第3話 高校生になりました


 ここ、文月学園の高校生になった私は、此処の学生になって思ったことがある。

それは――。


「全員動くな! 鞄を机の上に置いて、中身が見えるように開け!」


 先生含めて変わってるなぁ、です。

まぁ、私は特に何もおかしなものは持ってきてないからいいのだけれど…まるで軍みたいな対応(と外見)だよね。

あ、明久くんの番だ。


「少しは僕を信頼――」

「おい明久、DSが落ちたぞ」

「ん?ああ、ありがとう」


 明久くんは相変わらずなんだなぁ、と再理解した。

っていうか、何で裾からDS? どうやって裾を膨らませずに入れてたの?


「先生、少しは僕を信頼してください!」

「お前はジャージすら着るな」

「そんなぁっ!?」


 何で服からゲームソフトやDVDが出てくるんだろ。

小説や漫画だけならわかるけど…。


「お前は学校をなんだと思っているんだ?」


 多分、勉強をするところだとは思ってるはずですよ。…1割くらいは。


「検査に時間を取られたので、HRは省略する。一時間目はいよいよ"試験召喚実習"だからな。全員速やかに体育館に移動するように」


 はーいと返事をするクラスメイト。

‥ただ、これって体操着に着替える意味はあるのだろうか?



Side 吉井明久


 ―試獣召喚(サモン)っ!


 体育館に響く声を聞きながら、僕は隣に座る雄二に話し掛けた。


「…朝からついてないよね」

「全くだ。たくっ、あのMP3プレイヤー、先月買ったばっかだぞ」

「うわ、買ったばかりだったんだ」

「高かったんだぞ畜生」


 悔しげに呻く雄二を見て、今日ばかりは同情を感じた。


「明久はゲーム機とかだったな。それも、かなりの量」

「うん…総額三万はいったと思う」


 ゲーム機本体、ソフト、DVD&CD…etc。

はぁ、タイミング悪いなぁ。


 ―次、姫路瑞希。前に出なさい

 ―は、はいっ


「お、姫路が出るぞ。ムッツリーニ、せっかくの体操服姿だ。写真に収めなくていいのか?」

「…………デジカメは没収された」

「そっか。残念だったね。クラス違うから、姫路さんの体操服姿なんてもう拝めないよ」

「実習もこれっきりだしな」

「…………(ガックリ)」


 本当に残念そうにうなだれる彼をみる。

 まぁ、無理もない。柔らかで明るい髪、あどけなくて可愛い表情、シャツを押し返して自己主張するふくよかな胸部。

僕だって撮れるものなら撮っておきたい。


 ―さ、試獣召喚(サモン)っ


 自信なさげにつぶやいた彼女の足元に、幾何学的生法人らしきものが浮かび上がった。

 そして、傍らに現れる姫路さんの召喚獣。

とても大きな剣を持っていて、しかも鎧まで着ていた。

 点数で装備が変わる仕様なので、どれだけ彼女が優秀かがわかる。

事実、彼女は4000点近い点数を持ってして、相手の子を圧倒していた。


「そう言えば、明久は姫路と知り合いじゃなかったか?」

「そうよ」


 雄二の質問に答えようとした僕の代わりに、答えてくれる声があった。

後ろを向いて確認する。…木下優子さんだ。

 綺麗な茶色の長髪ポニーテールに、強気そうだけども、優しそうな瞳。

可愛いと綺麗が同時に実現している彼女は、姫路さんと僕の共通の友達だった。

 姫路さんとはクラスが違うくなって中々会えなかったけど、優子さんは何回か運動会とかで同じチームになったことがあるから、姫路さんよりは付き合いは深い。

…まぁ、どっちもどっちみたいなものだけど。


「小学校の頃にクラスメイトだったのよ。私と瑞希、明久くんでうさぎの世話とかやってたわ」

「ほ~、そうなのか。…まぁ、来年同じクラスになる可能性は皆無だろうな」

「…………つまり、会う機会はもうゼロ」

「下手するともう忘れられてんじゃねぇか?」

「うぅ~」


 図星を突かれ、唸ってしまう。


「バカね。忘れられるわけ無いでしょ。瑞希はそんな薄情な子じゃないわよ」

「次、木下優子」

「あっはい! それじゃあね」

「うん、じゃぁね」


 順番が来たらしく、それだけ言って、優子さんは先生の元へと向かった。

その後、直ぐ僕の番が来て、試獣召喚をした。…学ランに木刀って、何時の不良なんだろ。



Side 島田美波


 (あ、相手って優子か)


 見知った顔に安心しながら、召喚をする。

 ウチにとって、優子は恩人だ。

言葉を教えてくれたり、自分の友達を紹介してくれたりしてくれた。

困っていた妹を、瑞希と助けてくれた上に、人形をプレゼントしてもらった。


 (ホント、感謝してもしきれないわ)


 だからと言って手加減するわけがない。それこそ失礼だ。

科目は数学で自分の得意分野・・だったが、ものの見事に圧倒された。


 (相変わらず、凄いわね)


340点という数字を見て、感心する。

優子は、勝ったのが嬉しいのか、召喚獣が可愛いのか、召喚獣とじゃれあっていた。


 (…あれ?)


召喚獣と、じゃれあってる…?


 (召喚獣って、触れたっけ?)


 その疑問に夢中になっていた優子も気づいたらしく、召喚獣を胸に抱いたままピタリと固まっていた。

そして、数学の先生が再起動するまでの少しの間、周りが騒がしい中ウチ達は静止していた。


……


Side木下 優子


 右隣には先生、自分の胸の中にはデフォルメされた私がこちらを見上げている。


 (うん。どうしてこうなったんだろ)


 一年では殆ど召喚する機会がなくて、しかも戦うなんてまずなかった。

 だから勝って嬉しくて、つい召喚獣を撫でて・・そしたら何か嬉しそうにしたから思わず抱きしめちゃって・・。

そこでそう言えば召喚獣って基本触れなかったような気がして、マジマジと観察して。

しばらく召喚獣とにらめっこしてたら、先生が私を連行して‥学園長室へ。


「失礼します」

「し、失礼します」


 入ると、一番偉い人が座る席に、偉そうなお婆さんがいた。

この人が学園長らしい。‥小説では挿絵で出たことがなかった気がするなぁ‥。


「ちゃんと出たさね」

「え、何の話ですか?」

「いや、気にしなくていいよ‥で、アンタが召喚獣と触れ合ったっていうガキかい?」

「木下優子です」

「そんなのはどうでもいいさね‥本当に触れてる、というかフィールドがないのに出てるのかい?」

「えぇ‥そうみたいです」


 にしても、なんて失礼な学園長なの。このおばあさん本当に学校のトップ?


「取り敢えず、検査は当たり前にして‥アンタには色々と協力してもらうよ」

「えっと、協力って‥研究にですか?」

「あぁ。アンタは何故か知らないが、オカルトの存在である召喚獣と、こっちの操作なしで触れ合った。これは異常で、問題で、喜ぶべき課題だ」

「は、はぁ」


 もしかしなくても、この人ってマッド?


「とにかく、木下優子。アンタには全面的に協力してもらうよ」

「拒否権とか‥?」

「一介の生徒にあると思ってんのかい」

「ですよねー」

「さ、まずは検査さね。本当は面倒だから後回しにしたいんだけどね。一応、ここ学校だからねぇ」


 (学校でよかった‥)


 此処が学校じゃなかったら私どうなってたのやら。


……


 そうして、検査含めた諸々が終わったのが午後7時になったりした私は、家に帰ってから浴槽でぼーっと考え事をしていた。

結果は聞いたし、普通は信じられないようなことも聞いた。

 でも‥うん、諸々納得できた。


 (だって――私自身がオカルトみたいな存在だしね)


 結果は、私と召喚獣が深いところでシンクロしているらしい。

パーセンテージはどう弄っても10%を切らないとか。

要は常時観察処分者状態みたいな感じだ。‥明久君よりはパーセンテージ低いはずだけど。


「はぁ。特典ってわけじゃないよね、アナタ」

『?』


 消し方は簡単で、私が意識すれば消せる‥正確には還せる召喚獣。

フィールドがなくても存在し続けられる召喚獣。試しに家で召喚してみたら、見事に出来た。

楽しげにパシャパシャと泳いでいるが、私はそんな楽しい気分ではない。


 (参ったなぁ‥目立つつもり、なかったのに)


 数学340点‥これは、私が自分で課した枷だった。

以前、自分の頭の良さを試したくて、無制限式のテスト‥すなわち、学校と同じ方式でダウンロードしたソフトをやってみたのだ。

 そうすると、結果があり得ない数字をたたき出した。

流石に化け物染みていて、ヤバいと思った私は、総合点数を上位10位以内、かつ6位以下になるようにと色々考えて頑張って操作したのだ。

 別に他の人の点数を見たわけじゃない。最初はちょっとミスって3位以内に入っちゃったけど、その後は少しずつ順位を落とすことに成功した。


 (なのに‥まさかこうなっちゃうなんて)


 異常、問題、イレギュラー‥でも、ある意味必然的で、当たり前の事象。

さすがに私にはこれを如何こうすることもできない。

まぁ、受け入れるしかないわけだ。


「これからよろしくね、私」

『~♬』


 この後、彼女のせいで色々厄介なことになるのだが‥まぁ、それは後々ということで。



Side end

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