第5話アパシードール

 未来薬局の噂を聞いたのは、つい数日前の事だった。

 森山課長と飲みに行った居酒屋の主人が面白い話があるといって話してくれたのだ。

「森山くんアレ、まだ売ってる店があるらしいよぉ」

「アレ? アレって何ですか? 」

「ほら、販売中止になった例の栄養ドリンクだよ。どこに行っても売ってないってぼやいてたろう」

「森山課長、アレってあの丸源ドリンクですか? 」

 数年前に、社会現象にまでなった強力な栄養ドリンクがあった。

 飲めば一日中眠くもならないし空腹にもならない。

 つまりぶっ通しで24時間働けるというすごい効能で、発売した直後は日本の経済活動を根底から覆えすのではないかと言われてブームを巻き起こしたのだ。

 しかし、服用した次の日に一気に倦怠感と飢餓感に襲われるという反動が大きい為、使用には注意が必要だった。

「あれにはお世話になったよ、会議資料の作成で徹夜した時も、眠らずに海外出張しなければならない時もドリンクがあったから乗り越えられた」

「そんなに凄いんですか? まだその時は学生だったので、僕は試した事ないんですよ」

 課長のジョッキにビールを継ぎ足しながら話の続きを聴いてみた。

「そうだなぁ、疲れや空腹を1日先送りにできるって感じかな。正念場って時に重宝したよ」

「でも、なんで販売中止になったんですか? 」

「実はある企業が、社員に無理やり丸源ドリンクを服用させ続けて何人も廃人にさせる事件が起きたんだ」

「うわぁ、それは酷いですね」

「その事件を受けて、販売元の製薬会社が販売を取り止めたから、今はどこにも売ってないんだよ」

 課長は懐かしがって、居酒屋の主人と盛り上がっていた。

「その丸源ドリンクが、まだどこかに売ってるんですか? 」

 僕は気になっていた事を直接聴いてみた。

「今は薬や栄養ドリンクは、ほとんどオンラインでしか販売していないけど、田舎にはまだお店で薬を売ってる店があるんだ」

「そうですね。たまに潰れそうな薬局がポツンと駅前にあったりしますし」

「おい、市川。もう一杯頼んでくれ」

 空のジョッキを差し出してきた課長は既にかなり出来上がっていた。

「課長、飲みすぎですよ。明日、お子さんと遊園地に行くんでしょう。二日酔いになったら奥様にも怒られますし」

「いいんだよ。たまの休みなんだから」

 いつもこうなると、課長は寝てしまうので、早めにタクシーを呼んで撤収する事にした。

「これ、未来薬局って薬局なんだが、ネットの地図に載ってないから描いてやるよ」

「ありがとうございます。話の種に行ってみます」

 チラシの裏に簡単な地図を描いてもらい、財布にしまう。

「課長、ちょっと寝ないでください。お会計まだですよ」

 うとうとしている森山課長の財布をひったくり無理やり会計を済ます。

「じゃあ、タクシー呼んだんで気をつけて帰って下さいよ」

「おう、ごちそうさん」

「ごちそうさまです」

 店を出て家に帰り、財布の地図を見てみたが案外近くにその薬局はあるようだった。

 幸い、次の日が休みだったので、行ってみようと考えていた。

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