あらすじ


 36歳独身OL深町姫香の趣味は読書と茶道、そして絵を描くことだ。彼女は古道具屋「時任洞」の常連だ。店主はどこからどう見ても獏なのだが、存外可愛らしい声で話す大変な読書好きだ。姫香は自分の頭がおかしくなったかと思いながらも、獏とのおしゃべりに夢中になり、本の貸し借りをする友人になる。

 獏は古道具を販売するだけでなく、どんな夢でも見ることができるという壷も売っていた。姫香はそれを買ったことがなかった。あるとき獏が店を留守にするという。彼女は人死にが出るかもしれないという曰くつきの壷をあずかった。獏に壷の封を開けないと夢をコントロールできないと言われたのに、姫香はそれを断った。(睦月――時任洞の物語 うつし世は夢 夜の夢こそまこと) 

 それから毎晩、恋人を置いてフランス留学した画家になった夢を見る。実は彼女は両親に反対されて画家になる夢を諦めていた。繰り返し見る夢に堪えきれず睡眠不足のまま時任洞へ向かうと、獏のかわりに店番をする大学の後輩アサクラと出くわす。(如月――画家の物語 常によく見る夢ながら) 

 アサクラは学生時代、学園祭で姫香に告白してふられた過去がある。彼の所属する軽音楽部の部長酒井晃と彼女が交際していたのに気づかなかったのだ。酒井が他の女性と結婚したのを知ったアサクラは姫香に連絡をとろうとしたが出来なかった。(弥生――浅倉悟志の物語 ドリーム・オン) 

 アサクラが姫香の現状を知ろうとすると、彼女は別れた酒井の家で見た夢日記の話しをしはじめる。(卯月――脇役の物語 春の世の夢の浮橋とだえして)

 そうやってはぐらかした姫香は、今度は自分の人生、酒井晃との付き合いはじめから別れ話しまでを振り返る。(皐月――深町姫香の物語 夢もなく、怖れもなく)

 店でうたた寝してしまった姫香に、アサクラが自分と同居人のミズキは仕事で朝まで帰ってこないので家に泊まればいいと誘う。ミズキはこの店の店主の知り合いだから何かわかるかもしれないと言われ、学生時代の懐かしさにつられて姫香はアサクラと彼らの家へと向かう。アサクラは姫香の荷物に絵を描く道具があることに気づき、彼女はアサクラの名字を浅倉と思い出す。(水無月――学生時代の物語 夢はいつも歌とともにやってくる)

 浅倉の同居人ミズキは中古レコード店の店長で元DJだ。彼はかつてプレイ中に他と異なる心音を聴き、それを頭の中で握りつぶしたことで「誰か」を死に追いやったと感じていた。ミズキは浅倉からの電話ですべてを察した。浅倉のベッドの枕元にある少女の絵を描いたのが深町姫香だと。そして、彼が未だに恋をしていると。(文月――ミズキの物語 一期は夢よ、ただ狂え)

 翌朝、姫香と浅倉とミズキの三人が揃う。それぞれに海外で過ごした思い出などを語りながら互いの鬱屈を垣間見る。姫香はミズキに絵を描けと命じられる。(葉月――作者の物語 ドリーム・タイム)

 雲隠れしている獏は独白する。夢売りで夢を繋ぐ仕事をする獏はミズキを断罪し、姫香の夢から彼女が忘れてしまっていた高校時代の女友達の告白を暴き出す。さらには姫香の夢が最高に美味であろうことも。(長月――獏の物語 夢を見ることに妙をえた人間) 

 また浅倉に告白された姫香は、じぶんが本当に恋愛をしたことがないと考える。彼氏はいたし、今も勤め先の社長と結婚を前提にした交際をしているのに、だ。世の中のひとたちは本当におはなしのなかにあるような恋愛をしているのだろうか。(神無月――不可知の物語 不安な夢から目覚めると)

 ミズキから、浅倉がバクの姿になったと電話が入る。ミズキが浅倉に片想いしていると察した姫香は、今度は逆にミズキから浅倉の秘密を知ったから逃さないと脅迫される。バクの姿の浅倉と話すがそのうち微妙な空気になり、なんのかんのと恋愛の話しになったところで姫香は立ちあがる。(霜月――変身の物語 世の中を夢と見る見る儚くも)

 姫香はひとりで時任洞へと向かう。闇の中で獏と対峙した姫香は、自分がなりたかったものを「王子様」とこたえる。獏は画家とこたえると思っていたと話す。姫香はその後、いちばんイヤだった出来事は高校のとき近所の女子高生が行方不明になったことだと返す。獏は流刑者として人間のために苦役についていると告白し、この世界を離れると告げた。姫香はなんでもするから連れて行ってくれとねだる。すると、ずっと夢を食べずにいた獏は姫香を襲いそうになる。姫香は恐怖に身体を竦ませる。しかし、殺して夢を奪うことはしないと言う獏を信じる。獏は最後に、この場所を《誓》と呼んでいると教えて去った。

 翌朝、姫香は店の床で寝ていて、浅倉は人間の姿に戻っていた。姫香は画家になる決意をし、夢詩壷を埋める。自分の夢をかなえる為に。(極月――私とあたしの物語 夢は個人の神話)



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夢詩壷 磯崎愛 @karakusaginga

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