「近付くと危険ですからね、銃や魔法が基本です」
「おっ、魔法があったんですか。詳しくお聞きしたいです」
「まず魔法を使うには呪文が必要です。精神集中のためなので決まった文言は特にありませんが」
「やはりカッコいい呪文を唱えたりするんでしょうか」
「決め台詞のような呪文を使う人もいれば、必ず最後に『おっぱい!』を付ける人もいましたね」
「それで集中が保てたんですかね……で、魔法で敵を倒すと」
「倒しますと貴重な部位が取れるので、それを売ったり役所に提出するんです」
「役所に?」
「正確には世界的なハンターの組織なんですが、窓口の対応があまりにも杓子定規なので皆『役所』と呼んでました」
「あー、現場に出ない組織ってそうなっちゃうんですねー」
私たちの住む世界にも通じる常識が沢山あることに驚きを禁じ得ません。大変勉強になります。
「自分のことを話していなかったですね。私はその役所から来る鑑定依頼を受けて、魔物のアイテムの鑑定が仕事だったんです」
「そうですか、例えばどんな品物が来るんでしょうか?」
「先ほどの溶岩クマですと、肝が人気なのでよく鑑定しました」
「それは何に使うものですか」
「肝は薬用ですね。男のアレに効くんですよ」
「アレですか……失礼ですがカクヨムさんは前世ではおモテに?」
「いや、妻と娘がいたのであまりそっち方面は大っぴらにできませんで」
「ってことは裏ではこっそりと」
「ははは、まあ今はもうバレても構いませんけどね」
「確かに」
取材と銘打ちつつ、だんだん打ち解けてきた私とカクヨムさん。しかし楽しい時間はすぐに終わりを迎えてしまいます。
なぜなら現世のカクヨムさんは小学生。暗くなる前に家に帰らねばなりません。
「今日はためになる話を本当にありがとうございました」
「いえ、何だか脱線ばかりで。もっと大事なところをお話しすべきでした」
「ではまたお話を伺う機会を頂けますか?」
「はい、また来週でも同じ時間でどうでしょう?」
「ありがとうございます。また宜しくお願いします」
何という僥倖。無理そうなお願いでも言ってみるものです。
この知識をもってすれば、私の異世界転生小説はきっと人気爆発間違いなしです。
「そうだ、一つ大事なことを忘れていました。カクヨムさんの前世でのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ナロウと申します」
異世界小説を書こう! さいたまにすと @saitamanist
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