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! ザザどこだ!? あぁ、居た居た! 聞いてくれ! ついに手がかりを見つけたぞ!」


――息を切らせて主が駆け寄ってくる。心拍、血圧、体温、呼吸回数に上昇が見られる。


 結果を導き出す。主は興奮状態にある。


「……ザー、ザザザ、ザザザザ」


「なに、また小言? 相変わらずキミは説教くさいなあ、ザザ! いいんだ、そんな事はいい! 十年、十年だぞ。三千六百日以上、脚を止めなかった路が報われた!」


――厳密には食事、排泄、入浴、睡眠、読書、他多数……主は脚を止めて停止している。


 両手を上げて――おそらくは感動の大きさを身体で表現していると思われる――主は当機の眼を見て言う。








倫敦ロンドンだ、倫敦だよザザ! 父上の遺した資料の内、足りない部分は其処にある! もう家財も全て売り払って、あの廃坑に残っていたモノもあらかた売ってしまった。旅に荷物が少ないことを喜ぶべきか? ああ、そうだろうそうだろう!

 ついでに新調したんだ、どう? 似合う? 似合うか! そうかそうか! 流石はザザ! 見る目があるね! 仕立て屋の彼女にはあらためて礼を言わなければ、おっとそれどころじゃあなかった! ザザ、今すぐ仕度をしよう。ああ、わくわくするなあ! 倫敦にキミについての残りがある! それに逢ってみたいモノも居るんだ。ザザ、トランクを用意してくれ! それから紅茶……は駄目だったな、十年経っても向き不向きというのはあった! 忘れてくれ!」


――諒解した。



 忙しなく駆け回る姿は、主が当時の幼な子の未来であることの証左だ。

 

 略式名称“D=オータムバイン”。


 当機・呼称“械人ファントムザザ”の主にして、最優先命令事項。





「――ザザ!」


 背伸びをして、棚から荷物を下ろす主が、顔だけを向けて言う。





――――。




 諒解した。

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