(7)

「ふーん、で?」

「え、で、って?」

 このとき、俺は同い年のバイト仲間と呑んでいるところだった。

「いや、それ、何年前の話よ」

このバイト仲間は性別的には女の子で、中身的には男っぽい奴だった。

「何年前って......」

 俺は言葉に詰まる。なんてったってそのとき俺は恋愛相談をしていたはずで、

「話を聞いている限りだと、意識し始めたのは2年前のことっぽいけど」

ここまで冷めた顔をしながら突っ込まれるなんて思ってもいなかったからだ。

「2年前のことで悪いかよ」

「別に悪くはないけど、よくもまあ2年も静かに先輩に片想いしてられたなぁって、おもったのよ」

「うるせぇ」

「デートに誘ったこともないの?」

いや、それは、その......

「先輩と、ほかの奴らと5人くらいで遊びにいったことはある」

「それはデートとは呼べませぇぇぇぇぇん」

そんなことくらい分かってる! だから打開策を知りたくて相談してるってぇのに。

「でもさぁ、あんた」

同い年にしてはやけに大人びた表情で、あいつはジョッキを傾けた。

「あんただって、わかってんじゃないの? 何が原因で2年も片想い状態なのか」

「そりゃ、だって、俺が高2の頃は、先輩には学校に彼氏がいてたし、高3の頃は、俺が受験で忙しかったし、今、大学1年の前期が終わって、ようやくプライベートに集中できるようになったって感じで」

あいつはぼんやりと俺を眺めたまま、何も話さない。

「お前だって、5歳も上のフリーターに2年間片想い中だろ! 人のこと、とやかく言ってんじゃねぇよ」

するとあいつは俺をちらりと見ると、ジョッキを一気に干して、

「確かに、あたしもこのままじゃダメだよ。でもね、あたしたちはね、お互いのことを思うと、どうしたって付き合おうなんて思えないの。秘かに慕い合ってるくらいのプラトニックさがちょうどいいのよ」

と言った。

 なんか、ムカつく。

「訳わかんねぇ。変に難しい言葉使ってカッコつけんなよ」

 それを聞いたあいつは、ぴくり、眉を動かした。少しだけその唇に力が入る。そして徐に立ち上がり、財布から5,000円抜いてテーブルに置いた。

「あんた、意外と子供ね。もうちょっと自分の臆病さを理解したら? あたし、先、帰るわ」

「え、ってか、こんなに要らねぇよ、精々3,000円くらいで十分」

「いいよ、お釣りもいらない。もうあんたとは呑まない」

 は? なんだよ、気分悪りぃ。あいつが颯爽と去っていくのを睨みながら、俺は自分のチューハイを喉に流し込んだ。

 この日のことを俺が覚えているのは、何もあいつにイライラしていたからじゃない。「意外と子供ね」って言葉のせいだ。そう、その言葉のせいだ。

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クリビア〜小さなお菓子のストーリー〜 折戸みおこ @mioko_cocoa

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