再会

…命日当日。

私は花束を抱え、《沙希》に会いに来ていた。



今私がいるのはお墓ではなく、"事故現場"だ。

《沙希》は一年前、ここで何者かに殺された。

犯人は捕まっていない。

私が知っているのはその日、誰かと約束していたらしいと言うことくらい。

その相手が誰かもわからないが、犯人か、最後に会った人物になるのだろう。

彼女の所持品から、携帯は見つかっていない。

GPSも機能していなかった。

……ここで発見されたのは、転落死した彼女の遺体だけ。

落ち方からして、自殺ではないだろうと事故死扱いになった。



許せない。たった一人の友だちを失った私の気持ちなんてわからないだろう。

…私は涙を堪え、花束を抱き締めた。




………どれくらい立ち続けていただろう。

夕焼け空だったのに、もう真っ暗だ。

けれど、何だか帰る気にはなれない。

寧ろ、………………もうカエリタクナイ。



はっとした。何故そう考えたんだろう、わからない。







………誰かに見られているような気がして、寒気で身震いする。

振り向いてはいけない。でも、振り向きたい。

私は……………振り向いた。






そこで…………《沙希》が微笑んでいた。

私は幻覚を見ているのだろうか。

会いたい気持ちが幻覚を見せているのだろうか。


『麗那…。』


私の好きな顔で、私の好きな声で呼ぶ。

幻覚だっていい。私には現実だ。


「沙希!沙希!」


私は沙希に抱きついた。夢中で抱きついた。

…花束は地面に落ちた。

次の瞬間。

真っ赤な液体がぼたぼた落ち始めた。


「さ、沙希…。」


私は思い出した。彼女が死んでいることを。

受け入れたくなかったのに。


『会い…タカッタヨ、麗那。この…………ウラギリモノ!!』


ごうっという風と共に周りの景色が消え去る。

崩れかけた《沙希》が怨念のこもった表情で睨んでいる。

私には彼女のいう、"ウラギリモノ"の意味がわからなかった。


「ど、どういう…こと?」


《沙希》の表情は変わらない。


『シラバックレ…ナイデ!アナタ…、ヤマシタクンとツキアッテたデショウ?!』


…私には寝耳に水だ。


「知らない…。山下くんって、隣のクラスの?

顔は知ってるけど、話したこともないよ。」


本当だ。誰がそんなデマカセを吹き込んだのだろう。


『ウソよ、ウソ!……だって、私はカレニ呼びダサレタのヨ!

アナタが…イエナイダロウ…から、代わりにツタエにキタって!』


一体何の話だろう。預かり知らぬことで、なにも言えない。


『私…トバカリイッショニいたら、アナタがダメになるッテ!

アワナイでくれッテ、イウタメニ呼びダサレタノ!』


《沙希》の目から、血と涙が一緒に流れる。

辛かっただろう。私はそんなことになっているとは知らなかった。


「私!知らないよ!誰とも付き合ってない!

山下くんに文句行ってくるよ!住所は香菜ちゃんに聞く!」


香菜ちゃんは、隣のクラスの沙希の幼馴染みだ。

だから、山下くんよりは面識がある。

親友を騙すなんて許せない。

文句をいってやる。

…ふと、風が止んだ。



『…じゃぁ、ここに呼んでクレル?』


「え?うん、分かった。」


姿は変わらないものの、いつもの口調にホッとする。

…それが何を意味するのかも知らずに。


『……麗那。アナタに教えてアゲル。

私ヲ突き落としタノハ………"カレ"よ。』


…何となく、予感はしていた。

話しながらも、香菜ちゃんにメールを打っていた。

自ら誰かにメールを打つのは……一年ぶりだ。


『香菜ちゃんへ

突然でごめんなさい。あなたのクラスの山下くんの連絡先、知ってる?

知ってたら…………"三丁目のガードレールまで来て"って伝えてください。』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る