(解決編)

 私と華絵が前探偵部長である早川バヤカワヒカルさんに電話をした後、放課後の校内に残っていた全生徒の"アリバイ"が成立したということで、警察は校内にいた生徒達を家路に着かせた。それでも、"私達"は校舎に残っていた。一緒に居残り授業をするためだ。例のを手本として…。


「あなたが今回の事件の真犯人カタラレザルですね?」

 日が沈みかけていた校庭グラウンドを"写真同好会"のの窓から眺めていた人物に探偵部の部室で待ちぼうけた挙げ句、自らむかえに来た私は、静かに問いかけた。

「仮に"俺"が犯人なら、一体どうしますか?」

 一人称が変わった彼は、私の問いかけに反芻はんすうする形で、聞き返してきた。

「私が全身全霊ゼンシンゼンレイで、この事件を解決するまでよ!」

 私は堂々と、そう言い切った。窓から入る夕風ゆうかぜで、ゆらゆらと揺れる二つ影が、まるで陽炎かげろうのようにたわむれる。そして、本性を現した彼は、窓越しに不敵な笑みを浮かべながらこう答えた。

復讐フクシュウという言葉は、復讐というものであるがゆえに存在するもの。"SHERLOCKシャーロック GIRLSガールズ"とうたわれる稀有けうな先輩メイ探偵さん。だがしかし、俺は無実となるだろう。何故なぜなら、俺には証拠しょうこも動機も、何一つないからだ!」

 彼は独りでにそう言ったが、私は復讐者であろうと決して容赦ようしゃはしない。

「だったら今、あなたがいている"その上靴"は一体、誰のモノかしら?」

 彼は意表を突かれたように問い直した。

「それは、どういうことだ?」

「警察の捜査を撹乱かくらんさせる為にリスクを負ってまでして、わざと今あなたがいている上靴は、被害者である富林元彦さんのモノ。しかし、その行動が蛇足だったわね。それが動かぬ証拠になった。今すぐ、脱ぎなさいよ。その上靴を!」

 私は彼に問いただした。しかし、往生際の悪い彼は、開き直り始めた。

「もし、仮にそうだとしても一体、何になる?カネか名誉か?」

 動機がなければ、裁判で心神喪失の無罪になると踏んだのだろう。でも、私には分かる。

「それに事件の動機は、あなた自身にある。それが、"4年前の復讐…"」

「4年前の復讐?何の事だか、さっぱり。」

「4年前、あなたのお姉さんが亡くなる直接の原因につながった"映像写真部"内で起こった決闘けっとう。」

「…………………………………………………………」

「あなたが今回の事件の犯人よ。ミヤ ユウくん。いや、小野オノデラ ユウさん!」

 私がそう言うと、彼は無言のまま、その場で沈黙ちんもくした。そして私は、話を続ける。

「4年前の決闘の結果、当時"生徒会長"だった小野オノデラ ユウさんは不祥事の原因として、学年内の責任を取らされ休学処分。決闘を起こした張本人である二人の生徒も卒業をさせてもらえずにそのまま留年した。そして、その二人こそ今回の事件の被害者である大梅甲斐先輩と富林元彦先輩その人。それを優子さんが自殺する直前に破り持ち去ったカタラレザルで詳細を知ったあなたは、復讐を思いつく。それが今回の事件であり、決闘の再来。先輩二人をおびき寄せるために挑発的な文章のニセの果たしジョウと凶器を先輩たちに匿名で渡した。結果、見事に二人は決闘という名の殺し合いを演じた。その後、あなたは例の果たし状を回収したついでに自らの上靴と富林元彦さんの上靴を交換して履き替えた。これが今回の事件の真相です。この事実に差しつかえないですか?」


「休学直後に自殺した姉の遺書である志名川高校の生徒手帳には、こう書かれていた。*みんな、ゴメン。私のせいで、こんな事になってしまって。大梅君や富林君は、悪くない。悪いのは全部、自分。って…一体、何でなんだああああああああああああああああああ」


 彼は私の話を聞いて叫んだ後、一粒の涙を頬に流しながら、ズボンのポケットから古びた2枚の用紙を無造作に取り出した。そして偶然にも、その紙に押し花のようにして挟まっていた一枚の色褪せた桜の花びらが用紙の隙間から冷たい床木にこぼれ落ちた。

「午後18時00分。殺人キョウの疑いで、あなたに"自首勧告"を言い渡します。」


 そして、警察に逮捕された今でも、彼の断末魔テネシーワルツは放課後の校舎内でだまする。

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SHERLOCK GIRLS*2人のホームズと1人のワトソン 新庄直行 @Shin__Nao

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