HUMAN ONLINE 👤

茶甲 兜

♯1ログイン

ついに、ついにこの時が来た。来てしまった。

退屈な生活から抜け出せる!

PCのディスプレイにはソフトのインストールが98%終わっていると表示していた。

ピコンッ


インストールが終わった。


ごめんな、二人とも。我慢できないわ。


ディスプレイ上にある黒い人型のアイコンをクリックする。

 ___________________

                                

                    

     【HUMAN ONLINE 👤】  

  

                    

 ___________________


シンプルな黒文字でディスプレイに表示されるその文字は8年間我慢していた気持ちを一気にふっ飛ばしてくれた。

ログインするためにサイトで登録したメールアドレスとパスワードを入力する。


パァァン


甲高い音は何の躊躇もなく一人の青年を受け入れた。


|

|

|

|

|

|

|


「おめでとう久志、はいこれ合格祝い。」

手渡しされたのはどこにでもある茶封筒だった。

「え?なにこれ?父さん。」

「中見てみろ。」

茶封筒の口を広げる。

そこには10000の数字と壱万の文字が見えた。しかも1枚ではない。

軽く数えるだけで10枚はあった。

「こんなに貰って大丈夫なの?」

ニヤつく顔を抑えて平常を保つのは大変だ。

「いいんだ。久志が希望の大学に入れたんだから。でも、ちゃんと考えて使えよ。」

「わかった。」

大学受験は大きく成功とは言えなかった。第1、第2志望ではなく第3志望に合格したからだ。それでも家族は労ってくれた。


翌日


中学からの付き合いの後藤と藤谷とで家の近くのファミレスで集まっていた。

「HUMAN ONLINE やっとできるな。楽しみでしょうがないわ。わくわくしすぎて落ち着かねぇ。 あぁぁぁっっ。」

後藤が狂ってる。確かに外から見ても落ち着きがなかった。異常なほどに飲み物を飲んでいる。

「まぁ、落ち着けって。ゲームは逃げないんだから。」

俺は後藤を制した。

「でも、あのゲームが動くスペックのPC買わないとなー。高いよなー。」

藤谷がのんきな声で言っている。



HUMAN ONLINE....

それは8年前にたった6人で作られたオンラインゲーム。

今では全世界に広がり、ユーザー数は億を優に超えている。

とんでもないゲームだ。

売り文句は「あなたの別の人生を送りませんか?」

なんかの勧誘にも聞こえなくもない。

その他にも

「何でもありの世界!」

「現実世界を限りなく再現したこのゲームを遊びつくせ!」

心惹くような言葉が連々と並んでいた。

当時の俺は10才だった。目にした途端、やりたくてたまらなかった。

しかし、このゲームは満18才以上でないと遊べなかった。

ネット上のレビューでは「精神的に幼く、善悪の区別がつかないような子供にやらせるゲームではない。規制をかけて正解。」と投稿してあった。

驚いたことに、このゲームの動画にもすべて年齢制限がかかっていた。

不満に思いながらもプレイできる年齢まで我慢していた。




ここに集まっている3人は、共にこのゲームを遊ぼうと誓い合った仲間である。

今日はどのPCを買うのか、どういった人生を送りたいかの話し合いをしていた。

後藤がバッグから雑誌を取り出した。

「さ、さ、さ、どどどどどうする。」

後藤の目は目玉が引き抜けるんじゃないかぐらいに見開いていた。


怖い


狂人化した後藤は止められない。


雑誌には「○○○推奨ゲーミングPC!」と様々なオンラインゲームが推奨するPCが並べられていた。

やはり一際目立っていたのはあのゲームだった。

PCの箱の中身の紹介をしているがその辺の知識は皆無だ。

すぐさま値段に目をやる。

20万5800円と書かれているが、そこには二重線が引かれていて、

その下に「15万円!!!」と書いてあった。

「へー、ギネス記録達成キャンペーン だってよ。」

藤谷が表情変えずに言った。

「タイミング良かったわ。ちょうど祝い金が入ったから買えるわ、この値段。俺即決だわ。」

スマホを取り出し、店とPCの型番のメモをした。

後藤と藤谷がうらやましいそうにこっちを見ている。

「ちっ、俺は多分まだできない。親戚から祝い金貰うからーーー!」

バタンッと後藤がテーブルに突っ伏した。

テーブルの上のコップが幾つか倒れる。

藤谷はじっとこちらを見ている。目で訴えてきた。


お前、ふざけんなよ。


そう訴えてきたように思えた。

「ごめん、二人とも。先に買うけどプレイはしないから!藤谷はいつ買える?」

「来週中には買えると思う。」

後藤が顔を伏せながら

「俺は月末ー。はぁ...。」


この3人のなかで廃人になりそうなのは後藤だと思った。


その後、どういった人生にしたいか話し合った。

俺  〈現実ではできない、今したいことをして生活したい〉

後藤 〈ギャングみたいに暴れてみたい〉

藤谷 〈何かしらの団体を作り、リーダーを務めたい〉


藤谷からは危険な匂いがする。何かしらって何なんだ...。


他愛の無いの話しをし、これからの大学生活の楽しみを語り合った。

気付くと外は真っ暗だった。

眠たかったので「家に帰るわ」と残る2人に別れを告げた。



2月の中旬。

まだ冷え込む季節。

スマホを取り出し、時間を確認する。


18:20


ついでにさっきメモをした内容を確認する。

店まではそんなに遠くはない。一旦、家に帰って金を持って行こうと思った。



ファミレスを後にして、およそ一時間後。

俺は秋葉原にいた。

メモにある店を探し、入店。

店員に型番を告げ、購入手続きをした。

配送料がかかるのを忘れていたが、高くはなかったので気にしなかった。

家に届くのは明日の午後だそうだ。

店を出て、ホットひと息ついた。


(あんなに安くなってたのによく売れきれてなかったな...。)


軽く疑問に思ったがすぐに流した。

ウキウキ気分で家に帰る。



翌日、俺は家に届いたPCを早速設置をして、HUMAN ONLINEのサイトに向かい、クライアントのインストールを開始した。





















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る