エピローグ
エピローグ
起床後。基地内にある洗面所でアルベルトが水を飛ばしながら顔を洗っていると、背中を誰かに叩かれた。
「よう、エース。朝から無駄に元気だな」
誰が、とブレストに食ってかかるも、ブレストは素早く顔を洗ってタオルで拭く。
「飯行くぜ、アル」
と、ブレストは食堂の方へ行く。
アルベルトはため息をつく。もはやエースという称号と、アルという愛称は固定されてしまった。いくら抗議しても消すことはできないだろう。
もう一ヶ月も前になるあの紛争。アルベルトによる緒戦での三機のAWV撃破は認められた。初陣で共同撃破した機体も、戦果を譲ってもらっていた。
この時点で四機撃破だ。
しかし、
「アル、見つけた!」
顔をタオルで拭っているときに、腰にタックルを食らわせてきた
助けられはしたものの、昇進の妨げとなったのも撃破数を減らしたのもキリだと思うと、心中は複雑である。
国内の基地に戻ってきたものの、キリはプーマとの同盟のシンボルとして中隊に居座ってしまったのである。マスコットなどと評するものもいる。
コンドルに顔をペイントする案があったがさすがに却下した。それでも、ジャンのトラックのドアにはちゃっかりと小さくペイントされている。
そのデフォルメされた三頭身キャラは、他の基地の者からも好評らしいが、本当だろうか。
アルベルトも乗るので消せと言いたかったのだが、キリの意向もあり押し負けてしまった。
ハンマーを担いだ熊に比べ可愛さはないだろうが、こっちには実益があるだけいいのかもしれない。
見た目は太ったオタク体型のジャンだが、絵を描いたのは彼ではない。意外にも、パイロットであるビアンコだった。
どうも、付き合っている彼女との縁が彼のイラストらしいのだが、それ以上は詳しく話してはくれなかった。
「ねえ、アル。またマルスに行かない?」
「お前が銃を振り回すから、嫌だ」
「酷いこと言うわね。あたしも理由がなければやらないわよ!」
そう頬をふくらませる。
「今度はちゃんと食事をするの!」
「考えておく」
腰の手を振り払い、アルベルトは食堂へ向かおうとした。
「次にマルスに行くときは、ガロンも呼ばない。アルと二人でデートする!」
アルベルトの腕に腕を絡め、そんなことを言い出す。今度はがっちりとホールドされ、抜くに抜けない。
「離せ」
「一緒に行くって約束してくれたら離す」
と、平らな胸を押しつけるように密着してくる。そして、見た目に寄らず力が強い。
最初から勝ち目はないのだ。
アルベルトは肩をすくめて降伏を告げる。
「分かった」
「やった!」
たちまち腕が自由になり、キリが飛び跳ねる。
いつまで取り憑かれるのかと、アルベルトは晴れた空を見上げた。もちろん、答えてくれる者などいない。だが、もしいたとしたらこう答えるだろう。
それはアルベルトの努力に関係なく、キリが飽きるまでだろうと。
ファントム・パンツァー ボストンP @redbear
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