(電話編)

 このかんにも、目をつぶりながらあお向けで寝ている蒼姫雫先輩へ無数の花びらが降り注ぐ。それは、まるでスローモーションのように…。そうして、静寂が流れる中、とつじょとして起き上がり、無言で立ち去ると、蒼姫さんは、校舎の方向へ風をかき分けて行った。自分たちも走って、蒼姫さんを追いかける。

 校内の下駄箱置き場に着いた自分たちは、正面玄関に脱ぎ捨てられた下靴を見つけた。それは、蒼姫さんの"モノ"だった。どうやら、蒼姫さんは、下靴に履き替えらずに靴下のまま、新校舎内に入って行ったようだ。正面玄関のあるB棟から渡り廊下を経由して、探偵部の部室があるA棟に入る。4階に辿たどり着くと、の鍵は開いていた。夕暮れが差し込んでいる"いろの部室"の中では、蒼姫さんが窓側の部長席で、何かをめくっていた。

「何を観ているんですか?」

 自分が問いかけると、蒼姫さんは即答した。

「これは、"4年前"の志名川高校アルバム。」

「その卒業アルバムに何があるんですか?」

「私、気づいたの。この4年前の卒業アルバムに"ある二人"が写っていたことに」

「"ある二人"って‥まさか!」

「その、まさかよ。小早川君」

 卒業アルバムの個人写真ページを捲り続けた蒼姫さんが手を止めた。

「あった!これよ。」

 蒼姫さんが指を差した組別ページの先には…。

『大梅先輩と富林先輩!!』

 白菊さんと近森刑事が遅れて引き連れてきた土野植警部一同も声を上げた。そこには、ハッキリと大梅先輩と富林先輩が写っていた。土野植警部が教頭先生を問い詰める。

「これは、どういう事ですかね?教頭先生」

「……」

 しかし、教頭先生は口をつぐみ、答えるのをしぶった。すると、蒼姫さんが代わりに答える。

「あくまでも私の推測ですが、もしかすると、大梅甲斐先輩や富林元彦先輩は何かしらの原因で、高校卒業ぢかに"留年"したのではないですか?例えば、体育館裏での決闘ケットウとか。」

「それは、本当ですか?教頭先生!」

 土野植警部の語気にされたのか、教頭先生は素直にうなずいて事実と認めた。

「ですが、この事件との因果関係があるとは…。ちょっと、君たち待ちなさい!」

 教頭先生が重い口を開いて言いかけた途端、今度は白菊さんが無言のまま、その"卒業アルバム"を持ち出して、部室をあとにした。かさず、蒼姫さんがクサビのフォローを入れる。

「少々、お待ち下さい。それでは、失礼します。」

 そう言うと、蒼姫さんも部室を後にした。自分も警部ご一行に会釈をして、蒼姫さんについて行く。

「どこへ行くんですか?」

「答え合わせをしに行くの。Telephoneテレホン Answerアンサー.よ」

Telephoneテレホン Answerアンサー?」

Hintヒントは、小早川君にとって、"身近な人物"。」

 白菊さんを追って階段を下り、かろやかに渡り廊下を進む。蒼姫さんのヒントを考えていると、いつの間にか自分は、お経のように独り言を呟いていた。

「身近な人物、身近な人物、身近な人物、身近な人物、身近な人物、身近な‥身近な人物!」

「もう、お分かりね。"前"探偵部長の先輩。」


 自分達が1階に着く頃には、白菊さんが遺体発見現場付近にあるピンク色の公衆電話で電話を掛けようとしていた。未だ現場には、愛知県警とマークされた黄色い規制線が張られている。電話の受話器を取って、ギザ十(円)を入れる。あとは、連絡先の電話番号に沿って、ダイヤルを一桁ずつ右に回すだけだ。

 白菊さんは、受話器を片手に電話台の上で、例の卒業アルバムを開き、パラパラと後ろ方のページを捲り始めた。確か、卒業アルバムの後ろ側は、タウンページのように各卒業生徒の電話帳となっている。ズラリと並んだ名前と電話番号のれつ

 ちなみにしんせきのお兄さんの電話番号は、自分も一切いっさい、知らないし分からない。教えてくれない理由は、仕事の都合上らしい。しかし、アルバイト先である街一番のにせ喫茶店"名曲喫茶シャチホコ"の古参常連客が親戚のお兄さんであるがゆえに連絡先を知らずとも、そこで何時いつも出くわす。※ただし、その喫茶店ので、私語は厳禁である。

「小早川ヒカルさん。小早川輝さん、小早川輝さん、小早川輝さん、小早川輝さん、小早川…あった!」

 ようやく白菊さんが、お兄さんの電話番号を見つけたようだ。それには、自分も少しあんした。てっきり、知らない電話番号を聞かれるのかと思っていた。ちなみに名古屋近郊の市外局番は、"052"から始まる。

『052-221-XXX』

 白菊さんは、電話番号の数字を口ずさみながら、一文字ずつダイヤルに指先を掛けた。人差し指で掛けたダイヤルは、り戻しを続ける。

「これで、OK!」

 そう言うと、白菊さんは受話器を耳に当てた。

「出ないかなー。」

 まるで白菊さんが、彼氏に電話をする彼女かのようにつながるのを待っている。

「繋がらないなー。」

「華絵。ちょっと、代わって」

「いいよ」

 なかなか繋がらないため、今度は蒼姫さんが電話番になる。

『トゥルルルル…もしもし、こちら情報屋"コバヤカワ"です。』

 「ご無沙汰ぶさたしています。小早川輝さん」

『ひょっとして、この声は蒼姫君かい?』

 「そうです。こんばんは」

『こんばんは、蒼姫君から電話が来るなんてじつめずらしい。』

 「お忙しい所、すいません」

『いやいや、こちらこそ。電話が繋がらなくて、すまない。今、電話が立て込んでいて。』

 「それで実は、ご相談がありまして。しかも、早急な…」

『その物言いは、何か大変な出来事が起きたような言い草だね。』

 「おさっしの通りで。実は、学園内で殺人事件が起きまして…」

なにっ!志名川高校で、殺人事件?これまた物騒ぶっそうな。』

 「ええ。それで、卒業生である小早川輝さんに"おたずね"したい事がありまして」

『それは、何だい?』

 「"4年前"の志名川高校で一体、何があったのか?教えて頂きたいのです」

『なぜ、4年前のを知りたい?』

 「その4年前の出来事が今回の事件に関係している可能性があるからです」

『それは、本当か?』

 「事件との接点があることには、変わりありません」

『そうか…分かった。では約4年前の志名川高校内で一体、何があったのか教えよう。一旦いったんは、“被害者”から相談を受けて、カタラレザルに書いたものの、あまりにも衝撃的な出来事だった為か、何者かがその2ページを破り去るレベル。いわゆる志名川高校の禁忌タブーだ。心して聴いてほしい』

 「よろしく、お願いします。」

『あれは4年前の志名川高校3年生2学期終盤、冬休み直前の出来事だった。自らの進路も決まり、あとは高校を卒業して、大学受験組や企業就職組がせったくする時期に突入していた頃。あれは、不運にも起きてしまった。同級生の間では、"生徒会抵抗テイコウ事件"や会長弾劾ダンガイ裁判。当事者である生徒会長の名字から、"オノデラ事件"とも呼ばれていた。』

 「"オノデラ事件"?」

『ああ…当時の生徒会で会長をつとめていた今は亡き、オノデラ ユウコ。』

 「今は亡き??」

『それが休学直後の冬休みに自殺をしてしまってだな。』

 「自殺…原因は?」

『冬休み直前に同級生である3年生のが放課後の校内で、"決闘けっとう"をおこなったんだ。"ある一人の女子生徒"をめぐって…』

 「その女子生徒って、まさか!」

『そうだよ。オノデラ ユウコだ』

 「そうなれば、同級生の二人は、大梅甲斐さんと富林元彦さんですね」

『ああ、そうだ。って、いつの間にその名前を…まさか!』

 「実は、今回の事件の被害者が、"大梅甲斐さんと富林元彦さん"なのです。」

『なんだと…それで。』

 「それと、もう一つ、お尋ねしたいことが…」

『それは、何だい?』

 「その亡くなったオノデラ ユウコさんに"兄弟"はいましたか?」

『兄弟?…多分、いたよ。"4歳"年の離れた弟が…名前は確か、オノデラ ユウトだったけかな。』

 「それは、本当ですか?」

『本当だよ。今は、"きゅうせい"になられているらしいが…』

 「そうですか…。貴重な情報ありがとう御座いました」

『こちらこそ、どうも。それと、今回の情報料は、事件解決の手掛かりとしての情報タレコミだからタダでいいよ。』

 「いいんですか?」

『いいんだよ、母校に関係する事件だし。』

 「本当にありがとう御座いました」

『あと、そこにいるであろうすぐ君にも、よろしく伝えといてくれ。事件解決を祈る…』

 蒼姫さんと親戚のお兄さんの電話は、蒼姫さんの断片的な会話で大体の内容をさっした。

「輝さんが、小早川君によろしく伝えといてくれ。と言っていたわよ」

「ありがとう、蒼姫さん。それで、事件の行方は…。」

「これで、"オウ"ね!」

 かろやかな決め台詞セリフようだったが、蒼姫さんの眼光ガンコウ何時いつにもまして鋭かった。

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