第3話 激突するおっぱいの巻
二柱の神をその身体に宿す女騎士の旅路。
人知を超越した力を宿すその身には、必然、重い反動がもたらされる。
「この慢性的な肩こり、本当に辛いんですよぉ」
宿に着くと、鎧脱ぐなりベッドに突っ伏すステラ。仮面を脱ぐ暇さえ惜しむ始末である。
「おっぱいが大きいと肩が凝るというのは俗説ですよ。体の鍛え方が足りないだけでは?」
「お前さんも、よくもまあ8年間もグチグチと不平不満を言って飽きんものじゃの。グチグチ王国のグチグチ姫のおなりじゃわい」
「いや、その言い方、あなたステラのお母さんですか。ちなみにHカップのおっぱいは片パイで1500g。合わせて3kgの重量があるそうですよ」
ちょっとした愚痴をこぼしただけなのに、さっそく右と左の胸がしゃべり始める。早く眠りたいけれど一度盛り上がると止むことを知らないのだ。ステラはしばらく間、聞き流していたがとうとう諦めて話の輪の中に入る。
「ところでジャンヌ様。なんでよりによって胸なんですか。他にどこかいい場所他に無かったんですか」
「やれやれ。邪神を封印したいという貴方の願いは叶ったのですから、満足するべきではありませんか? 人間の欲というものは果てを知りませんね」
何故か返事をしたのは右の胸。
「ちょっと、キュベレー。なんで貴方がフォローする側になってるのよ」
「だって、その話もう何度目なんですか。正直、飽きてますわ。それより理想の選挙制度は何かについて考えるとかどうでしょうか。あんまり馬鹿な話を続けているとIQが下がります」
「このガリ勉女に合わせていると、女としての色気が失われるぞよ。折角のぷるんぷるんなんじゃから、ぷるんぷるんライフをエンジョイした方がいいぞよ。ステラは綺麗な金髪じゃからの。もうそういうキャラだと割り切った方がいいぞよ。騎士団長もそれを望んでおった」
「だ、団長!やっぱ団長が何か言ったんですね。」
「金髪巨乳がお馬鹿だというのは俗説ですよ。そのようなステレオタイプな考え方が男性優位社会の中でジェンダーの固定化を招いているのですよ」
「二人同時に喋るのはやめれい。ステラ、主は自ら封印の器になることを承諾してくれた。しかし、そのままじゃと主も永い永い眠りにつくことになる。それは可哀そうじゃと思ってな。そこで思い出したんじゃ。なに、団長が毎晩毎晩処女神であるワシに祈りをささげるときにな。団員のステラという女の子が貧乳で悩んでいるから、早くぷるんぷるんになるようにしてやってくれと願っておった。そうじゃぁ、邪神を封印するついでに少女の悩みも解決してやろう。わしも一緒にステラに宿ることで平衡を保てると思ったのじゃ。だったら胸じゃろ!主の両胸が揺れる間だけ、世界はひと時の平和を享受できる。そう考えれば主のぷるんぷるん人生も報われるのではないかの」
「いやーーーー私は別に貧乳で悩んでませんよ。私騎士ですよ。騎士。乳がデカいと色々困りますよね。なんで団長の意見だけ聞いてるんですか。私にまず聞いてくださいよ」
「たわけ、わしは神じゃぞ。わしに知らぬことはない。ステラ。お主の言葉、それが本当の自分自身の気持ちだと断言できるのか。乳について悩んだことが一度もないと断言できるか。騎士団長がなぜ神にそのようなことを祈ったのか考えたことがあるか。わしにしか見えぬこともある。団長にしか感じ取れぬこともある」
「ジャンヌ様……。ちょっとぐっときたかもしれません。私は私自身のことを全部分かっていると思っていました。しかし、よく考えてみればジャンヌ様や騎士団長も私のことを見守ってくれていた。そのことを思い出しました」
「そうじゃろう。胸に手を当ててよく考えてみることじゃな。おっぱいだけに……カッカッカッ」
「この野郎。真面目な話をしているのに」
ステラは自らの左胸を握りしめると激しく揉んだ。
「こら、こら、止めるのじゃ……。左だけ揉むと、左右のバランスが悪くなるぞよ」
「な、なるほど。じゃあ右も揉まないとですね」
ステラは合点がいったようで、いったん手を放すと右の胸を鷲掴みにして、こねくり回すように激しく揉む。
「な、なんですか。私は関係ないでしょ。馬鹿な話は二人だけでしなさいな。今は読書中なのです。揉むな、揉むな。揉むんじゃないですよ」
◇
「つ……疲れた」
ステラは小一時間自分の胸をもむと、虚しくなって再びベッドに突っ伏した。
「ステラよ。ベッドに突っ伏すのは止めてくれんかの。息苦しくてかなわんのじゃ」
「あ、すいません」
ステラはごろりと仰向けになる。
あるべき姿を取り戻す、二つのふくらみ。
「ふふふ。はりつや完璧のスライムおっぱいじゃよ。神が創造したモノの中で最も美しいフォルムじゃよ」
「それってセクハラですよ、セクハラ。はぁ、こんなおっぱいになってから、皆さん私のおっぱいしか見てないんですよ。最悪ですよ」
「で、でたー。自意識過剰女がここにいたわー、助けてー。」
右の胸が大げさに揺れる。
「自信過剰じゃないですよ。今日のことだってそうだし。このあいだの町長さんもチラチラ、チラチラ何度も見てましたよ」
「見られて減るもんじゃなし、見せてやればよかろう」
「完全におっさんの発言じゃないですか、それ。鎧に収まりきらないから、胸のプレートを外しているだけなのに、『何コイツ変態じゃないの』みたいに見られて、本当に最悪です……」
「そうお前が騒ぐから、せめて顔を隠せたらと、この兜を授けた団長の優しさを思い出すのじゃな。しかも、ずっと独り言をつぶやいておるお前が怖いということで消音機能までつけてくれたのじゃ。よかったのう」
「はぁ、団長。懐かしいですねぇ。今でも私のことを追いかけてるんですかねぇ」
「そうじゃのう。一応邪神を封印した器じゃからの。放っておくわけにはいかんのじゃろうな」
「そういえばさっき団長の祈る声を聞いていたと言ってたじゃないですか。そういうのってもうできないのですか。団長元気してますかーみないに聞いてみたり」
「できんこともないが、一度あっちに接続すると他の信者の声も聞こえてしまうのじゃよ。今は休暇中じゃから、そいつはNGじゃのう」
「私の封印は休暇だとでもいうのですか……」
「まぁの。お前が浄化されるまで付き合ってやろうというんじゃ。ありがたく思うことじゃ。綺麗になったらわしの下で働かせてやってもよいぞ」
「御免こうむります。私、決して浄化なんかされません。この地上には私の救済を待ち望んでいる者が数多おりますから……世界がこんなのもポンコツ神が偉そうにしてるからじゃありませんかねぇ」
「邪神邪神と持ち上げられてはいるが、神になってまだ50年も経たぬマイナー地方神が、講釈を垂れる気かのう、若いとはすばらしい事じゃのう」
これはまずいと思ったステラは慌てて両手で胸を押さえつける。
ケンカが始まると、いつも両胸が激しく揺れてぶつかり合おうとするのだ。
とてもそれで決着がつくとは思えないのだが、その2つのたわわを抱えているステラにはいい迷惑でしかない。
「ほーらほーら。そろそろお風呂に行きましょうか。お風呂付は宿代2倍なんですからね」
「わーいわーい。風呂じゃ風呂じゃ。あったかーいお湯にぷかぷか浮かぶのは気持ちが良いのう」
「やれやれ。10日ぶりの風呂ですか。しばらく野営は勘弁願いたいですわね」
今日は二人ともあっさりと矛を収めてくれたようだ。
長旅が続いたことが大きかったようだ。
ステラは騎士団長から授かった大切な兜を脱ぐと、ウキウキ気分で浴場へと向かうのだった。
神の左パイ 悪魔の右パイ ~呪われし女騎士の放浪記~ まめたろう @mame-taro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。神の左パイ 悪魔の右パイ ~呪われし女騎士の放浪記~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます