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「きょうはね、神父さまとシチューをつくったんだ」
――小さな手には布きれ。錆びた
「それでね、お祈りもしたんだよ。あしたもへいわにくらせますように、って」
――応える声はない。幼な子が語りかけるその鉄は、致命的なまでに損壊していた。
「……うん。へーき。神父さまも、シスターも。樵のお爺さんも、肉屋のおばさんもやさしいから。おじさんも、いつでもこうして待っていてくれるから」
――だから、さみしくないよ。と、壊れた鉄に笑いかける。
一日の始まりと終わりに。幼な子は必ずこの、僅か十数mの奥行きしか無い、閉じた廃坑に足を運んでは、こうして拙く、けれど丁寧にこの
まるで
まったく例え方に異論が浮かばない。言葉通り、この
だから幼な子の、一日の始まり――今朝はね、こんな夢を見たよ。それからどこそこに行くの――や、このような一日の終わりに、今日あった出来事を話しかけるという行為に、たったひとつの、たとえば頷くだとか、そういった反応さえも返せない。
――或いは。この、一見すると人生の足しには一切ならないようなこのルーチンこそが、幼な子の、幼な子らしい脆弱な精神の安寧になっていたのかもしれない。
一日の始まりと終わりに一度ずつ。
「今日もありがとう、おじさん。もうすぐ、ぴっかぴかになるからね」
そうして朝の鐘がなる前に。あるいは夜の帳が落ちる前に。幼な子はこの廃坑を、嬉しそうに出て行く。
――独りで眠る夜は、寂しくはないだろうか。此処からでは星も月も見えたものではないが、せめて彼らが優しくあなたを見守ってくれていますように。
季節は秋。今日の主は、一風変わった登場の仕方をした。
危なっかしくて見ていられない。だというのに
両手いっぱいに抱えられた赤い筒。材質は布。
主の身体が小さいものだから、視界の確保もままならない。
実際、此処に来るまで何度も転んだのだろう。頬には土がついており、赤い布筒も同じ有様だ。
そして、
「もうすぐ冬がくるからね、おじさんもさむいとおもってね。マフラー、ですっ」
――
「でしょう? おじさんはとてもおっきいから、ながーくしました」
諒解。当たり前だがまったく通じていない。
おそらくは、この幼な子の世話を見ているシスターに手伝ってもらったのだろうその防寒具は、やはり
調子の外れた鼻歌を鳴らしながら、
「ね、これで冬がきてもあんしんだね、おじさん」
と、今となっては遠い過去に記録した、
この通り、寒さとは無縁の身になれたのだ。来たる冬の厳しさに、この日常を休んで、暖炉の傍でまどろんでいてはくれないだろうか。
――その願いは、かなり悪辣な状況を以って叶えられることとなる。
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