俺を助けるためトラックに轢かれて異世界へ行ってしまったうちの猫が元気に暮らしていますように

inumoto

第1話 猫とトラック

チャーハンは俺が小学生の頃河原で野球をしていた時に見つけて拾ってきて以来我が家の一員として暮らしてきた。

俺が高校受験に失敗し落ち込んでいた時も傍らで慰めてくれたし、その後ニートとして引き篭もっている間も一緒に居てくれた。親兄弟から何を言われても、チャーハンが居てくれたから俺は平気だったし、生きてこれたんだ。チャーハンが居なければとっくに自殺するか就職していたかもしれない。だけれどそうはならなかった。俺は絶対に30歳までに電撃大賞を受賞し、27歳に猟銃自殺してみせる。そう思ってた。


そんな、ある日だった。


キキーッと大きなブレーキ音がけたたましく鳴り響き俺は振り返ると同時に目の前に小さな黒い影を目撃しそのまま仰け反るように倒れた俺の上を大きなトラックの影が覆った。


俺は大した怪我もなくただ気を失い、病院のベッドの上で目を覚ました。家族たちは涙を流しながら目覚めた俺にチャーハンが死んだことを告げた。目の前が真っ暗になり、「お前が代わりに死ねばよかったのに」という母親の言葉も耳には入らなかった。


夢に、チャーハンが現れたのはその夜のことだった。

チャーハンは俺に感謝していると言った。礼を言うのは俺の方なのに、何も言えずにただチャーハンの言葉に頷くことしか出来なかった。チャーハンはしゃべり続けた。自分はこの世界に別れを告げ、別の世界へと旅立つ。その世界では冒険の日々が待っている、と。俺は絞りだすようにどうにか声を上げた。

「僕も、連れて行ってくれ」

チャーハンは頭を振る。そうはいかない、連れていけるのは自分を撥ねてから中央分離帯に激突して大破したトラックだけだ、と。

確かに、トラックを連れて行ったほうが俺よりは役立つかもしれない。チャーハンは賢い猫だったから、あちらの世界に行ってもうまくやっていけるだろう。

俺はチャーハンを見送る決心を固めた。

そして頬に感じる涙の感触とともに目を覚ました。


俺はこれからチャーハンの居ない世界で、ひとりで生きていかなければならない。向こうでがんばっているチャーハンに、恥ずかしくないように。いつかまたどこかの世界で再び、胸を張って再会できるように。


つづく

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