アンチワールド・シンギュラリティ

Jestzona

準備考察。電脳仮想空間で「戦う」必要性は?

「コンピュータの中の世界」「コンピュータが描き出した仮想世界」に主人公が全感覚ごと入り込んで、戦う物語がある。

『ソードアート・オンライン』や『マトリックス』などだ。


 小説『ソードアート・オンライン』は、電脳世界で斬り殺されると現実でも死ぬ、異常なネットゲームの物語だった。

そういう違法な装置がプレイヤーの物理身体に取り付いていた。


 映画『マトリックス』は、電脳世界での傷を「心が現実にする」世界観だった。

「心と肉体は一つだ」とも説明された。

考証はともかく、仮想空間で死ねば現実の体も死にますよという設定があった。


 そういう設定が無い限り。

電脳仮想空間において、切った張ったの戦闘行為は無意味である。

平和な娯楽競技としては成り立つが。


  ◆


 例えば、警官が犯罪者を追う、大真面目な物語の場合。

警官が電脳空間にダイブして、仮想の体アバターで走って犯人を追い掛けたり、殴って押さえつける行為になんの意味がある?

相手だって分身アバターなのだ。

ゲーム画面を動くマリオやロックマンのアイコンと同じ存在だ。

それを捕まえて、現実の逮捕に繋がるのか?


 逃走犯からすれば、たとえ捕まっても「捕縛された分身アバター」を捨てて、「別の分身アバター」で再ログイン・再出現リスポーンすればいいだけだ。

もっと言えば、仮想空間からログアウトすればいいだけだ。


 仮想戦闘そんなことなどをする暇があったら、現実の体を拘束すべきだ。

「現実の体が何処にあるかわからない」なら、敵のアクセスログを調べて探せ。

「所在はわかるけど手が届かない」――あるいは「逮捕よりも犯行阻止を優先したい」状況なら、相手のネット環境に働きかけて活動を制限せよ。


 かの『攻殻機動隊』は、その辺りがわかっているから、電脳仮想空間では殴り合わずに電子戦をやるのだ。

電子戦とは、つまるところハッキング合戦。互いのアクセス権利を奪い合う。

勝者は敗者のネット環境を掌握して、脳を焼いたり、ログアウト不能にしたり、敗者の脳へ好き勝手な情報を入力したりできる。


 この勝負に分身アバターは関係無い。

大規模ネットゲームM M O R P G経験者なら覚えがあると思う。

例えばあなたが夜、ネットゲームにログインしたとき――


Q.知り合いを探すために、いちいち見回すか? 探して歩き回るか?

A.否。名前で検索すればいい。何処に居てソロなのか集団なのか、すぐわかる。


Q.話しかけるために、いちいち同じ場所まで行くか?

A.否。離れたままtellすればいい。クランの共用通信で話しかけてもいい。


 検索できる状態なら、分身アバター同士でわざわざ近付く意味が無いのだ。

『攻殻機動隊』の電子戦も同じ。

相手をデータ的に認識できている状態なら、分身アバターの位置なんか関係無く始まる。

むしろ敵味方双方が分身アバターを使ってないケースも多い。


 仮想空間において、彼我の体勢や位置関係はほぼ意味を持たない。

言わば「発見」「認識」「識別」した時点で、既に捕まえた状態にあるのだ。

後は相手のセキュリティ防壁をいかに破るか、だ。


 もしトグサが、電脳架空市街バーチャルシティアルファで逃走犯の肩を掴み、取っ組み合いなんぞ始めたら?

きっと少佐は「何やってんのよあんたは」とか言って呆れるだろう。

呆れながら犯罪者の電脳を走査し、ハッキングするだろう。


 そのへん『ソードアート・オンライン』は本当によく練られているのだ。

「切った張ったで平和的に競争する場」=「ネットゲーム」を土台にしているから、分身アバターが武器で戦うことに、ちゃんと意味がある。

その上でナーヴギアだのデスガンだのと、「○○で○○されると、ただのゲームのはずなのにマジで死んでしまう」という危急かつ違法の脅威を設けた。

類似の成功例として、同作者による『アクセル・ワールド』や、「未帰還者」になってしまう『.hack』がある。


『マトリックス』や『ソードアート・オンライン』に憧れて、「私も電脳世界でバトルするお話を書きたい!」と思うなら、同じスタイルを踏襲するのが早かろう。


 だから「VRMMO」ゲーム系のネット小説が大量に生まれた訳だが。

私個人としては、ゲームではない電脳世界フルダイブものを――

なおかつ戦闘シーンも現実的脅威もある物語を――

もっともっと世に望む次第である。


  ◆


 以上。読了いただき感謝します。

本考察は続くかもしれないし、続かないかもしれない。

続くとすれば

「じゃあ、どういう話にすれば電脳世界で真剣な戦いを描けるんだ?」

というテーマになるだろう。

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