弱小将棋プロのもとに、お金のためにプロになりたいという少女が弟子入りを志願してきたところから、お話ははじまります。
プロへの執念を燃やす少女弟子と、誰からも注目されなかった弱小師匠は、ささえあい、少しずつ前へ……
主人公の師弟コンビが秀逸。
たとえプロになっても、一生タイトル戦にも無関係な人もいれば、まさしく将棋の神様に愛されたような天才もいます。
だけど、プロとなった以上、彼らはあの小さな将棋盤をはさんで、すべてを賭けるしあない。
主人公たちも、そんなたったひとつの勝ちや敗けに翻弄され、涙し、一喜一憂し、そしてまた次の対局に向かうのです。
その姿勢が、読んでいて背筋がのびるような清らかさでした。
秀作!
主人公の三東は、さっぱり勝てず、熱意も失いつつあるプロ棋士。そんな三東のところに、あるとき弟子入り志望の小汚い女の子、月子がやってくる。両親の借金を返すためにプロになりたいと語る月子を弟子として受け入れ、奇妙な共同生活が始まるのだが・・・。
将来の展望を持てない三東と、まともな生活さえしてこなかった月子。ひどく重苦しい雰囲気で始まる本作ですが、そこから光が差し込んでくる展開が美しい。人付き合いが苦痛で、世間知らずの月子。そんな彼女の弱さを支え、見守るうちに、どこか諦めていた三東の心にも変化が訪れます。やがて才能を見せ始める月子。師匠にして天才ならざる三東は、果たして勝ち越しを決めることができるのか。
凡人が天才にはなれなくても、きっと前へ進むことはできる。残酷なリアルさと希望を両方持ったよい物語でした。
プロ棋士ながら、四段昇格(プロ入り)時点で燃え尽きたようになり、無様に負けを重ねる三東。そんな彼の元へ月子というボロボロの少女がやって来る。
三東と同郷で、アマチュア棋士を父に持つ彼女は、その父が借金を抱えたせいで満足な生活もできず、プロ棋士になって金を稼ぎ借金を返したいと言う。連絡を取ろうとした彼女の親は夜逃げしていて、叩き出すわけにもいかず月子を養いながら同居生活を始める三東。
貧乏生活が長くてピザもパソコンもろくに知らない月子だが、将棋の腕は着実に上げていく。一方の三東は相変わらず勝てないが、その将棋はほんの少しずつ変わりつつあった。
いまだ存在しない女性のプロ棋士。それを目指す少女の物語ではあるが、主人公はその師匠である三東である点が特徴的。彼が覚醒したかのごとく活躍するわけではないのだけれど、自分を見失って漂うように生きる前半も、月子との生活を経験して何かを掴んでいく後半も、棋士としての描写にリアリティが感じられてどんどん読ませる。
二人の生活は偶然の出会いがもたらしたものであっても、そこから二人が選んだ人生はたぶん必然。そんなことを、最終話を読みながら思った。