アパシティーシンドローム

@namimor

第1話未来屋

「いま流行りの未来屋って知っとる? 」

「なにそれ? 」

「なんでも、近い将来に起きる事を前借りできるらしいよ」

「へぇ、なんだか面白そう」

「でもね、前借りするって事は……」

 いつの間にか眠っていたようで、混雑していたはずの車内は京都を過ぎたあたりから空き始めていた。

 夢見心地で聞いていたので、女子高生達のウワサ話の内容はよく解らなかった。

 昨晩は残業で、今朝は早朝から会議があった。

 眠気のピークはとっくに過ぎていて、立ったままでも眠りにつけた。

「やば、降りないと」

 閉まりかけのドアから滑り出し、なんとかホームに降りる事ができた。

「危なかった」

 とにかく目を覚ます為に洗面所で顔を洗う事にした。

 そして、ハンカチを取り出そうとして鞄が無い事に気づく。

 財布も携帯も鞄の中だった。

「どんだけツイてないんだ俺は」

 急いで駅員に事情を話して連絡をとってもらい、幸い鞄も中身も無事だと分かった。

 ただ、遺失物は4駅先で預かってもらい、自力で取りに行かなくてはならなかった。

 仕方なくホームのベンチに座って、電車を待っていると前の人が週刊誌を置き去りにしているのに気づく。

 何気なく手にとってみると、その中に興味深い記事があった。

 アナタの夢を買い取ります未来屋。

 電車の中でぼんやりと聞いていた内容がそこには書かれていた。

 アンケートに答えて、その人の将来性や可能性を診断し、価値がある場合は買い取ってくれるという内容だった。

 まずはお電話を、たった5分であなたの未来を無料で査定します。

 胡散臭い内容だったが、無料という文言に少し試してみたい気持ちが生まれた。

 電話番号が書かれていた紙面だけを切り取って、週刊誌は回収ボックスに放り込んだ。

 そして、電車が到着する頃にはそんな事はすっかり忘れてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る