第39話 こうして最初の旅は終わる

 とりあえずお母さんを探そう。先生は私と話したいみたいだけど、少しでも早くお母さんの呪いを解いてあげないと。リーゼおばさんなら、お母さんがどこにいるのか知っているかな。

「ルナさん。待ってください」

 んー、先生が邪魔してくる。

「なに? お母さんがどこにいるのか聞きたいんだけど」

「その……いないのです」

 いない?

「お母さんが?」

「はい。その……」

「お母さんがゾンビになっちゃった?」

 先生が驚いた顔をする。私が何か言うと驚かれること多いね。フレンもよく驚いていた気がする。子供だから何も考えていないとか思ってるのかな。たき火の周りで絶望したような顔をしているみんなの方が、よっぽど何も考えていないと思うけど。

「たぶんだけど、一番最初にゾンビになったのはお母さんじゃないかな」

 ソフィアさんは杖を奪うと、最初にお母さんに攻撃した……んだっけ? まあいいや。最初かは知らないけど、お母さんはお父さんの杖を奪ったソフィアさんに攻撃されたって、フレンが言っていた記憶がある。その時にお母さんは呪われてしまった。呪われたっていうのは知ったけど……そうか、お母さんもゾンビ化する呪いをかけられてたのか。そりゃそうだよね。お母さんだけ違う呪いをかけられていたと考える方がおかしい。

「ルナさん。大丈夫ですか?」

「ん……少しがっかりしたかな」

(ルナはまた旅に出るつもりだったろ? 母親を説得する手間が省けたじゃないか)

 そんなこと思うわけないじゃん。杖はうるさいから黙ってて。

「少し休んだ方が良さそうですね。お話は明日にしましょう」

「そうだね。歩き疲れたから寝るよ」

 フレンのソフィアさんを助けるという目標は達成できたけど、私の目標は失敗か。いや、杖は取り返せたから三角かな。

 ……なんでだろ。お母さんが死んじゃったのに悲しめない。なんだか他人事のように感じる。疲れてるからかな。


🌙


 杖を枕にして土の上で寝転んでいると、誰かが私の近くで止まった。敵意とかは感じないから、クラスメイトの誰かがいたずらでもしに来たかな。

「やっぱりルナちゃんじゃない。帰ってきたのね」

 この声はリーゼおばさんか。

「久しぶり。お母さんのことは聞いたよ」

「ごめんなさいね。私が付きっ切りで看病していれば、ルナちゃんのお母さんを助け出すことができていたかもしれない。でも安心して。ルナちゃんのことは、私が責任をもって育てるわ」

「いらない」

 リーゼおばさんはニコニコとした顔で固まっている。そのまま固まっていればいいよ。

「いらないって?」

「リーゼおばさんと暮らすつもりはないってこと」

 リーゼおばさんはゆらゆらと近づいてくると、私の胸倉を掴んできた。

「どうして! ルナちゃんのお母さんとお父さんはいなくなったのよ! これまで優しくしてあげてきたじゃない! それなのに!」

「私は旅を続けるから。お母さんが生きていても、旅をするってお願いするつもりだったよ」

 リーゼおばさんは手を放してくれない。ニコニコしたままの顔で怒られるっていうのは変な感じだ。

 周りのみんなが「どうしたんだ?」とでも言いたそうな顔をして、私たちの方を見ている。あまり騒がしくしたらゾンビが寄ってくるから、早く話を終わらせないと。

「旅を続ける? 子どもは馬鹿なことを言ってないで、大人の言うことを聞いていればいいのよ。ほら、こっちに来なさい」

 リーゼおばさんは胸倉から手を放して、私の腕を掴んで引っ張り始めた。抵抗しても疲れるし、このまま引っ張られてもいいけど、強く掴まれてて痛いから抵抗しよう。

「放して」

 思いっきり腕を振ったら手を放してくれた。また掴もうとしてきたけど、遅いから簡単に避けれた。リーゼおばさんは避けられると思っていなかったのか、体勢を崩して倒れる。

「どうして……どうして私じゃ駄目なの。夫と息子がいなくなってから、自分の子どものように優しくしてきた。ルナちゃんを手に入れるために何でもしてきた。それなのに」

「どうしてお父さんの敵と暮らさないといけないんだよ。証拠とか残ってないからお母さんには言わなかったけど、私はリーゼおばさんのしたことを知ってるんだよ。もしかして、お母さんが死んじゃったのもリーゼおばさんのせいじゃないの?」

「そういえば」

 いつの間にか近くにいた先生が話に入ってきた。

「遠目で見ただけですが、ルナさんのお母さんの胸に包丁のような物が刺さっていました」

「ふーん。リーゼおばさんが刺したんじゃないの?」

「……ふふふ」

 なんかリーゼおばさんが笑い始めた。変わらずニコニコしてるけど、笑い声は不気味。ニコニコしている顔も不気味だけど。

「知っていたのね。早く言ってくれれば、ルナちゃんを娘にすることは諦めて、お母さんの方は殺さなかったかもしれないのに」

「否定しないんだね」

「ええ。隣の家で幸せそうに暮らしているのが許せなかった。だから、二人を殺したついでにルナちゃんを手に入れて、可愛い娘と二人で暮らそうって思ってた。こうなってしまっては、もう生きる理由も楽しみも無くなってしまったわね」

 はぁ……そんなことを楽しみにして、私のお父さんとお母さんと殺したんだ。全然気持ちが分からないね。

「許せないでしょうけど、一つだけ信じてほしい。ルナちゃんのことは自分の娘のように大切に思っていたわ。本当にかわいい。私もこんな娘がほしかった」

「どうでもいいよ。許すとか許せないとかもどうでもいい。もう寝るから邪魔しないで」

 端っこの方で横になる。これ以上は誰も邪魔してこなかった。


🌙


 目が覚めるとまだ夜だった。寝るときは先生が見張りっぽかったけど、今はあまり話したことのないおじさんが見張りをしている。

 そうだ。今なら魔剣を見られる心配が少ないし、この杖を処分しちゃっておこう。お母さんがいないのなら、これ以上杖を持っている必要はない。

 というわけで、さようなら。

(ま、待て!)

 最期に声が聞こえたけど、杖の中央あたりをスパっと斬ると静かになった。杖から魔力もほとんど感じなくなる。もう使い物にならないはず。

 これでソフィアさんみたいな被害者は出ないでしょ。世界中にはこの杖みたいな呪いの武器がいっぱいあるかもしれない。だとしたら、ソフィアさんみたいに利用された被害者はたくさんいるかもしれないね。

 呪いに関してはそこそこ自信があるし、次の目標は呪いの武器探しにでもしようかな。よし、決まり。

 とりあえず朝まで寝よう。おやすみ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

仕方ないので旅に出ます くまくま @tibikumakuma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ