第3話 高校生になりました
ここ、文月学園の高校生になった私は、此処の学生になって思ったことがある。
それは――。
「全員動くな! 鞄を机の上に置いて、中身が見えるように開け!」
先生含めて変わってるなぁ、です。
まぁ、私は特に何もおかしなものは持ってきてないからいいのだけれど…まるで軍みたいな対応(と外見)だよね。
あ、明久くんの番だ。
「少しは僕を信頼――」
「おい明久、DSが落ちたぞ」
「ん?ああ、ありがとう」
明久くんは相変わらずなんだなぁ、と再理解した。
っていうか、何で裾からDS? どうやって裾を膨らませずに入れてたの?
「先生、少しは僕を信頼してください!」
「お前はジャージすら着るな」
「そんなぁっ!?」
何で服からゲームソフトやDVDが出てくるんだろ。
小説や漫画だけならわかるけど…。
「お前は学校をなんだと思っているんだ?」
多分、勉強をするところだとは思ってるはずですよ。…1割くらいは。
「検査に時間を取られたので、HRは省略する。一時間目はいよいよ"試験召喚実習"だからな。全員速やかに体育館に移動するように」
はーいと返事をするクラスメイト。
‥ただ、これって体操着に着替える意味はあるのだろうか?
☆
Side 吉井明久
―試獣召喚(サモン)っ!
体育館に響く声を聞きながら、僕は隣に座る雄二に話し掛けた。
「…朝からついてないよね」
「全くだ。たくっ、あのMP3プレイヤー、先月買ったばっかだぞ」
「うわ、買ったばかりだったんだ」
「高かったんだぞ畜生」
悔しげに呻く雄二を見て、今日ばかりは同情を感じた。
「明久はゲーム機とかだったな。それも、かなりの量」
「うん…総額三万はいったと思う」
ゲーム機本体、ソフト、DVD&CD…etc。
はぁ、タイミング悪いなぁ。
―次、姫路瑞希。前に出なさい
―は、はいっ
「お、姫路が出るぞ。ムッツリーニ、せっかくの体操服姿だ。写真に収めなくていいのか?」
「…………デジカメは没収された」
「そっか。残念だったね。クラス違うから、姫路さんの体操服姿なんてもう拝めないよ」
「実習もこれっきりだしな」
「…………(ガックリ)」
本当に残念そうにうなだれる彼をみる。
まぁ、無理もない。柔らかで明るい髪、あどけなくて可愛い表情、シャツを押し返して自己主張するふくよかな胸部。
僕だって撮れるものなら撮っておきたい。
―さ、試獣召喚(サモン)っ
自信なさげにつぶやいた彼女の足元に、幾何学的生法人らしきものが浮かび上がった。
そして、傍らに現れる姫路さんの召喚獣。
とても大きな剣を持っていて、しかも鎧まで着ていた。
点数で装備が変わる仕様なので、どれだけ彼女が優秀かがわかる。
事実、彼女は4000点近い点数を持ってして、相手の子を圧倒していた。
「そう言えば、明久は姫路と知り合いじゃなかったか?」
「そうよ」
雄二の質問に答えようとした僕の代わりに、答えてくれる声があった。
後ろを向いて確認する。…木下優子さんだ。
綺麗な茶色の長髪ポニーテールに、強気そうだけども、優しそうな瞳。
可愛いと綺麗が同時に実現している彼女は、姫路さんと僕の共通の友達だった。
姫路さんとはクラスが違うくなって中々会えなかったけど、優子さんは何回か運動会とかで同じチームになったことがあるから、姫路さんよりは付き合いは深い。
…まぁ、どっちもどっちみたいなものだけど。
「小学校の頃にクラスメイトだったのよ。私と瑞希、明久くんでうさぎの世話とかやってたわ」
「ほ~、そうなのか。…まぁ、来年同じクラスになる可能性は皆無だろうな」
「…………つまり、会う機会はもうゼロ」
「下手するともう忘れられてんじゃねぇか?」
「うぅ~」
図星を突かれ、唸ってしまう。
「バカね。忘れられるわけ無いでしょ。瑞希はそんな薄情な子じゃないわよ」
「次、木下優子」
「あっはい! それじゃあね」
「うん、じゃぁね」
順番が来たらしく、それだけ言って、優子さんは先生の元へと向かった。
その後、直ぐ僕の番が来て、試獣召喚をした。…学ランに木刀って、何時の不良なんだろ。
☆
Side 島田美波
(あ、相手って優子か)
見知った顔に安心しながら、召喚をする。
ウチにとって、優子は恩人だ。
言葉を教えてくれたり、自分の友達を紹介してくれたりしてくれた。
困っていた妹を、瑞希と助けてくれた上に、人形をプレゼントしてもらった。
(ホント、感謝してもしきれないわ)
だからと言って手加減するわけがない。それこそ失礼だ。
科目は数学で自分の得意分野・・だったが、ものの見事に圧倒された。
(相変わらず、凄いわね)
340点という数字を見て、感心する。
優子は、勝ったのが嬉しいのか、召喚獣が可愛いのか、召喚獣とじゃれあっていた。
(…あれ?)
召喚獣と、じゃれあってる…?
(召喚獣って、触れたっけ?)
その疑問に夢中になっていた優子も気づいたらしく、召喚獣を胸に抱いたままピタリと固まっていた。
そして、数学の先生が再起動するまでの少しの間、周りが騒がしい中ウチ達は静止していた。
……
…
Side木下 優子
右隣には先生、自分の胸の中にはデフォルメされた私がこちらを見上げている。
(うん。どうしてこうなったんだろ)
一年では殆ど召喚する機会がなくて、しかも戦うなんてまずなかった。
だから勝って嬉しくて、つい召喚獣を撫でて・・そしたら何か嬉しそうにしたから思わず抱きしめちゃって・・。
そこでそう言えば召喚獣って基本触れなかったような気がして、マジマジと観察して。
しばらく召喚獣とにらめっこしてたら、先生が私を連行して‥学園長室へ。
「失礼します」
「し、失礼します」
入ると、一番偉い人が座る席に、偉そうなお婆さんがいた。
この人が学園長らしい。‥小説では挿絵で出たことがなかった気がするなぁ‥。
「ちゃんと出たさね」
「え、何の話ですか?」
「いや、気にしなくていいよ‥で、アンタが召喚獣と触れ合ったっていうガキかい?」
「木下優子です」
「そんなのはどうでもいいさね‥本当に触れてる、というかフィールドがないのに出てるのかい?」
「えぇ‥そうみたいです」
にしても、なんて失礼な学園長なの。このおばあさん本当に学校のトップ?
「取り敢えず、検査は当たり前にして‥アンタには色々と協力してもらうよ」
「えっと、協力って‥研究にですか?」
「あぁ。アンタは何故か知らないが、オカルトの存在である召喚獣と、こっちの操作なしで触れ合った。これは異常で、問題で、喜ぶべき課題だ」
「は、はぁ」
もしかしなくても、この人ってマッド?
「とにかく、木下優子。アンタには全面的に協力してもらうよ」
「拒否権とか‥?」
「一介の生徒にあると思ってんのかい」
「ですよねー」
「さ、まずは検査さね。本当は面倒だから後回しにしたいんだけどね。一応、ここ学校だからねぇ」
(学校でよかった‥)
此処が学校じゃなかったら私どうなってたのやら。
……
…
そうして、検査含めた諸々が終わったのが午後7時になったりした私は、家に帰ってから浴槽でぼーっと考え事をしていた。
結果は聞いたし、普通は信じられないようなことも聞いた。
でも‥うん、諸々納得できた。
(だって――私自身がオカルトみたいな存在だしね)
結果は、私と召喚獣が深いところでシンクロしているらしい。
パーセンテージはどう弄っても10%を切らないとか。
要は常時観察処分者状態みたいな感じだ。‥明久君よりはパーセンテージ低いはずだけど。
「はぁ。特典ってわけじゃないよね、アナタ」
『?』
消し方は簡単で、私が意識すれば消せる‥正確には還せる召喚獣。
フィールドがなくても存在し続けられる召喚獣。試しに家で召喚してみたら、見事に出来た。
楽しげにパシャパシャと泳いでいるが、私はそんな楽しい気分ではない。
(参ったなぁ‥目立つつもり、なかったのに)
数学340点‥これは、私が自分で課した枷だった。
以前、自分の頭の良さを試したくて、無制限式のテスト‥すなわち、学校と同じ方式でダウンロードしたソフトをやってみたのだ。
そうすると、結果があり得ない数字をたたき出した。
流石に化け物染みていて、ヤバいと思った私は、総合点数を上位10位以内、かつ6位以下になるようにと色々考えて頑張って操作したのだ。
別に他の人の点数を見たわけじゃない。最初はちょっとミスって3位以内に入っちゃったけど、その後は少しずつ順位を落とすことに成功した。
(なのに‥まさかこうなっちゃうなんて)
異常、問題、イレギュラー‥でも、ある意味必然的で、当たり前の事象。
さすがに私にはこれを如何こうすることもできない。
まぁ、受け入れるしかないわけだ。
「これからよろしくね、私」
『~♬』
この後、彼女のせいで色々厄介なことになるのだが‥まぁ、それは後々ということで。
…
Side end
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