(後編)

「久しぶりだな。SHERLOCKシャーロック GIRLSガールズ!」

「お久しぶりですね。土野植警部」

「土野植警部、お久しぶりです!」

 蒼姫さんの次に挨拶あいさつをした白菊さんが左手で綺麗きれい敬礼けいれいする。

「今日の敬礼も、ばっちりと決まってるじゃねえか。」

「毎朝、休まず敬礼を猛練習していますから。」

 そう言って白菊さんは、もう一度、綺麗に敬礼をする。それを見て、土野植警部が、"うんうん"と頷いた。そして、自分に気づかれた様なので挨拶をする。

「おっ。新入りか?」

「初めまして、志名川学園高校探偵部1年部員の早川ばやかわ すぐです。」

「俺の名前は、土野どのうえ しんという。因みに警部だ。れい、正しいね。志名川学園高校っていう名前をどこかで聞いたことがあるなぁ。と思ってたら、シャーロック・ガールズが通っている高校だったのか。そう言えば、会うのは去年の七夕祭りの一件、以来だったな‥。」

 自分の挨拶の流れで、蒼姫さんに話を振る土野植警部。

「あれから、まち美恵子みえこさんは元気にしていらっしゃいますか?私たち、少し心配していたので…。」

「彼女か?ああ、元気にしているよ。ちゃんと、生きて罪を償うってな。まぁ彼女にも、情状酌量ジョウジョウシャクリョウの余地があるから大丈夫だろう。」

「本当ですか?それは、よかったです。」

「でも、あの事件に関しては君たちがあの場所にいなかったら、未解決のままだったかも知れない。本当に感謝する。」

 そう言うと、土野植警部は頭を下げた。蒼姫さんは少し驚きつつ、土野植警部に話しかけた。

「いえいえ。こちらこそ、恐縮です。頭を上げください。土野植警部」

「すまないな‥。」

 二人の話を聞いていた自分は、ふと疑問に思った。そう言えば、確か…。

「会話の途中で申し訳ないですが、その事件ってしかして、隣町となりまち七夕町たなばたちょうで起きた"七夕町事件"ですか?」

「その通りよ。小早川君…」

「でも当時、"七夕町事件"を中京新聞で知ったんですが、記事の内容には一切、蒼姫さんや白菊さんのことが書かれていなかったはずですよ?」

「その事も踏まえて俺は今、謝っている。上の連中たちは、民間の方に事件を解決されて、あまり良くないと思っているんだ。所謂いわゆるプライドというものだ。そいつを守るために上の連中たちは、報道に圧力を掛けているんだ。でも、これだけは思っていてほしい。俺たち下っは、そんなことを一つも思っちゃいない。少なからず、プライドというものは、俺たちにもあるが自分たちを守るために警察をしているんじゃない。法と市民を守り、正義を守る為にしているんだ。このことは、小早川君の心にも置いといてほしい。長話すまなかった‥。」

 土野植警部の話を聞き、しみじみしていると白菊さんが全員に話しかけた。

「さっきから思っていたのですが、この若い刑事さんは誰ですか?」

「そう言えば、里竹さとたけの紹介はだったな。新入りの里竹だ。よろしくしてやってくれ。」

 土野植警部が、そう言うと、里竹さとたけ刑事は会釈えしゃくをした。自分と蒼姫さんも会釈をしたが、白菊さんは相変わらずの様で、ぐに土野植警部との会話を続ける。

「それじゃあ。近森ちかもり刑事は、何処どこにいるんですか?」

「近森は今、ここのグラウンドに向かっている。」

「どうして、ですか?」

「どうやら、"人らしきもの"が、グラウンドの奥に倒れているらしいんだ。」

『人らしきもの!!』

 蒼姫さんと白菊さんの驚く声が被った。土野植警部は、二人の声に少し戸惑とまどいつつも、会話を続けた。

「ああ。それで、近森を向かわせている。」

「土野植警部、ここにいたんですか!」

 突然、廊下の奥から声が聞こえた。

「近森刑事の声じゃない?」

 そう、白菊さんが蒼姫さんに話し掛けた。見てみると、一人の若い刑事が、こっちに向かって廊下を走っていた。

「本当ね。近森刑事だわ」

「あれが近森刑事…。」

 土野植警部よりも背が高く、顔がシュッとしている。大阪タイガースの次世代エース候補である大型若手投手に風貌ふうぼうが似ていた。土野植警部が、その近森刑事に声を掛ける。

「おい、廊下を走っちゃいかんだろー。」

「すいません。でも、それどころじゃないんです!」

「どうしたんだ」

「それがグラウンドの奥に倒れていたものが、"人らしきもの"ではなくて、“人”だったんです!」

「人だった!?」

 今度は、土野植警部が驚きの声を上げた。近森刑事は、土野植警部の驚く声にかなり戸惑いつつも、報告を続けた。

「発見した時には、既に亡くなっていました。服装と被害者の生徒手帳から、この高校の生徒だと分かりました。そして、被害者の顔と生徒手帳の顔写真の一致から、被害者は、3年生の大梅おおうめ甲斐かい歳。性別は、男性。被害者は、ひもで首をめられて、殺害されていました。凶器の"赤い紐"は、被害者の首に巻き付いたままでした。」

 近森刑事の報告で、自分は絶句ぜっくした。まさか、探すはずだった人間がすでにこの世からいなくなっていたとは…。そう思っていたが、蒼姫さんと白菊さんは特に驚きもせず、顔の表情も変えてはいなかった。まるで、想定内だったかの様に…。その後、蒼姫さんと白菊さんは、土野植警部たちに今までの経緯を事細かに説明した。そのあいだ臨場りんじょうした鑑識かんしき係の方々かたがたが現場の証拠採取しょうこさいしゅおこなっていた。


 蒼姫さんと白菊さんの一通りの説明が終わり、土野植警部と里竹刑事は、校舎内にいる生徒や先生たちの事情聴取をしている。その間に自分たちは、近森刑事と共にグラウンドの奥にある“もう一つの現場”へ向かった。

 外の雨はすっかり止み、雲の切れからは、太陽のまぶしい日差しが照らし出されている。グラウンドぎわに小さなビニールシート通路が敷かれていた。そして、通路から少し離れたグラウンド側には、二つの足跡があった。その通路を近森刑事⇒蒼姫さん⇒白菊さん⇒自分の順で、歩いている途中、蒼姫さんが近森刑事に二つの足跡について尋ねた。

「さっき、ここに着くのが少し遅れたのは、道中でスリップ事故の渋滞に巻き込まれてね…」

「近森刑事に一つ尋ねたいことがあるのですが。」

「なんだい?」

「私たちが歩いてる通路の近くに二つの足跡がありますが、それらは、誰の足跡なんですか?」

「ああ、その足跡かい?二つの内の一つは、被害者である大梅甲斐さんの足跡だと分かったんだけど、もう一つの足跡が誰のものか・・。まだハッキリとは、分かっていないんだよ」

「失礼ですが、近森刑事さん達はして、大梅先輩の場所に辿り着いたのですか?」

「僕たちかい?僕たちは、このビニールシートの下にある側溝そっこうふたの上を通って来たよ。丁度、あったからね。」

「そうですか…。ありがとうございます」

「蒼姫さん、何か気づいた点でもあったのかい?」

「いいえ、まだ何も…。」

「そっか。また気になる事があれば、すぐに言ってくれれば、いいからね。小早川君も白菊さんも、守秘義務範囲外の答えられる範囲の質問は、"極力"答えるようにするから。」

「はーい」

「ありがとうございます」

白菊さんと自分は、前にいる近森刑事に返事をした。校舎から校庭の奥までは、歩いて約数分で着く。そうこうしている内に"もう一つの現場"へ着いた。近森刑事が話をする。

「ここが、もう一つの現場だ。被害者の遺体は、鑑識課の人たちが証拠採取をしていて、すでに運び出されているけど…」

 もう一つの事件現場は、グラウンド奥にあり、数十年に一度の大寒波に見舞われた影響で遅咲きとなった桜木さくらぎかたわらだった。踏み荒らされた痕跡こんせきのある地面上には、立ち入り禁止と黒字で書かれた黄色い規制線が貼られ、その隣には、被害者があお向けに倒れていたと思われる白い人型の張縄はりなわロープが目印として地面に囲われている。両腕は、気をつけの状態で手を下げており、両足は仁王立ちの様に開いていた。

 すると、いきなり蒼姫さんが黄色い規制線内に立ち入り、その張縄ロープ内であお向けに寝転がった。それは、まるで遺体のように…。それを見た自分は思わず、驚きの声を上げてしまった。

「いきなり、何しているんですか。蒼姫さん!?」

「被害者の気持ちになるの‥」

「なに寝言を言ってるんですか!これじゃあ…」

「小早川君、いいんだよ。これが事件の解決に繋がるから。」

「近森刑事まで!!」

「"超感覚的知覚"」

「えっ。」

 聞き慣れない言葉を白菊さんが口にした。

「それが雫の持っている唯一無二の"巻き戻し再生リピート能力ビジョン"。通称、"RE:WINDワインド".」

「それって、つまり…。」

「つまり、“特殊能力ESP”だよ。別名、"第六感シックスセンス"とも言う。信じるか信じないかは小早川君、キミ次第。」

 近森刑事や白菊さんの言葉にぜんとした。単なる空想や漫画の架空設定に出てくるはずの特殊能力が身近に存在していたとは…。これこそ、事実は小説よりも奇なり。たしかにに落ちないことが山ほどあった。なぜ、子供ながらにして難事件を解決することができたのか?ましてや、"幼少の頃"からすでに事件を解決していたということにも辻褄つじつまが合う。

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