第2話 性的な幸運
チャーハンがいなくなって半月が経過したが俺は未だ引き篭もったままチャーハンへの誓いを果たせずにいた。コンビニに行った時に持って帰ったバイト情報誌をチラ見して丸め、ゴミ箱に捨てた。何かが違った。
いつか胸を張って再会できるような、恥ずかしくない生き方。
その具体的なヴィジョンを、思い描けずにいた。俺はどうしたい?何がしたい?
わからない。それがわからないままでは行動を起こすなんてとうてい、できやしなかった。闇雲に動いて、なんとかなるようなら今こんな生活を送ってはいない。まず、慎重にならなければならない。慎重に、行動を選び、一歩ずつ。日の当たる世界へと、歩き出す。
身元引受人は母親だった。帰りの車の中では一言も口を利かなかった。
痴漢なんて神に誓ってチャーハンに誓ってやっていない、俺は、それでも。数ヶ月ぶりに電車に乗り、吟味に吟味を重ねた割のいい工場バイトの面接に向かったところ満員電車に押し込まれるはめになり、目の前にいた女性の胸が俺の腕にグイグイと押し当てられたのだ。はじめのうちこそ平静を装おをいながらもこれ幸いと思っていたがあまりにも密着状態が続き次第に女性が俺を睨んでいることに気がついた。俺はあろうことか愛想笑いのつもりで自分でもキモい事この上ないとわかっているはずの笑みをニヤリと浮かべた。女性は「ヒィ」というような声を上げ俺は次の停車駅でホームに引きずり出された。パニクった俺はネットで見た知識を元に一目散に逃げようとして駅員に取り押さえられ泣きながら大暴れした。俺の必死の訴えにはじめは蔑むようであった女性の目にも次第に同情の色が宿り、訴えは退けるということになった。
慎重に行動した結果がこれだ。俺は二度と家から出たくなくなった。
その夜、再びチャーハンが夢に現れた。チャーハンの傍らには転生の際に連れて行ったトラックと、猫耳の美少女がいた。チャーハンは語り出す。異世界の村でその少女と出会ったと。たまたま木の上を歩いていたチャーハンが足を滑らせ落下した先で少女が水浴びをしており、水をぶっかけられ引っ叩かれたがその少女の胸元にチャーハンの額にあるものと同じ模様が浮かんでいてそれは聖なる印でありあちらの世界を救うとかなんとかかんとか…。
俺はチャーハンには申し訳ないが聞いていられなかった。泣きながら、わかった、元気にしてるならそれでいい、よかった、よかったと言って夢から覚めた。
そして俺は決意した。もうこの世界で真っ当に生きていくなんて不可能だ。俺もチャーハンのいる、あちらの世界に行く。
つづく
俺を助けるためトラックに轢かれて異世界へ行ってしまったうちの猫が元気に暮らしていますように inumoto @inumoto
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