♯2アバター

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ようこそ HUMAN ONLINEの世界へ


あなたはこれから、今とは別の人生を歩むことになります



金持ちになりたい

遊んで暮らしたい

希望の仕事に就きたい

世界を支配したい



このゲームでは、自分のやりたい事が全て出来てしまいます


さぁ、理想の自分を作りましょう

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俺は目が離せなかった。

(やばい、楽しそう...)

シンプルな導入から始まったそのゲームは、俺の心をがっちり掴んだ。


次に小さい子供と若い青年が現れた。

頭の上にはそれぞれ「6」、「20」と書かれていた。


『アバター作成を行って下さい』

スピーカーから突然、声がした。


顔、体、性格などの細かい設定ができるものが表示されている。

「うわ、マジか...。」

思わず声が出てしまう。


下の方に目をやる。「自分に近づけると、よりこのゲームを楽しめます」と赤く書いてある。

「確かに似てた方が自分の事のみたいに楽しめるな...。」

どうしようか迷った。

ここに時間をかけるべきか、かけないべきか。

アバター作成で満足してしまうのが少し嫌だったからだ。

少し悩んだ挙句、例の二人に聞いてみることにした。

スマホを起動し、コミュニケーションアプリをタップする。


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                   なぁなぁ、後藤はアバターどうする?

     

そりゃ、イケメン作るだろうよ。

理想通りにできんだから。


                              そうか、藤谷は?

                    

分かんない、気分。


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藤谷は相変わらず素っ気ない返事だった。


(そうだよな、思い通りにできるし。メインはここじゃないから別にいっか。)


顔をディスプレイに向け、マウスを動かし、ランダムのボタンを気に入るアバターが出るまで押し続けた。


5回ほど押したところで手を止める。

見た目は爽やかで、スポーツやってますよ感が出ている。

性格は生真面目で紳士的。しかし、ずる賢い。


(性格が面白いな、こいつにするか)


ランダムを押して気が付かなかったが、作成しているのは青年で、それに合わせて子供が連動していた。


作成を終了し、サーバー選択に移る。

快適と表示してあるサーバーをクリック。


『注意事項を読みますか?』


ロード中に案内がパンという音とともに表示される。

めんどくさいと思い無視をする。


ロードが終わると真っ白な空間に先ほど作った子供がぽつんと立っている。


『この子供に、将来に必要なスキルを与えて下さい。ここでの選択で、将来就ける仕事が決まります』


「はぁ...。」

思わず溜息をつく。

こんなにめんどくさいものだとは思わなかった。

それに、どこかのゲームに似ている気がしてならない。

やめようかと思ったが、憧れたゲームだ。簡単にやめるのはどうかと思った。

気持ちを持ち直し、スキルを選択していく。

スキルと言っても興味がある分野を選択するようだ。



時計に目をやる。短針は9を指している。外は真っ暗だ。

およそ一時間半かけて作ったアバターは机に座っている。

俺はベッドにうつ伏せになっている。

スキル選択が思いの外楽しく、これがいい、あれがいい。

一人会議をずっとやっていた。

アバターの名前はカタカナでヒサシ。

ネーミングセンスが無いので仕方がない。

ヒサシは机に向かってペンを走らせている。

勉強しているのだ。

勉強する分野を選択して、放置。

それによって経験値が溜まっていく。

一定値貯まれば年齢が上がるという仕組みらしい。

勉強できる回数は1日5回まで。

徐々に能力値を上げていく...


「うあぁぁぁぁ!」

俺はこの間の後藤になってしまった。

楽しいのとめんどくさい気持ちが交じり合って狂った。

「小、中、高、大、全部やるんかーい」

謎の一人ツッコミをする。

すると、部屋のドアが開く。

「なによ?大きい声だして。近所迷惑になるからやめなさい。」

母さんの冷めた声が俺の意識を覚ました。

「あぁ、ごめん。ちょっと興奮してて。」

母さんは不思議そうな顔で部屋を出て行った。

いかんいかん、冷静にならなければ。


ヒサシの頭の数字は7に上がった。チュートリアルみたいなもなのか、すぐに上がった。

5回の勉強を終えると自由に行動ができる。

外で遊んだり、自分の家でゲームをさせたり。

ここでも経験値が得られる。

遊ばせ方によっては性格が形成されたり、消えることがあるらしい。

最初に設定した性格は基盤のようなもので、モノによっては有利にすすめる事ができるようだ。

ヒサシの「ずる賢い」という性格は、お小遣いが通常より多くもらえる。

お小遣いはいわゆるゲーム内マネーで、ゲーム内時間で一ヶ月ごとにもらえる。

このお金で自分の服を買ったり、食べ物を買う事ができる。

この他にも事細かく、様々なシステムがあり、一度には理解ができない。


街に出ると、そこには日本の町並みがあった。どうやらここは渋谷のようだ。

(小学生が渋谷て...)

俺が知らないだけで、実際はいるかもしれない。

すでに多くのユーザーが思い思いに歩き回っている。

気ままに探索をする。さすが渋谷、有名な店が建ち並んでいる。

ちらほらと、ヒサシと同じ数字を頭の上に掲げている子供がいた。

早速近づいてみると、コマンドがいくつか出た。


・話しかける

・じっと見る

・ちょっかいをだす

・喧嘩をする

・友達になる


渋谷のど真ん中で2人のお互いを知らない小学生が喧嘩...

想像しただけて少し笑える。


(なるほど、他人といろんな形で接せるのか)



時計は両針とも12を指していた。

ゲームをやると時間経過が早い。

明日も特にすることは無かったが、ヒサシのせいで疲れたのでベッドに潜り込んだ。



翌朝 7:30


起きると出社前の父さんがコーヒーを飲んでいた。

「おは..よう..」

ふあぁぁと情けないあくびをする。

「おはよう、久志」

父さんは俺を一瞥して言った。

朝飯を食べようと冷蔵庫の中を覗いた。

特に何なかったので、牛乳を取り出し、コップへ注ぐ。

いつも家族で食事しているテーブルに向かい、父さんと並ぶように座った。

テーブルの目の前にはテレビがあり、情報番組がやっていた。

『お次はPick Upコーナー!我々番組スタッフが気になったニュースをお知らせします!』

(朝から元気だな...)

何気なくその一覧を見ていると、少し気になるニュースが目に入った。


〈全世界で引きこもり増加〉


番組のアナウンサーは次々と他のニュースを取り上げていく。

そして、そのニュースを取り上げる。


『全世界で引きこもりの割合が増加しているようです。主に20代に多く見られ、原因の6割型がオンラインゲームの影響だそうです。小林さん、これをどう見ますか?』

小林と呼ばれた、いかにも専門家の風貌を持つ男はアナウンサーに向かって

『いやー、驚きましたね。昔はいじめとかが原因でしたが、オンラインゲームですか...。時代ですかねぇ。』

中身の無い意見にアナウンサーが頷く。

「久志、お前PC買ったらしいな。あーなるなよ。」

父さんがしっかりとこっちを見て言う。

「いやいや、ならないって。心配しなくて大丈夫だよ。」

笑いながらそう言ったが、昨日の自分を思い出すと、確信が持てなかった。

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HUMAN ONLINE 👤 茶甲 兜 @kabutp5810

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