第2話 中学生の私たち


あれから3年が経って、私は中学2年生になっていた。

瑞希とは一緒のクラスになれたけど、明久くんとは結局一緒のクラスになれていない。


(ま、仕方ないか)


 こればかりは学校が決めることだ。

頭がいいだけの私になんてどうにも…。


 (…ハッキングとか、出来そうよね)


 私生徒だし。学校で情報を集めて、それを元に家のパソコンから侵入して…。


 (って、何考えてんの私!? もう、カットカットカット!!)


 馬鹿らしい思考を全力で断ち切って、目の前のことに集中する。

今決めるべき問題は、この目の前の肉をどっちにするかだ。


 (数か、グラムか)


 こっちの肉はグラム数が少ない代わりに肉の枚数が多い。

もう一つは枚数は3枚だが、グラムが多い。


 (う~ん…どっちにしようか)


 最近、私は瑞希と一緒に料理をするようになった。

初めは塩味をつけるために、何処からか持ってきた塩酸を突っ込もうとしたおバカな娘だったが、今は大分改善されてきた。

元々変なものを入れなければ普通に美味しいものを作れる天才児だから、教えるのも楽だ。


 (よし、こっちだ)


 また瑞希と料理することも考え、私は枚数の多い方を買った。


……


 スーパーからの帰宅道、私は初めて変態を見た。


「ディア・マイ・ドウタァアアアアァーーーっ!!!」

「いやぁぁああああああ!!!」


 執事服?を着た男性に、同い年くらいの女子が襲われていた。

追い掛け回されたのか、彼女の服は少し乱れていた。

さらに目の前で追い込まれてしまった彼女は、へたり込んでしまって半泣きになっている。


「こっちに来るなぁあああ!!!」

「ディア・マイ・ドウt「変態退散!!」っブゲラッ!?!?」


 流石に見捨てるのにはどぎつかったので、私は男性の顔の側面に飛び蹴りを食らわせた。

私は護身術として柔道と合気道をかじっているため、身体能力には自信があった。

手応え的には普通なら気絶しているはずなのだが…なぜこの男はまだ動いているのだろうか?


「てい!」

「グハッ!!!」

「このっ!」

「ガハッ!」

「トドメ!!」

「そげぶぅぅううううううう!!!」


 仕方ないので、起き上がって飛びかかってきた瞬間に、どっかの格ゲーで使えそうだと思って覚えておいた必殺コンボを決める。

流石に効いたのか、ノックダウンした男性をその場に放置して、私は追われていた女の子の方を向いた。


「大丈夫?」

「…ぇ。ぁ、はい。大丈夫、です」

「そっか。…あ、ココはまだ危ないから、ちょっと離れよっか。…立てる?」

「は、はい」


 私は彼女の手を引いてその場を離れた。


……


 ちょっと離れた公園についた私は、自己紹介をすることにした。


「私は木下優子。中1よ。貴女は?」

「わ、私は、清水美春、中1です」

「そっか、同い年なんだ。‥美春さんって呼んでいい?」

「は、はい」

「ん。じゃぁ美春さんも私のことは優子でいいよ」

「わ、分かりました」

「あはっ、なんで敬語?」

「いや、その…恩人なので」

「そんなの気にしないでいいのに」


 その後もどこの中学だとか、最近のことについて話していくうちに段々打ち解けていった。

そして、大分落ち着いたところでさっきの襲われていた件について訊く事にした。


「それで、何であの暴漢に追われてたの? 何か因縁でも付けられたとか?」

「あれは、ですね…その」

「?」


 何か言いづらそうにしている彼女は、一時の間を置いて、言葉を発した。


「……父、なんです」

「え…?」


 流石に絶句した。

そういえば原作でもあんな変態がいたような…。


 (えっと、じゃぁ私はこの子のお父さんをぶっ飛ばしたってこと? ヤバい?…いや、でも襲われてたし、問題はないはず‥よね)


「えぇと、何でお父さんに襲われたの?」

「それはですね…」


 そこからの彼女の話は、あまりにもバカ‥親バカすぎた。

 何でも、事の発端はお父さんで、一緒にお風呂に入ろうとい言い出したらしい。

小学の高学年からは流石に恥ずかしくなって、母と入っていたそうだ。

只、今日は母が夜勤で遅くなるため、父と二人で過ごしていたらしい。

それで、父が久しぶりに一緒に風呂入ろうと言い出し、それに反発。

その反発に反発する形で父親暴走、結果気づいたら逃げていた、ということらしい。

 しかも、この親バカ騒動は昔からあったらしい。

家族ぐるみで行く海やプールの時には必ず近くにいて、運動会でも誰から見ても迷惑だと分かるような馬鹿っぷりを見せていたとか。

ただ、今回の大暴走は初めてだったらしく、流石の美春も引きに引きまくったらしい。

 その他にも色々と愚痴を聞いていると、流石に辺りが暗くなっていた。

帰ろうか、と言ったら…。


「イヤです!」


 と、言われた。…いや、まぁあんな人のいる家に帰りたくはないよねぇ。

私も流石にそりゃそうだと思い、こんな提案をした。


「じゃぁ、私の家に来る?」

「良いんですか!?」


 すっごい喜ばれた。

両親はどうせ泊まり込みでいないし、弟は基本私のお願いを聞いてくれるので大丈夫と伝えると、彼女は即決した。

 そして、公衆電話から保護者であり、我が家で一番偉い母親に今日の出来事を一通り伝えたあと、私についてきた。

 え?父さん?私は二番目だと思ってるわよ。


……


 家に着いてから。


「おかえりなのじゃ、姉上」

「ただいま秀吉。 それと、この子が電話で言った美春さん」

「初めまして、清水美春です」

「儂は木下秀吉じゃ。よろしくじゃ、清水」


 にっこり笑って手を差し出す秀吉。

そして、真っ赤になってその手を握り締めた美春。


「あ、あの」

「うむ?」

「み、美春の事は、美春でいいです」

「ん、了解じゃ。儂のことも秀吉でいいぞ」

「は、はい…秀吉‥くん」

「改めてよろしくじゃ、美春」


 弟は私に似ており、さらに女っぽい所もあるからか、直ぐに打ち解けた。


 (なぁんか秀吉にフラグが立ってる気もするけど…ま、いいか)


 この後、美春は連日のように私、と言うよりも秀吉に会いに来るようになった。

いつ告白するのか、私は楽しみにしながら見守るのだった。


……


 とある日の放課後。


「えぇっと‥あれ、ここどこだっけ?」


 中学生になって1年と数ヶ月が経った私は、慣れ親しんできたはずの校舎で迷子になっていた。

何時もは立ち寄らない校舎の隣にある、特別室が集合した棟。

本格的にこっちで授業を受けるのは2年生になってから。

そのため、私がこっちに来るのは、今回含めて数回程度だと思う。


(うーん‥どうしよ)


 両手に持った荷物を、空き教室(物置室)まで運ぶだけなのだが‥まいった。


「おや、木下さん」

「ん? あ、久保君」


 迷っていた私に声を掛けてくれたのは、将来残念美青年になる久保利光くんだった。

ついでに言っておくと、私はBLが特別好きというわけではない。

まぁ、本人たちが良いなら別にイイじゃんって感じだ。


「こんな所でどうしたんだい?」

「んっとね、コレを運ばないといけないんだけど‥場所が分からなくって」

「なるほど」


 ちなみに空き教室なので、コレといった目印がない。

その為、今まで私は一々それらしい部屋を開け閉めして、中を確かめてたりする。


「それなら知ってるよ。こっちだ」

「ホントに! ありがと~」

「別にいいよ。 僕も帰るだけだから」


 先導してくれる久保君に感謝しながら、歩を進める。


「私、このまま全部の教室、開け閉めすることになる所だったわ」

「‥そんなに分からないんだったら、先生にでも聞けば良かったんじゃ?」


 確かにそれが一番簡単な解決法だろう。

こっちの棟にも職員室はあるわけだし。


「アハハ‥借りとかあんまり作りたくなくて」

「先生に借りもなにも無いと思うが」

「ん~、まぁそうだけどさ。 これは私の心情っていうか、私ルールっていうか‥まぁそんな感じなの」

「まぁ、木下さんが良いなら別に良いけど‥。ほら、ここだよ」

「ここかぁ。ありがとねっ‥‥わぁ~~」


 教室の窓から見える夕日で、部屋が真っ赤に染まっていた。

置いてある機材や教材が光を照り返していて、とても綺麗だ。


「ん?どうかしたのかい?」

「夕日がすっごく綺麗だと思わない?」

「あぁ、なるほど」

「それにさ、教室もなんか神秘的で‥うん。すっごく良い」

「…まぁ言われてみれば」

「でしょでしょ!」


 テンションが高くなっていた私は、久保君にぐっと顔を近づけて言った。


「綺麗よね!」

「………そう、だね」

「うん。ホントに‥って、早くこれ片付けないと」

「‥手伝うよ」

「そう? じゃ、お願いするわ」


 その日、教材を片付けた私は、一緒に手伝ってくれた久保君と一緒に帰った。

何時もは無愛想な彼が少し楽しそうに見えたのは、夕日ではしゃいでいた私の気のせいかもしれない。


……


Side end

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