おまけ・2016ホワイトデー

「……すげぇ変な臭いする」


19時近くに帰ってきた稜は、開口一番そう言って顔を顰めた。


「あ、おかえりー。久しぶりに料理作ったんだよね」

そう伝えると、稜は余計に顔を顰めた。


「…何でそんなことした。お前料理できないってわかってんだろ」

「まぁ…うん」


オレは料理が壊滅的にダメで。

そのおかげで大学進学と同時に稜と一緒に住めることになったのだから、自分がどれだけ料理がダメなのかわかっているつもりだ。


(…それでもお返ししたかったからさぁ…)


今年のバレンタインに稜にそっけなく渡されたチョコレート。

高級そうで美味しかったあれは…稜は言わなかったが、多分間違いなく稜の手作りだった。

…だからオレも、稜に愛情込めて何か作ってみたかったんだ。


(…けどその結果がこれだもんな)

出来上がった料理を見下ろして、思わずはぁっ…と溜息をこぼす。


べちゃっとお粥のようになったご飯に、具材もルーも焦げて異臭を放つカレー。

オレなりに頑張ったつもりなのだが、これは間違えなくお礼ではなくて罰ゲームレベルの代物だろう。

…こんなものを稜に食べさせることはできない。


「…変な臭いさせてごめん。オレがちゃんと自分で食べるから、稜は自分で作ったの食べなね。あ、冷蔵庫にケーキ買ってあるから後で好きなの食べて」


料理を失敗すると見越してケーキを買っておいたのは、やっぱり正解だったようだ。

ケーキがホワイトデーのお返しだということは、言葉にしないほうがいい気がしたのであえて言わなかった。


「……」


稜は返事をせずにこちらへ寄ってくると、いつもの定位置であるオレの向かいの席に腰を下ろした。


「……」

「……」


グイッ

「……あ!」


稜は向かいの席から手を伸ばすと、オレの前にあったカレーとスプーンを手前に引き寄せ、そのままスプーンでカレーを大きくすくって口の中へほうりこんだ。


「やめときなよ稜!絶対変な味するから!」

「……」


必死で止めるが、稜は吐き出そうとせず…

顔を歪めたまま、飲み込めないのか長らく咀嚼してから、ごっくんと大きな音で飲み込んだ。



「 ……くっそまずい。」


「…でしょ?」


そう言ったのに、稜は手を止めることなく…結局そのまま綺麗に最後まで食べきってくれた。



「…二度と勝手に作んなよ。食材がもったいない」

「…ごめん」

稜が食べてくれたからオレも自分の分を盛り直して食べてみたのだが…不味すぎてどうやっても最後まで食べきれなかった。

そんな不味い料理を最後まで食べきってくれた稜に感動しつつも、やっぱり作るべきではなかったと反省して俯いていると、


「…作るのは、オレといる時だけにしろ」

と言われたので、オレは堪らなく幸せな気持ちになった。




終 2016.3.16




「…で、どうしたらこんなことになるんだ」

「どうしてだろう?最初はね、隠し味にチョコレート入れてみたんだ。そしたら変な味になったから甘いの足したせいかなーと思って…じゃあ反対の辛いの足せばいいんじゃないかと思って一味足して。そしたら焦げてきたから水分足さなきゃと思って牛乳足して…それから…」

「…もういい。」


その後カレーが不味すぎたせいか、食後に食べたケーキが今までに感じたことのないほどに美味しく感じて。

稜と2人で感動した。

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