(中編)
よく見ると、ナイフと
どうやら、自分たちが一番に
もう一人の女子生徒は、立ち上がれないくらいに泣いている。
「この方、
「えっ。」
「ほら、よく見て」
蒼姫さんが男子生徒の生徒手帳を見せてくれた。自分は、生徒手帳の氏名
『三年一組
「ちゃんと、顔も見比べて」
蒼姫さんの言う通りに生徒の顔と生徒手帳の顔写真を見比べてみた。
「同じ人だ!」
「そうよ。探そうとしていた
蒼姫さんの
「何があったー!返事をしろー!」
「殺人事件です。既に警察は呼んでいます。」
「今すぐ、そっち行くから待ってろー!」
「はいっ。」
階段から降りてきたのは、バイクのヘルメットを被り、防犯用チョッキを着て、さす又を手にした先生たちだった。先生が自分たちにさす又を振りかざしたままだったので、蒼姫さんは先生たちに現状を報告した。
「ここに犯人らしき人物は見当たりません」
その言葉を聞いた瞬間に教頭先生は、さす又を捨てて、男子生徒に近づこうとした。
しかし、蒼姫さんが教頭先生を制止させる。
「残念ですが、富林元彦さんは、既に亡くなっています。ついさっき、確認しました。現場保存の為、ご理解ご協力
蒼姫さんの言葉を聞いて教頭先生が、ゆっくりと、歩みを止める。そして先生たちは、さす又を振りかざすのを止めた。
「さっき言いましたように警察には、既に通報しています。」
蒼姫さんと白菊さんがこれまでに事件を解決してきたことを知っている為か、先生たちは、蒼姫さんの指示に従った。その間に第一発見者と思われる女の先生と女子生徒は、保健室に移されて、小宮も別室で休憩することになった。そして、校舎内にいる生徒には、「"その場で一時待機するように"」という校内放送の緊急アナウンスが敷かれた。
警察が来るまでに自分と先輩二人は手分けして、現場観察を
「
「大丈夫です。ところで、
「私は大梅先輩が、この事件に一枚
「あっ。雫も、そう思ってたんだ。あたしも今、そう思っていた所だよ。」
「蒼姫さんと白菊さんは、第一発見者である美術部顧問の女の先生と美術部1年の女子生徒を疑わないんですか?」
「今の段階。つまり現時点では、犯人の可能性を肯定も否定も出来ないわ。仮に発見者の二人が演劇部の所属だったら、少しは自作自演の可能性を疑ったかも知れないけど…」
「雫の言う通りね。これから、犯人をあぶり出すのよ」
「あっ。」
「それ!」
「いきなり、どうしたんですか?」
「ズボンをよく見て」
そう言って、蒼姫さんが被害者である富林先輩の制服ズボンを指差す。そこには、多数の小さな
「でも
「朝とかに付いたんじゃないですか?」
「それは無いと思う」
「えっ‥?」
蒼姫さんにいきなり否定された。その理由を蒼姫さんから聞こうとしたが、代わりに白菊さんが説明をしてくれた。
「雫の言った通りね。簡単な話よ、雨は正午から降っているから朝の時点では、まだ地面の土は泥になっていないって話。ここ数日間は、雨なんか降っていなかったし、今までそのままだったという事もね。それに、もし仮に別の理由で泥が以前から付いていたとしても、これだけの数なら本人も気がついて、泥を払い落としている
「なるほど。」
そう白菊さんの説明に
「小早川君も、こっちに来て。やっぱり、あったの!」
蒼姫さんに呼ばれて、自分もドアに近づいた。扉の外を
「これって、
「その通り、足跡よ。」
蒼姫さんの視線の先には、泥に
「どちらかの足跡が亡くなった富林さんという人の足跡であるということではないんですか?」
「小早川君の推測にあたしの考えでは、ハーフ・ハーフね。」
「それは、どういうことですか?」
「考えは、いい線を行ってると思うわ。けれど、彼の靴を見て。その上靴には、全く泥で汚れていないの」
白菊さんの指摘で、富林先輩の靴を見る。確かに靴には、泥が全く付いていなかった。それに履いているのは、"上靴"だ。
「華絵の言う通りだけど、
「そう。だから、小早川君の推測に“ハーフ・ハーフ”。」
「私も思っていたの。犯人が靴をすり替えることも出来るという事にね。それに、あの上靴の
「雫、上靴の確認はまだだったよね?」
「うん。だから‥」
「それじゃあ、上靴の確認ね」
「あのー、足跡は…」
「後で、後で。」
そう言って白菊さんは、
「失礼します。あれ?上靴が取れない」
「もしかして、"
「多分、違うと思う。さっき、首筋で生存確認をした時、まだ首は死後硬直しかけだったの。環境や温度差で少なからず影響は出てくるかも知れないけど、普通は死後二時間~三時間程度経過してから
「蒼姫さん、
「こういう知識は全て、米国で私立探偵をしている叔父さんから教えて
「まあ。ウチの姉ちゃんの場合は、"自称"シャーロキアンだからね。雫、ちょっと代わって」
「いいよ」
今度は、白菊さんが上靴を取ることになった。
「本当に取れないね。うん?足指が
「華絵の言う通りかも…」
「うーん。どっこいしょっと!」
白菊先さんは、力を振り絞った。
"すぽっ"
「やっと、取れたー。」
「白菊さん、力が強いですね」
「十年間、
「そうなんですか?蒼姫さんも!」
「そうよ。それで華絵、上靴の名前はどう?」
「ほら見て、名前が書かれていないわ」
白菊さんが見せてくれた富林先輩の上靴には、確かに名前が書かれていなかった。
「その上靴を本当に富林先輩が買ったというのはないんですか?」
「買ったかどうかまでは判断できないけど、さっき華絵が言ってた通りなら、自分の靴のサイズなんて間違えないでしょ?」
「それじゃあ、上靴の買い間違えは。」
「すぐに買い直してると思う。それにサイズが合わなくなったら、上靴の
「あたしも、雫の意見に同感ね」
「そうしたら、“どうして犯人は、富林先輩の靴を取り替えたか”ですね」
「小早川君の言う通り、そこが問題ね…」
そう言うと、蒼姫さんは富林先輩の上靴を見ながら腕組みをした。すると、富林先輩の上靴を元に戻した白菊さんが不思議そうな顔で尋ねてきた。
「少し話が変わるんだけど、あたしも、さっきから一つだけ気になっている事があるんだけど二人共いい?」
「いいよ」
「いいですよ」
蒼姫さんと自分は、白菊さんの質問を聞いた。
「あたし達は現場保存の為に指紋を付けない用の白手袋をはめているけど、彼が両手にしている黒色の手袋は、どうだと思う?」
「私には分からないけど、男子である小早川君なら分かるかも。」
疑問を振られた自分は難しく考えると、切りがないと思い単純に考えて答えた。
「ただ単に今週末の天候が梅雨入り間近で、肌寒いから手袋をはめていたんだと自分は思います。富林先輩は、
「だって、華絵。」
「やっぱり、あたしの気のせいかー。」
あまり自分が言ったことに対して、白菊さんは納得してなさそうだった。そうしていると、遠くの方から聞こえていたパトカーのサイレン音が、こっちに近づいているのが分かった。
「警察の方、妙に遅かったわね。」
「他の車がスリップ事故を起こして、その渋滞に巻き込まれたんじゃないの?」
「雫の言う通りかもね…」
数分後、パトカーのサイレン音が志名川高校内に
「もう、ここから
「大丈夫だよ。ここの
「そうね。会うのは約一年ぶりかしら‥」
「“あの警部さん”?」
「来た来た。あの真ん中にいる刑事さんが、
白菊さんが言うように廊下の奥から教頭先生と共に二人の刑事さんらしき方々が、こっちに向かって来た。二人の刑事さんは小走りしながら教頭先生と話をしている。真ん中にいる刑事さんが
「君たち、そこで何をしているんだー!そこには入っちゃいけない!!」
「いや。刑事さん、あの子たちは…」
教頭先生が何とか刑事さんたちに説明しようとしているのが分かる。すると、真ん中にいる土野植警部も、こっちに気が付いたようだった。
「おっ!久しぶりじゃねえか。」
「警部のお知り合いですか?」
「知り合いも
「もしかして、以前に警部が言われていた“例の少女達”ですか?」
「ああ、そうだ。」
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