復讐の形
「……良かったよ。あなたを"殺した犯人"が分かって。」
私は笑っていた。何て清々しいんだろう。
『麗那…?』
沙希が怪訝な顔をする。
「…沙希がこれからすること、わかってるよ。
私がずっとしたかったことだから。」
沙希は黙って私を見つめていた。
どんな姿をしていても、どんなことになろうと、沙希は"優しい"。
「……ホントは、私を連れていきたかったんでしょ?
だけど、山下くんの話したことを私が知らないことで、嘘だったってわかった。
だから………、彼を"道連れ"にしようとしてる。」
私は、優しく微笑んだ。
『…ウン、そうダヨ。もう………麗那をツレテいかない。
麗那はイキテ。私の分までイキテ…。』
ぼろぼろと、血と涙を止めどなく流しながら、私を気遣う。
「……哀しいこと、言わないでよ。
私は、沙希のいない世界に残されたくはないよ。
だって…………"ずっと一緒"って言ったじゃない。
沙希だって確認してたじゃない。」
沙希はなにも言わない。
………じゃり。
後ずさるような音が聞こえた。
"山下くん"が真っ青な顔をして立ち竦んでいる。
やっときた…。
「…来てくれたんだね、"山下くん"。
ねぇ、聞きたいことがあるの。」
歩み寄る。沙希は何か言おうと口を開くが、やめてしまう。
…それでいい。沙希は見ていて。
山下くんは何も答えない。
ううん、きっと声が出ないんだろう。
彼にも《沙希》は見えている。
自分の犯した罪を再確認しているに違いない。
「…私たち、話したこともないよね?
じゃぁ、何で"付き合ってる"って言ったのかな?
何で"会わないで"って言ったのかな?」
彼はガタガタと震え出す。
だけど……許してなんてやらない。
「自惚れたくはないんだけどさ。
それって、ただの肥大した妄想癖の"ストーカー"行為だよね?
……迷惑なんだけど。」
…あーあ、失禁してる。
このままだと、立ったまま気絶しちゃうかも?
「…ちゃんと聞いて。」
目の前まできて歩みを止める。
彼は怯えたような目で、私と沙希を交互に見た。
「私はね。………"沙希以上に大切な人"はいないの。
喩え、あなたに告白されていたとしても、"断ってた"。
……それは気がついてたんじゃないかな?」
薄く微笑む。
……彼の表情は絶望しかない。
「……あなたは私の"一番大切な人"を奪った。だから、ね?」
私は更に笑みを深くした。
「"今ここで、アナタが一番欲しいものを奪ってあげる"。」
……私は隠し持っていたナイフを取りだし、自らの首を掻き切った。
『麗那………!!』
……………大好きな人の声が聞こえた。
私は待っていたのかもしれない。
彼女が迎えに来てくれることを望んでいたのかもしれない。
死んでいても、彼女に人を殺させたくなかった。
ただの私のワガママだよ、沙希。
これで、彼は"生き地獄"を"永遠"に味わう。
これが、私の"望み"で"復讐"だ。
………ああ、これでやっと"ずっと一緒"だね。
……サイレンの音が響く。
現場には、"山下くん"一人が残されていた。
"少女の死体"と共に。
警察と一緒にパトカーから降りてきたのは、"香菜ちゃん"だった。
不審に思い、交番に駆け込んだのだろう。
しかし、一足遅かった。
…"麗那"は自殺していたから。
ずっと香菜は心配していた。
沙希が亡くなってから、ずっと。
けれど、沙希を介してアドレス交換をしただけだった。
丁度一年前に亡くなった《沙希》。
丁度一年後にメールしてきた《麗那》。
不安にならないはずがない。
まさか、こんなことになるなんて…。
二人が本当に仲が良いのは知っていた。
きっと…離れ離れが辛かったんだと思う。
……でも、誰もこんな結末は望んでいなかったはずだ。
………気がついた《山下くん》が全てを自供し、真相が明るみになった。
しかし、《沙希》の幽霊を見たことは誰も信用しなかった。
………信じたのは《香菜ちゃん》だけだった。
メールを開いたら…… 姫宮未調 @idumi34
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