べすとふれんず
れなれな(水木レナ)
第1話べすとふれんど
春休みが終わって、散った桜の花弁がみんな片付けられて若葉が萌える桜野学園。
「な~! 春休み前に出された宿題、やってないと解けない公式バンバン出たよな?」
「始業式にテストってないわー」
と、ろくに勉強しない内部生がぼやいている。
「しっかし、一位から三位まで外部生とかないわー」
「一位はなに? ニーナ・アスハ? すっげ」
「購買部で売ってた学園内新聞では、一年のミスコン一位はニーナだって話だぜ」
「外部だろ? そのうちこっちのぬるま湯に染まるんじゃね?」
外部、というのは中高大とエスカレーター式のこの桜野学園に、何を思ったか、高等部に別の学校から入学してきた生徒のこと。
新教室はすでに内部生同士で、大なり小なりと仲良しグループができあがっており、外部生はなかなか肩身の狭い思いをしていた。
それが今、彼らの間ではその外部生である
天然茶髪の
出席番号一番、
「なんで勉強までできちゃうわけ? 顔だけ美人なら、成績では勝つ自信はあったのに」
荒谷は聞き逃さず、君ィ! と教室中に響き渡る声で示した。
「今時のクールビューティーは勉強だって一番できちゃうのさ!」
「ウッゼー」
と、
荒谷は教壇から飛び降りて、網谷の前まで言って、
「もう一度言ってみろ」
「おめーがウゼーって言ってんだよ。荒谷伸太郎」
「ならいい。ならいいんだよ。リオン~? だっけ」
と、急に態度を変えて、肩を叩いてくる。
顔をしかめる網谷。
「ウッゼ! 俺を呼び捨てにすんな。特に下の名前で。気にくわねーやつに呼ばれたかねーんだよ」
すると荒谷。
「おやおや、中等部からの持ち上がりがほとんどのこの桜野学園高等部で、他の中学からわざわざ受験なんたらいう面倒なものを経て、ようやくこの教室にいられる外部生が、一体誰のおかげで安穏としてられるんだ?」
網谷は、
「実力だよ。おまえがいくら学園長の孫だっていったってな……。おまえだって外部からだろ。しかもテストは底辺の癖して。名前が近いようで遠いなあ? 距離感アリアリ」
「チョーシこいてんじゃねーぞ、網谷」
「名前で呼ばないなら、勘弁してやらあ」
「きらきらネームはお母さんの趣味ですか~?」
周囲からしらけた笑いが漏れる。
「んっの野郎!」
「よしなよ、あんたたち」
「そういう君は、美人じゃない上に自慢の成績までニーナに劣る天音ユイちゃん」
「フルネームで呼ばないで」
「じゃあユイちゃん」
「網谷じゃないけど、うざくてムカつくわ」
「ひっかかるとこそこお~?」
「どうせ美人じゃないのは知ってるし、コネもなく成績だけで入学した外部生だもの」
「いさぎいいね~、僕、君のこと好きになりそう~」
「皮肉は結構よー。アラタニくんー?」
そのとき、教室中がざわめいた。
何を思ったか、明日葉が教室の掲示板の前により、テスト順位表に手をかけた。
クラスメイトの見ている前で、彼女はそれを引き破く。
彼女の一挙手一投足に全員、注目する。
教室の引き戸を開けて、立ち止まる明日葉。
「私も外部生だわ。試験が終わってまで、争うことなんてない」
明日葉は、放課後を待たずに、職員センターに呼び出された。
「教室のお知らせ表を破いたと聞いたが、どうした。辛いことでもあったのか?」
担任の
「先生、競争意識も向上には必要ですが、今のあのクラスでは、みんなの神経を逆なでしています」
「はあ、毎年のことで気が回らなくてな。今日はクラスの雰囲気が良かったのはウチのクラスだけだったと学年の先生に言われたよ。奇跡かと思う」
明日葉は続けた。
「それに答案用紙を返すとき、点数を読み上げるのも気分良くないです」
「学年一位のおまえがそんなことをいうなんてな」
「要は満点を取りさえすれば、だれでも一番なんですから、差を作り上げるより、全員が満点をとれるような授業をしてください」
「貴重な意見をありがとう」
「失礼いたします」
自前で淹れたインスタントコーヒーの湯気を眺めながら、井頭はこめかみを押さえる。非常勤講師の
「今の子、すごかったですねえ」
「入学早々人気者ですからねえ。とんでもないカリスマ少女ですよ」
参った、というようにぼやいてみせるが、うけもったクラスの雰囲気が悪くないと言われて、気を良くしている。
そうならないわけがない。
「これで、持ち上がり組も大人しくなるといいですけどね」
雲の紗でもかかっているのかと思うほど、空はうっすらぼやけて、だいぶ近い。
網谷は屋上でカツサンドにかぶりつきながら、隣でツナのランチパックを開けているユイに話しかける。
「俺さ、ニーナのこと、誤解してたかもしんないな」
「そう? どうしてよ」
「だって、あんなことするなんて」
「自分が目立ちたいだけよ」
「あれで、クラスの雰囲気変わったろ?」
「そりゃあ……」
「思うに、ちゃんと考えてるんだよ。その上でああいうことできちゃうんだよ、ニーナって」
「そんなこと言ったって、相変わらず外部は教室に居づらいじゃん。お昼も屋上で過ごしてるじゃん」
「何かいいよなあ……」
「聞いてる? 理音」
「なにを?」
「……友達ってなにかしら」
「そうだな。リビドーはアガペーの上位にあるらしいぜ」
ユイは端末機を取り出し、
「ちょっと待って、ググるから」
そう言ったあと、ユイは網谷の方へ、ランチパックの包袋を投げつけた。
「……リビドーは性衝動ってあるけど? これはあたしの気のせいなの? アガペーの足元にも及ばない、最低の概念だよ」
「間違えくらいあるさ。俺の言いたいのは友愛と神の愛には上下関係があるってこと」
「ちなみに、友情はフィリアってあるよ」
「こうさん、こうさん」
「だからあんた、いつもあたしより、成績下なのよ」
「なっ? 同点だったろ! 単なる名前順で並んだだけで、同列二位には違いなかったろ!」
「あたし、テストのない世界なら、友達出来ると思う」
「唯一の心の支えを無下に捨てるなよ……」
「だってさあ、漫画やアニメでは、努力、友情、勝利って掲げてさ。この世に努力はあっても友情はないわ」
「ついでに勝利の基準もあいまい……ってそれ某有名少年誌のスローガンじゃん、なんでおまえが知ってんの?」
「あんたがキヨスクで週に一回買ってるの見たもん。ラッシュ前の電車の中で読んじゃってから、学校近くのコンビニで捨ててるの、見たもん」
「これだから、付き合いが長いっていやだわー」
そこへ荒谷が来た。
「あ、ちょっとちょっと、そこのお二人」
気軽に声をかけてくる。
「あ、荒谷」
「ウゼエ……」
「なによ、なんのよう?」
「なんの用はないだろ? 用があるから声かけたんだよ」
「どんな用件?」
ユイが胸を張って前へ出ると、荒谷がにちゃっと笑った。
「そうそう、それが正しい尋ね方だよ。君たちヒーローショーに興味はある?」
「あるわけないじゃないの」
「ところがニーナはあるんだってさ。オレ、チケット持ってて、これ一枚で五人までいけるから、友人誘うって言ったらオーケーしてくれたんだよ」
「あんた、友達だけは腐るほどいるからねー」
「そりゃないよ。ニーナのヒミツ、知りたいくせに~」
「なによ。どうせ当日になってはぐれるくせに」
網谷がついでにぼそっと呟く。
「ニーナがドタキャンって方もアリだろ」
「そりゃあないね。弟二人連れてくるっつってたから、多分そいつら喜ばせたいんだろ。片っぽう、小学生ってたし」
呆れたものいいに、網谷がジュッとカフェオレのパックを吸い上げる。
「もう片っぽうは?」
「中一だって~来んなっつんだよな~」
「ありえなーい。中学生でヒーローショー?」
「別にいいだろ~?」
「幼稚だわー」
「そうかな~? きょうだい水いらず、いいと思うよ~」
「おまえがいたら、水いらず台無しだろ?」
網谷のツッコミにもこたえない荒谷。
「だから、おまえと君のどちらかを誘いたいんだよ」
「あたしいいよ。行く」
ぎょっとした網谷だったが、当日かくれて見に行った。
場所はデパートの屋上。
動きの悪い怪人を、主に紅いスーツのヒーローが倒していくという筋書きだ。
音楽が変わる。
甲高い、本気の悲鳴。
「お姉ちゃん!」
凸凹コンビが舞台に上がり、わあわあ言いながら、ピコピコハンマーで怪人を殴り始めた。
「どうしたんだ?」
網谷がうっかり姿を見せると、荒谷がポップコーンを持ってやってきた。
「ああ、お決まりの人さらいシーンだよ。大抵はヤラセなんだけど。……って、なんでアスハちゃんがいないんだ!」
「お姉ちゃん! お姉ちゃーん!」
小柄な少年が泣きながら、スーツアクターに噛み付いていった。もう少し背の高い少年は、闇雲に拳を当てに行っている。
スタッフが✖印を出しながら、麻袋を解いた。すると、中から明日葉が出てきた。それを見て、泣いてすがる少年たち。
「なんか、シスコンって感じ?」
荒谷がゲンナリと言った。
「どうしよう。荒谷くん、どうしたら……」
おろおろと見上げてくる明日葉に、荒谷は満更でもない顔をしている。
「坊や達、えらいなあ。お姉さん思いだなあ」
棒読みのセリフに、弟くん二人ははっとする。荒谷の顔を凝視している。
「そんな君たちにご褒美と、お願いだ」
「なに?」
「なんですか?」
「丁寧語が話せる方の君に、マスタードとハバネロ、どちらかの粉末、粉ね。ふりかけたやつをあげる。食べていいんだよ?」
「えっと……辛いのニガテです」
「あっらら」
「僕が食べるよ!」
と、いかにも小学児童といった少年が、痩せて日に焼けた腕を伸ばしてくる。
「腹減ったし! いっただきまーす」
黄色いポップコーンを半ば奪い取るようにして、がつがつと口に運んだ。
「おいしい? ねえ、うまい?」
「……まず~い」
少年は顔をしかめて、涙目。
「あっらら。今回はいけそうだと思ったのに」
「カツミ、マスタード食べたことないじゃんか」
「だって、ヨッシーからいのヤだって言うじゃんか」
「うるわしい兄弟愛」
荒谷がうつろに言うと、二人はきょとん。
「俺ら、従兄弟同士なんですけど」
「どっちが本物の、アスハちゃんの弟くん?」
手を挙げる小さい方の弟くん。
「ヨッシーは伯母さんの子。でも一緒に暮らしてる」
「ほうそれはどうして?」
「伯母さんが……モガ!」
「余計なこと言わない! カッちゃん」
「いやいや、アスハちゃん。カツミくんには貴重な意見をいただいた、無下にはしないよん」
「貴重な意見って?」
明日葉と弟達がハモる。
「うん、実はね、このヒーローショーもそうなんだけど、ホラ、オレのじーちゃんが道楽でやってるんだよ。学園内で売りだしたいって言って、ハバネロを育ててるんだけど、どーやってサバクかなあという問題で」
うーんとうなって、頭に手をやり、テヘペロしている荒谷に、明日葉はポンと手を打つ。
「そうか、荒谷君、困ってるのね!」
「そうなんだよ~アスハちゃん!」
そこへ網谷が割って入る。
「おい、アスハちゃんてなんだ。美貌の才媛をちゃん呼ばわりって、しかも名前呼びって」
明日葉はきょとん。
「べつにかまいませんけど」
「えっ? いいの?」
「ええ。ずっとそう呼ばれたかったけど、学園の人たち、遠巻きで言い出せなかったの」
「クールビューティーって言ったのだれよ。とんだおっとりだわ」
「クールビューティーってなあに?」
「単語が通じない……」
「おまえらニーナさんを、珍獣を見る目で見るな!」
「網谷っておもしろいよねー。すぐつっかかるんだからー」
風が吹いてきて、ひさしの下へ免れる六人。少年がお腹を押さえ、小声で訴えた。
「お姉ちゃん、お腹がイタイ」
「えっ? カッちゃん、大丈夫?」
「お腹、イタイよ。イタイ、イタイ」
「あんた、カツミに何、食べさせたんだよ!」
「ヨッちゃん、やめなさい」
「だってショクチュードクとか、死ぬだろ」
荒谷はひとごとのように見ている。
「人が、まずい食事くらいで死ぬかよ」
「じゃあ、おれにも食わせてみろよ」
「よせよせ。甘党なんだろ~?」
「いいからよこせよ」
少年は、ポップコーンを奪い取り、赤も黄色も関係なく口に運んだ。ぐっとのどを詰まらせる。
「ほらみろ」
「うげえ」
「うげえ、だって。感想がそれじゃ、じーちゃんも浮かばれないな」
「そんなことありません!」
「アスハちゃん!」
「私が食べます。ください」
「やめたほうがいいよ、アッ」
弟と同じように口へ放り込み、もぐもぐと口を動かす明日葉。口の端が赤と黄の粉まみれだ。
「はぐ!」
と明日葉。
「こ、これは」
「無理なら無理でいいんだって~」
「おいしいです……!」
「ぬ?」
一斉に明日葉を覗き込む三人に、うっとおしそうな顔をして押し戻す弟たち。
「ミックスするとおいしいです! ハバネロの辛味と、ヴィネガーの酸味が塩味のポップコーンとマッチして、ホント、おいしいです!」
「ム、無理しなくても~」
「ほんとです。どうしてかしら、ちょっと駄菓子を思い出します」
「へえ、ほんとにうまいわ」
網谷が手を赤と黄のまだらに染めながら、口元へポップコーンを運ぶ。
「なによ! 美人がおいしいって言ったからって、媚びちゃって」
網谷がユイにポップコーンを突きつけた。
「なら、食ってみろ」
と……。
「あたしはいいわよ」
「あと食ってないのは、おまえだけだ」
「うるさいわね。食うだの食わないだのと下品ね。じゃあ、召し上がってさしあげようじゃないの!」
「率直な意見を期待する。じーちゃんが困ってるから」
と、ちらっと明日葉を見やる荒谷。ユイはと言うと、
「……信じられない」
指先を舐めた。
「?」
「こんなゲテモノ、あたしキライなのに! ちなみに頭に悪そうな駄菓子も食べたことないけど……くせになる!」
「長い賛辞をありがとう~? ところでそっちの僕はお腹はへいき?」
「うん、なおったよ」
少年はけろりとして言った。
「カツミは緊張するとお腹が痛くなるのよ」
アスハが、簡単に説明した。
「ショクチュードクじゃなかったのかー! よかった!! カツミ!!!」
「へへ。ごめん、ヨッシー心配した?」
「したした!」
「晴れて嫌疑も失せた。明日から、売るぞ~! ハバネロマスタード・ポップコーン!」
荒谷がガッと拳を握った。
次の日、桜野学園購買部で売りに出された、学園長自らが育てたハバネロとマスタードのポップコーンは……その赤と黄の色味から、生徒に気味悪がられていた。
「食べてくれたらわかるのに……おいしいって!」
悔しそうにするユイに、荒谷が頭をかいて、諦め口調。
「今までにないアイテムだからね~」
ポン! と明日葉が手を打った。
「それです! それを強みにしてみましょう!」
「え?」
明日葉は、ハバネロ(マスタード)ポップコーンのぎっしり詰まった袋を、購買部の前面に押し出すようにして、宣伝を始めた。
「ハバネロマスタード味! これまでにない、まるっきり新しいポップコーンです! 今ならふた袋買ってくれた人には、あともうひと袋つけちゃいます! お友達とどうぞ」
えーっと思って見ている荒谷達の前で、生徒たちが足を止め始めた。先に手を出したのは物見高い持ち上がり組だ。
「うはー。すっげー色。うまいのこれ?」
「おいしいです! ぴりっとカラッと、さっくりと!」
「わけわかんねーけど、おもしれーわ。ふたつくれ」
「はい。お友達にもぜひぜひ、勧めてくださいね!」
廊下の隅で見ていたユイは、ため息。
「わー、アスハちゃんゴーイーン」
「たまんねーわ。俺もやる!」
ついに網谷も飛び出した。
「よーし、売るぞ、じーちゃんのハバネロポップコーン!」
荒谷達は網谷と一緒に、ワゴンを前面にぐいぐいと押し出す。明日葉がここまでしてくれるなら! と。
……でも、なかなか減らないワゴンの袋。
「救いなのは生ものじゃないってことだ」
「明日もあるさ……」
落ち込む男子二人に、明日葉は。
「何を言ってるんです。今日摘み取っても明日は新たな芽を出す
「アスハちゃん、熱血~」
「うおお! 俺は甘かった! 女の子に言わせるなんて、情けねえぜ! 俺はやる!」
「女の子は多い方がいいんじゃない?」
と、網谷がおたけんだところで、やっとユイ参戦。
「おーい、ふた袋くれ」
「おれも」
「ありがとうございまーす」
明日葉とユイの笑顔に照れる男子たち。
「ちょ、うまそうじゃね?」
「俺も買う~」
「はい、みなさんでどうぞ!」
ハバネロ(マスタード)ポップコーンはぼちぼちと売れていた。
みんな明日葉たちの笑顔に気分良くして帰っていく。
「あの、天音ってさ……笑うと案外、かわいくね?」
ひそひそやってチラ見していく。
いや、廊下で立ち食いする者もいた。
ドキドキしながら見守る明日葉たち。
「うん、おいしい!」
「うめぇ……!」
その声に、一気に生徒たちの手が伸びてきて……。
あとは明日葉が呼びかけなくても大盛況に。学園長のハバネロマスタード・ポップコーンは売り切れ寸前。
「すごい! 一日でこんなに」
「アスハさんて、なにものぞ!」
四人は屋上で、学園長のポップコーンをサクサクと言わせて、健闘をたたえあった。
「いいえ、学園長の生徒たちへの愛情が伝わったんです」
「え? 学園長がどうしてここで出てくるの」
「だってそうでしょう? 授業の合間に小腹をすかせた生徒たちが欲しがるものと言ったら、ポップコーンです。いくら集中力が増すといっても甘いものは美容に良くない。唐辛子のカプサイシンは体の燃焼率を上げ、活性化させます。すごく考え抜かれてます」
「ま、まあ。アスハちゃんがそういうなら、じーちゃんも喜ぶよ~」
「ええ、草葉の陰で……」
一同、ギョッとする。
「え、えーと。アスハちゃん?」
「じーちゃん、生きてるけど。一応~、ね」
「え?」
すぐにぽっと顔を赤らめる様は、いとけない少女のよう。
「だ、だって……このままじゃ浮かばれないって、昨日、荒谷君が」
「生きてます! 誤解されるような言い方したのはオレだけど」
「そういえば……死んだ方に使う言葉じゃないんですかー? 浮かばれないって……」
ユイが首をかしげて言ってみる。
「あー、あー! オレのデタラメな日本語を真に受けて、しょうもない商品売ってくれたの~?」
「そんな! しょうもなくは、ないです……おいしいじゃ、ないですか……だからです」
途中から自信なげにしゅんとする明日葉。そんな彼女を見て、ユイが笑った。
「すっごーい! これがアガペーだよ! この網谷、ググれカス!」
「アスハちゃん、サイコーだよ~!」
「俺は惚れた! くっそー! 桜野クイーン! サイコーだぜ!」
ひそかなガッツで男泣きの網谷。
「あのう……荒谷君たち、なんで泣きながら笑ってるんでしょうか……?」
ユイがクスッと笑った。
「みんな、あんたが……、ほろりときちゃったのさー! アスハー! 最高! 他に言葉もない!」
「えっと、えっと……?」
「たとえて言うなら、アガペーの前にかなう人はなし!」
END
べすとふれんず れなれな(水木レナ) @rena-rena
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