5 脱出計画

「まずは俺達だ。ここから脱出しないと」


「そうだね。しかし、ここがフィロ=レ=バクーナだというなら、容易な事ではない」


「なんせ砦だからね。どうにかしないと」


サラの表情が一変、他人事のようなお気楽さが消え、一瞬にして引き締まる。


「外までの道順は覚えてるけれど。出たとしても壁に囲まれてるし、正攻法じゃあ無理よね」


「壁の外には堀があるけど、空堀で。スパイクも疎らだったからロープで降りれば……。でも、壁はザルパニなんかの防壁より高かった印象があるな」


「妙に詳しいじゃん?」


「メレイデンで一泊して。そん時アレッサと見て回ったんだ」


「それじゃあ、ロープを見つけて、防壁の胸墻きょうしょうの所まで上がれれば脱出はできるのね」


「気付かれずに、ってのを忘れてる。それが一番難しい」


歩けない老人を連れての隠密行動など、至難の業だ。逃げ出したのが見つかれば、最悪、矢を射かけられるだろうし。なんとか外へ逃げおおせても、馬に追われては逃げきれようもない。


「でも、やるしかないでしょうよ」


そう、サラには時間制限がある。遺跡の情報を調べに行った兵士がいつ戻るか分からない。既に2日使っているし、時間を無駄には出来なかった。


「少し良いかな」


お手伝いしようと、フランクが小さく手をあげた。亮とサラの影に入って、見張りからの視線を遮り。小さな声で詠唱を始める。

狙いを察した2人は、やや大きめの声で世間話をして、詠唱を聴かれぬようにかき消す。

フランクが魔法を解き放ち、黙って目をつぶること数分。額に汗を浮かべ、大きく息を吐いた。


「《生物探知》を広域でかけてみた。かなりの人数でこたえたよ」


汗を拭うと、雑紙を一枚とりだし。円を四つ、四角に配置して描く。


「どうやら四つの建物で構成されているようだ。人の塊がこのように四つ離れて感じられた」


高さの反応の高さに段階が見られ、それで階層もわかる。上に2段、下に1段。屋上階があると見て、3階建ての可能性が高い。

外壁の胸墻は、兵士が見回りをし。その要所に見張り塔が配置されている。


「我々のいる建物を北とするなら、東の建物。この建物は、他に比べて人数が圧倒的に少ない。他の10分の1ほどだった」


「そっちに抜けられれば、見つかる危険が減るな」


「そうでもないわよ」


サラが首を振って否定する。


「たぶん建物自体が繋がってるわけじゃないでしょうし。渡り廊下があったとしても、普通は兵のひとりも置いておくものよ」


真っ直ぐな通路を隠れて進むなど出来ようもない。もし、渡り廊下が無いというなら、一旦外に出ることになり。それならば、もう一度建物に入る意味なども無い。


「意味なしか……」


「何かの役には立つかもしれないでしょ」


「それとだね」


フランクが紙の上の4つの円に、線を書き足し。X字と四角でそれぞれの円同士を繋ぐ。


「地下道があるようで、ここにはかなりの大人数がいるようだった」


それぞれに繋がる地下道をもった、四つの建物で構成されている砦。亮とサラは同時に気がつき、互いの顔を見た。


「フィロ=レ=ベルナと同じ」


以前潜った遺跡と構造が同じようだ。ひょっとしたら、リベリア4砦はすべて基本設計が同じなのかもしれない。


「ここ地下にはかなりの人数が常駐しているようだ。数百人はゆうにいたと思う」


人間が集中し過ぎていて。魔法で広域を見た場合、反応が重なって正確な状況が見えないそうだ。

亮はフィロ=レ=ベルナの地下に、数百人の人間がひしめき合うのを想像する。記憶の中では、百人程度なら余裕だろう。


「もう少ししたら、もう一度生物探知をかけてみるよ」


回数をかけ、地道に情報を集めると言うことだ。


窓がない部屋に押し込められ、いつしか時間の感覚が無くなる。

入り口を見張る兵士は何度も入れ代わり。今もまた、新しい見張りがついて。同時に別の兵士が食事を持って現れた。


「おや、君は?」


兵士が声をあげ、亮もその人物を知っている事に気がつく。その兵士は、以前砦の外を案内をしてもらった、気のいい門番だった。


「どうも……」


バツが悪く、小さく挨拶を返す。


「どうしてここに?」


「そいつ、ウィザードだぜ」


見張りの兵士に教えられると、兵士の表情がみるみるうちに険しくなった。


「あの、ですね」


「近付くな!」


一歩踏み出す亮を制し、兵士は食事を乱雑に置いて立ち去っていった。


「大丈夫?」


亮の前にスープを置いて、サラがその顔を覗き込む。


「まぁね。ウィザードの扱いはこんなものだよな」


そうは言ったが。その内心では、かなりのショックを受けていた。

あの気のよかったおじさんの豹変ぶりに。ウィザードへの世の中の風当たりを痛感させられる。こんな扱いを小さい頃から受けていれば、ステラがよく真っ当に育ったと言ったのも、頷けた。


出された食事はこれで5度目。


感覚的に1日1食では無いと思え。ここに来て2、3日といった所だろう。

サラのタイムリミットを考えるとそろそろ動かないとまずい。

フランクの魔法で内部の様子をだいぶ知る事が出来たが。細部までは分からず、最終的には状況を見て判断するしかない。


つまりは、やってみなくちゃ分からないということ。ならば、あまり時間をかけて調べても仕方がないと腹を括った。

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精霊界の異端演者(ノイズメーカー)・終幕 飾絹羽鳥 @AkaiKo

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