東京下町の葬儀屋発、さよならツアーズ。一生に一度の想い出の旅を。

人の死は、いくつかの段階を経て完成していくものだと思う。
お通夜、葬儀、遺品整理、墓参り、生前を知る人々との対話。
それらの流れの中でようやく、故人の死を受け入れられる。
身近な人が亡くなったときを思い起こせば想像できるだろう。

主人公、里佳が勤めていた旅行代理店は唐突に倒産してしまった。
昔から家族のように親しんだ葬儀屋一家の手伝いをするうち、
里佳は、喪主である未亡人の北海道への旅を手配することになる。
これが「別れを想い出に変える旅」という仕事の始まりだった。

死と向き合う葬儀屋の仕事を中心に下町の人間ドラマが描かれる。
文体も台詞回しも淡々としているが、決して無味乾燥ではなく、
映像的と言えるほどのリアリティをもって、読者に迫ってくる。
人々が皆、出来すぎていないから、生身であるように感じられる。

本作の主要な登場人物は、誰ひとり、器用に生きてなどいない。
慣れ親しんだ町は元々、東京らしからぬ田舎だったというのに、
今はマンションが建ち、個人店は大手チェーンに取って変わられ、
そろそろ思い切ってしなやかな決断をすべき状況に置かれている。

しかし、全く以てうまくいかないと絶望するには、まだ少し早い。
巡り巡って縁がつながり、思いがけず、誰かが誰かを助ける。
小さな偶然たちに救われながら展開するストーリーはリアルで、
だからこそ真に迫っているし、爽やかで優しくもあって救われる。

「死」というテーマに向き合う人間ドラマは必然、重厚になる。
が、その重厚さに耐えられる書き手と作品はさほど多くない。
本作は葬儀屋の仕事さながら誠実且つ簡潔な態度で「死」を語り、
それによって対比的に現代人の在り方と生き様を浮き彫りにする。

そして読者に問い掛ける。
「さよならツアーズ」に相談したい旅はありませんか?

私には、あった。
祖父の足跡を訪ねて、知りたいことがいくつもあった。
本当に旅に出てみようかなと、そんな気持ちになった。
祖母が元気なうちに、旅の情景を話して聞かせたい。

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