唯 見失った先輩と猫。
あれから一週間、
外に遊びに行っても、夕方にはちゃんと戻って来てたのに。おなかすいてないだろうか、どこか怪我してないだろうか。
ねぇレオきゅん、先輩とケンカしちゃった日に、何でキミまでいなくなっちゃったの? あれから私、一人ぼっちになっちゃったんだよ。すごく私のこと大切にしてくれてたのに、彼にひどいこと言っちゃったんだ……。
――もしかして、先輩を傷付けたから
大学にも行かずに毎日あちこち探してるけど手がかりは
今日もレオ探しでクタクタになった私は、体を引きずるように家に戻った。
すると――、部屋の前に、何か生き物がうずくまっていた!
「レオ!」
私は思わず駆け寄った。でもよく見たら、それはレオじゃなくて……白ウサギ?
その子はくるりと私の方を向くと、
「ざんねーん、僕は
……私、疲れて幻覚でも見てるのかな?
「レオの奴、うちで保護してるんだけどさ、さっさと引き取ってくれないかな?」
そう言ってウサギは、私のスカートの裾をきゅきゅっと引っ張った。
私は試しに自分の顔をつねってみた。いたたたた、幻覚じゃない。
信用してもいいのかな? どうやら悪霊でもなさそうだし。
もしかして、こないだの『しゃべるレオきゅん』も、夢じゃなかったのかな?
「レオはどこ?」
「ついてきて!」
「わ! ば、化けた!」
ウサギはいきなり、袴姿の
「ウサギがその辺歩いてたら目立つでしょ?」
「え、そこぉ?」キミもそこそこ目立ちます。
「ボクね、ここの神様やってるの」
「えっ! ホントにぃ?」
「ホントだってば~。信じてよぉ」
石段を登り、半信半疑で鳥居の前で突っ立っていると、彼はすたすたと本殿前に行き、賽銭箱の脇に腰掛け、私を手招きして自分の隣に座るよう促した。
「あの……うちの
「とりあえず座ってて。すぐ来るからさ」
「はぁ……」
私は、渋々
「君可愛いね。化け猫にはもったいない」
神サマ(?)はいつのまにか私の肩に手を回し、紅い瞳を私の顔に近づけてきた。
「ボクのお嫁さんにしちゃおっかなぁ……。いいでしょ?」
神サマ(?)は突拍子もないことを言うと、いきなり私を床に組み伏せた。
私は腕をガッチリと掴まれて、身動き一つ取れなかった。
「いやっ……放してっ」
「あいつが構ってくれないから、欲求不満なんでしょ? 一緒に楽しもうよ……唯ちゃん」
「いやぁ、先輩! レオ! 助けてぇぇっ!」
叫んだ瞬間、境内に怒号と悲鳴が響いた。
「このクソウサギッ! ブっ殺すッッッ!」
「えっ? ……ぅぐぎゃッ!」
「せ、先輩!?」
強烈な蹴りを喰らった
「大丈夫か、唯!」
先輩は駆け寄って私を抱き上げ、乱れたブラウスを直してくれた。
「先輩、どうしてここに?」
あんなひどい事を言っちゃったのに……。
ほっとしたら、急に涙が
「怖い思いをさせて済まない。もう大丈夫だから……」
先輩は私にそう語りかけると、頬の涙を舌で優しくすくい取ってくれた。
――まるでレオがするように。
そのとき私は、先輩の頭の上に不思議なモノを発見した。
蝶々結びのリボンのような――?
まさか……これって、耳!?
「せ、先輩に……猫耳? 尻尾? ええ? こ、こここれって……ほ、本物っ?」
「な、何でもないっ」
先輩は慌てて猫耳を両手で隠した。それはまるで、以前洋画で観た『オーマイガー』のポーズにそっくりだった。
「そ、それより、何でお前クソウサギにオモチャにされてんだよ! 十五回も捨てられてんだから、いい加減学習しろよ、バカ唯!」
十五回……? 私、そんなの先輩に言ったことないよね?
「もしかして貴方……レオなの?」
猫耳先輩は、苦い顔で首を縦に振ると、
「俺のこと、怖くないのか? こないだ悪霊だのなんのってパニクってたろ」と呟いた。
――間違いない、レオきゅんだ。その時、私の頭の中で、全てのモヤモヤが晴れた気がした。
「正直驚いてるよ。でも、先輩もレオきゅんも、どっちも大事だし。さっき神サマの変身も見たから、少しは免疫がついたのかな?」
「免疫……ね」
彼は怖々と頭から手を下ろした。そこには見慣れたアメショ色のレオの耳が立っていた。
「ショックだったよね。悪霊憑きだとか、顔も見たくないとか、ひどいことばっか言って」
「もういいよ……唯」
「少し……痩せたな」
「この一週間、ずっと探し回ってたんだよ」
「寂しかったか?」
「うん。すっごく寂しかったんだから……」
「勝手に出てって済まなかった」
「ほんとだよ……このバカ猫」
腹いせに
「いででッ、悪かった。で、何でここに?」
私は
みんな師匠の茶番かよッ、と凄む
「だって君さ、唯ちゃんと仲直りしたいって言ってたじゃん。元サヤに戻れたし、カミングアウトも出来て良かったでしょ。何か問題あるぅ?」
と、悪びれもせず言った。
「アリアリだ! 『呼ぶまで出てくるな』とか言って、何ヒトの女をいじくりまわしてやがんだ! このエロウサギ!」
「でも~、キミのコーチ代とエサ代と考えれば、格安でしょ?」
「それとこれとは別だ! クソエロウサギ!」
私は彼等のやりとりにすっかり呆れた。
……で、コーチ代ってナニ?
「帰るぞ、唯」
「戻ってきてくれるの?」
「まだ猫缶たくさん残ってるだろ。俺が食わずに誰が食うんだ」とむくれた。でも彼の尻尾は、ユラユラと嬉しそうに揺れていた。
「バレバレだよっ、レオきゅん」
「……きゅ、きゅんはやめろ。恥ずかしい」
彼は顔を真っ赤にして、ぼそっと言った。
石灯籠の陰から、神サマが満足そうにこちらを見ている。
そっか、思い出した! ここの御利益って――。
私は
サンクス、縁結びの神サマ!
P.S.――それから私は、
はみ☆ミミ ~恋する猫と女子大生~ 東雲飛鶴 @i_s
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