転生―私と彼らと召喚獣-

一般人D

原作前 邂逅編

第1話 小学生の私たち


 ある日事故に遭って死んだ私は、テンプレ憑依転生を体験した。

転生先は、バカとテストと召喚獣の木下秀吉の姉、木下優子だ。

何でもこの世界では生まれた瞬間に死んでしまう世界だったらしい。

数合わせ的な意味でも丁度よかったとは神みたいな奴談だ。

優子ほど頭良くないと思った私は神かもしれない奴に身体能力の補正を頼んだ。快く引き受けてくれたが、あっさり過ぎて馬鹿にしてるのかと勘違いしそうだ‥いや、多分馬鹿にされていた。


 そんなこんなで、幼子(一歳くらいからかな?)の頃から意識があった私は、現在小学生にも関わらず大学の論文が理解できるようになっていた。

うん。補正しすぎ!・・ま、まぁ、元々の身体が出来よかったんだと思う。うん、そう思おう。

勿論、流石にこのことは親や、双子の弟の秀吉には内緒だ。

 学校では普通の優等生として通っている。


 (うぅ~ん…今日はグラタンでいいかな?)


 授業を聞き流しながら、今日の夕飯について考える。

両親は家を空けていることが多いので、料理を作るのは私達姉弟なのだ。


「せんせ~、姫路さんはいやらしいそうです!」

「…ぇ?」


 (いやらしい?なんのこと?)


 意識を戻し、黒板へ意識を向ける。

現在は係り決めをしていて、どうやら今はうさぎの世話役を決めているらしい。

それで、姫路さんが推薦されて、それを大きな声で言い返せない吉井くんが代弁してあげたのだろう。

 つまり、今のセリフはイヤラシイではなく、イヤ、らしいが正解だ。


 (っていうか、こんなの原作にあったっけ?)


 原作の知識はこの世界に来てから次々に消えていっている。

多分修正力ってやつなんだろう。


 (っと、放っておくわけにはいかないわね)


 別に問題はないだろうけど、普通に考えても体の弱い姫路さんと、遊び盛りの吉井くんに任せるわけにもいかないだろう。

 姫路さんと吉井くんが黒板に名前を書かれているのを見て、私も席を立った。


「先生、姫路さんは身体が弱いので心配です。私も加えてもらえますか?」


 こうして、私もうさぎの世話役になった。

まぁ、委員会兼任だけど。


……


 ウサギ小屋に入り、掃除や餌やりをし終わったあと、適当にうさぎたちを可愛がって帰宅した。

瑞希(自己紹介の時に下の名前で呼ぶことになった)は明久くんとラブコメチックなことをしていたりして、正直羨ましい面もあったり。


 (まぁ、色々原作と変わっちゃった私は、範囲外なんだろうけど)


 原作の優子と違って面白くはないし、弟との違いのために髪も伸ばして後ろで括ってるけど、似合ってるかは正直わからない。


 (ん? なんだか、今の思考だと私が明久くんを意識してるみたいね)


 別にその気はないんだが…まぁ、本能的に異性を意識するのは当たり前なのだろう。


「えぇと、動物…うさぎだけ載ってるのってあるかな?」


 自分のお小遣いを持って本屋へ来た私は、うさぎに関する本を探しに来ていた。


「あ、あったあった」


 一冊手にとって、買った私は帰宅した。


……


 次の日、私はいつもよりも早くから学校に来ていた。

理由は、うさぎだ。


「…やっぱり」


 頭を傾げているうさぎ。

本には、この仕草は病気のサインだと書いていた。


「やばいよね…急ごっと」


 私は本を持って職員室に走った。


……


 放課後。

ウサギは先生が病院に連れて行き、検査とかで一日預かってもらうことになった。

そのため小屋のウサギは一羽少ないのだが。


「あれ、兎が一羽いなくなってる」

「ホント…なんで?」


 そう言えば、ホッとしていて、この二人に説明するのを忘れていた。

私は急いでランドセルからうさぎの本を出して、二人(特に明久くん)に分かりやすいように説明をした。


……


 うさぎを三人で世話に慣れた頃、大体三週間が経った。

 新しいクラスでもグループが出来始め、クラスが活気づいてきた。

その中で、ませたグループの話を聞いて、何故か瑞希がため息をついた。


「…私なんかじゃ、ダメだよね」

「なぁに言ってんのよ」

「優子ちゃん?」

「瑞希、ちょっと自分のこと正直に言ってみなさい」

「え?」

「何でもいいわよ。頭良いでも、運動苦手でもいいから、自分に対する自分の印象を言ってみなさい」


 ちょっと強気な口調で言ったのが効いたのか、瑞希は小さな声で少しずつ話しだした。

可愛くないだとか、暗い、太ってる、身体が弱い等。

この‥。


「ネガティブっ娘」

「ふぇ!?」


 私は瑞希の両頬をつまんで顔を近づけて言ってやった。


「可愛くない? ふわふわな髪とか、ちょっとタレ目なところとか、すっごく可愛いと思うわよ。

暗い? それは瑞希が自分のダメなところばっかり見てるからよ。もっと良いところ探してみなさい。

太ってる? どこがよ。大体、小学生で抜群のスタイルしてる人間なんていないわよ。気にしないの。

身体が弱い? そんなの瑞希だけじゃないでしょ。第一、大きくなれば免疫がついて段々良くなってくんだから、これも気にしないの。」

「ゆ、ゆぅこちゃん…」

「瑞希はもっと自分に自信を持ちなさい。分かった?」


 コクコクと頷きを返してくれた瑞希に満足して、私は手を離した。


「……ありがと、優子ちゃん」

「ふふっ。どういたしまして」


 この次の時間の休み時間に明久くんからクッキーを貰った。

周りの子が何か言ってたけど、私たちは無視して食べて、美味しいと感想を返してあげた。



Side 姫路瑞希


 お布団に潜りながら考えるのは、最近仲良くなった二人のこと。

私の言葉を代弁しようと頑張ってくれた吉井明久くん。

私のことを心配してくれて、委員会もあるのに係りの兼任も自薦してくれた木下優子ちゃん。


「ね? 可愛いでしょ?」


 クラスのムードメイカーで、人気者で、優しくて、一生懸命な明久くん。

うさぎを触るように勧めてくれて、おかげで私は初めて動物に触れた。


「私は木下優子。双子の弟がいるから、ややこしくないように優子って呼んで頂戴」


 そう言って自己紹介してくれたのが、クラス委員長で責任感が強くて、しっかり者で可愛い優子ちゃん。

彼女のおかげで、私たちは名前で呼び合うようになった。


「瑞希はもっと自分に自信を持ちなさい」


 私のコトをあんな風に言ってくれる子は初めてだった。

皆は"地味好き"とか、嫌なことばかり言ってくるし、正直そうなのかなって思ってたから、彼女の言葉は新鮮だった。

クッキーを一緒にもらった時も、周りのことなんか気にしないで良い、って言ってくれた。

まるで私の不安なんてお見通しみたいだった。


 (…早く、明日にならないかな)


 私は、遠足でもないのに明日が凄く楽しみだった。


side out



 数日が経った。

 あれからドッチボールで瑞希に対するイジメ?があって、私と神田さんが衝突したり、その時の試合で私、明久くん、瑞希、クラスメイトAで相手チームに無双したりした。

 まぁ、無双って言っても、瑞希に投げさせて、取られて投げ返されたボールを私たちが取る。

それを瑞樹が当てるまで続けるっていうやつだったけど。…ちょっと疲れたけど。

まぁ、勝てたから良しとしよう。

 他にも、何故か明久くんがリボン等の髪飾りをつけたまま学校に登校して来ることがあったりした。

その事を秀吉に話したら「何だか楽しそうなクラスじゃな」って言われた。


 そして、病院に行っていたうさぎが戻ってきて数日経ったある日のこと。


 私は委員長の仕事で少し遅れてうさぎ小屋まで向かっていた。

 すると、瑞希とマセた神田さんグループが、小屋の前で何か話しているのを見つけた。

近寄っていくと、話し声が聞こえてきた。


「私は――別に明久くんのことなんて、好きでもなんでもないです!」


 どうやら、明久くんのことで話していたらしい。

からかわれた瑞希が、反発した結果出てきた言葉は、小学生としては当たり前の回答だった。

ただ、タイミングが悪かった。


「あ……。えっと、僕が聞いたらまずい話だったかな…?」


 何故か向こう側から明久君が来たからだ。

恐らく忘れていたのを思い出して来たのだろうが…。


 (タイミング悪すぎだよ…明久くん)


 流石に瑞希も気が動転したのか、近くに置いていた鞄を掴むと走り去っていった。


 (瑞希っ…!)


 駆け寄って行きたかったが、それをする前に耳障りな言葉が聞こえた。


「いーよ、明久くん。地味好きさんなんて放っておこうよ」


 (………は?)


 彼女達は何を言っているのだろうか。

放っておこうって、誰のせいでこんなことになっていると思っているんだ?


「そうだよ。地味好きさん、別に明久くんのことが好きでもなんでもないみたいだし」


 誰のせいでその言葉を発したと思ってる。


「それより明久くん。よかったら、私とちょっとお話しない?」


 誰のせいで瑞希が明久くんとまともに話せずに走り去っていったと思ってる。


「ッ!!!」


 流石に頭に来て、一発ひっぱたいてやろうかと思って近寄ろうとした時。


「…そうだね。丁度、僕からも麗華ちゃんたちに話があったんだ」


 ――いつもとは違う、冷淡な明久くんの言葉を聞いて、足が止まった。


……


 あれからしばらく経った。

瑞希が明久くんを避けてしまっているらしく、結局あの日から二人は会話できていないようだった。

 初めは見届けようとか思ってたけど、流石に我慢の限界が来て、無理やりにでも対面させようかとか考えていた頃。


 瑞希が熱を出して入院した。


 先生が皆で寄せ書きを書いて早く元気になってもらおうとか言ってたけど、"個人の事情"から来る状態だろうと推測できる発熱に効くのかは、正直分からなかった。

取り敢えず"元気になったら沢山遊ぼ"って書いておいた。

唯、流石に一週間も入院されると、こっちの我慢が限界に来た。


 ってことで。


「行くわよ、明久くん」

「え? ドコに?」

「瑞希ちゃんのとこ。ほら、行こ」

「え? え、えぇぇぇぇえええ!?」


 私は明久くんを引っ張って一緒に病院へ向かった。

行く最中に「嫌われてるし」とか何とか言ってたけど、無問題なのでそのまま引きずってきた。

 途中力ずくで逃げようとしたので、私はなぜか持っていた歯ブラシを取り出して…。


「歯ブラシ?」

「明久くん」

「は、はい?」

「おとなしく付いてこないと」

「付いてこないと…?」

「コレを口に入れます 」

「まぁ、元々そういうものだよね」

「そして奥に押しこんで"うぐっ"ってさせます」

「…え゛?」

「ついでにこの‥もう一本を溝尾に当ててグリグリしながらグルグルします」

「……」

「さらに―」

「分かりました付いていきますから許してくださいお願いします」


 と、こんな風にどうにか説得できた。


……


 瑞希の病室に着いて、10分が経った。


「……」

「…」


 二人が、会話をしない。


「……」

「……」


 目を、合わせない。


「………」

「………」

「………って、何時までやってるのよ!」

「うっ」

「ゆ、優子ちゃん」


 流石に限界だった。

目線を下に向けてる瑞希も、何を話したらいいのかバカな頭で考えている明久くんも、正直言って、見ている限界がすぐに来た。


「もう。ほら、瑞希は言わないといけないことがあるんじゃない?」

「あぅ」

「もう…ちょっと来なさい。 明久くんはそこで待ってて」

「う、うん」


 瑞希を部屋の隅まで連れて行く。

そして、明久くんに聞こえないように小さな声で会話をする。


「良い、瑞希。今回のことは、明久くんはそんなに気にしてないから」

「え? で、でも」

「実際彼ね、瑞希の発言のあとに彼女達にすっっごいこと言ったのよ?」

「すごいこと?…って、何で優子ちゃんが知ってるんですか?!」

「私もその場にいたのよ。…明久くんはね、瑞希のことを地味好きって言う事から、瑞希に対する態度とかについて神田さんたちにボロクソ言ってたのよ」


 ホントに、驚いた。

いつもの明るい声ではなく、超冷たい声でニコニコしながら毒を吐き出すんだもん。

ひっぱたく気が失せるどころか、ほんの少しだけど彼女達に同情しちゃったわ。


「…うそ」

「本当よ。だから、瑞希も自分の言いたいこと言いなさい」

「……」

「ほら」


 明久くんの方へトンッと軽く背を押す。

心配そうな顔でこっちを見てきたので、私は笑顔で頷いてあげた。

大丈夫だから、自信持って言いなさい。


「あ、明久くん」

「なに、瑞希ちゃん?」

「私、明久くんのこと好きじゃないって言っちゃって、ゴメンなさい!」

「え?」

「そんなつもりじゃなかったの。本当に、ゴメンなさい」

「えっと…」


 何か言葉が浮かばないのか、私に目で助けを求めてくる明久くん、

仕方ないので、ちょっと助けてあげることにした。


「明久くん、思ったままでいいの。言ってあげて」

「う、うん」


 彼は一度深呼吸した。


「えっと、僕はそんなに気にしてないよ。僕は女の子に人気がないって、お姉ちゃんがいつも言ってるし。

それに、みずきちゃんが僕のこと好きじゃなくても、僕は瑞希ちゃんのこと好きだもの。

まぁ、嫌われてないみたいだから良かったよ」

「…明久くん」

「勿論、優子ちゃんも好きだからね」

「んっ…ありがと」


 こうして、明久くんと瑞希の関係は修復された。


……


 その後は結局同じクラスになれなくて、明久くんと私達は段々離れていくことになる。

只、その日のお見舞いに明久くんと二人で買った白いウサギの髪留め。

瑞希は高校生になった今でもそれを付けている。

その様子を見ても、彼女が明久くんを特別に思っていることは確かだった。


(応援するわよ、親友)


Side end

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