題材や題材の扱いかたから作者の感性(センス)が伺えます。悪い言い方ですが、ほかの人が書いたら軽んじてしまったり、重すぎてしまうかと…丁度いい〝明るさ〟でかつ読み手の心に届く物語です。ぜひ読んでみてください
人間の生活が、どれほど常識的に見えても、一皮むけばその下には、残虐性とか狂気とかがある。それを、ありありと目の前に提示してくれる、短編小説集。楽しい話ではないですが、惹きつけられるものがありました。設定なども千差万別。ただ、根底に流れる雰囲気――色があって、それが短編集全体を通しての雰囲気を醸し出しています。
最初はなんてことない物語の終わりかと思いました。よくあるハッピーエンド、よくある終焉の形。ですが突如勇者が不穏な影に襲われて話が一気に展開します。背筋がぞくりとしました。これぞ日向さんの小説です。いろいろ語りたいですが、なにを言ってもネタバレになってしまうのでここまでにしておきます。ぜひぜひ多くの方に読んでいただいて、驚いてほしいです。
話を読み終えれば、心のどこかではっとする。そんなスパイスが隠されている。どこにはっとして何を思うかは、読んだ人次第。読んだ人の数だけ、この物語は続いていく。そんなお話が、この掌編集には詰まっている。
日々を生きる中でふと覚える小さな違和感をうまく拾い上げて、さっぱりとしたテイストのお話に仕立てている。素材を生かした、ほろ苦い大人な味。
そして私は、明日も生きているのかしら?例えば生と死のように、あまりにも近過ぎて見えない、見えていない、日常。その日常を、問う物語たちです。あなたは、日常を、認識していますか?
平和と思っていた次の瞬間に絶望はやってくる。自分には関係ないと思っている人の隣に絶望は控えている。絶望に陥った時こそ人の本質が見えてくる。だからこそ読むべき話と言える。ただの暗い話で終わらない、日向日影の真骨頂。特とご覧あれ。
テレビやネットや新聞で見るニュースの片隅にこの物語へと繋がる事実の断片がありはしないかと、ある種の恐怖を持って見てしまうことがあります。人間が生きていること、人間が生きていくために必要なこととして生じたはずの社会が今、人間が生きていける仕組みではなくなってきていること。それをこの身で薄々、あるいはひしひしと感じているからなのでしょうか。いつかフィクションが現実になったとき、せめてそれがかつてフィクションであったことを忘れないためにこの作品が残り続けていくことを願います。
当たり前に過ごしているこの世界の地面には、踏み抜いてしまったら最後、もう二度と戻れなくなる罅が、あちこちに入っているようです。それを描き出し突きつける作品たちです。罅を割ってしまった人々の物語、と思っていたら、それは案外自分のことだったり、するのかもしれません。だから事前の印象なしの真っ白な状態で、読んでいただきたいのです。