【CONTINUE】

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一九八九年 三月二十九日(水)

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 春。


 ぼくは無事に受験を乗り切り、第一志望の大学へ入学を果たしていた。

 一年生の中盤から、すべての試験で学年十位以内に入り続けたにも関わらず、ついに学校から推薦入学の話は無し。

 ぼくの内申書には、一体どんな評価が書かれていたんだろう。ゲーム・パラダイスの件を含め、明白な校則違反をしたことは一度も無いと言うのに。


 まあ、校則に新しく「ゲームセンター及びそれに類する遊戯施設への立ち入り」を禁止する一文が追加されたのは、明らかにぼくのせいだと思うけど。


 志望校は理系にした。

 と言うか、二年の進路希望の時点で理系を選択していた。

 ぼくの本好きは有名で、当然文系に進むものと思われていたから、教室でも職員室でもたまに帰る実家でも、「今度はなにをやらかす気だ」という目で見られた。

 心外だ。

 色々考えた結果、「これしかない」と判断したうえでの進路だと言うのに。



 田舎では時が流れない。

 いつまでも、いつまでも、過去の失敗や悪評が口の端に上り続ける。


 近所に一軒だけの貴重なお医者さんも、「昔は村の仕事をさぼってばかりの怠け者だった」と言われ続ける。

 若くして県会議員になった土地一番の出世頭も、陰では「山一つ燃やしかけた悪たれ」呼ばわりされ続ける。

 お医者さんは、身体が弱くて肉体労働に向かず、その分勉強をがんばって医大まで行けたと聞いている。

 県会議員の先生は、仲間たちとのキャンプで焚き火が燃え広がる事故が起きたけど、さほどの大火事だったわけでも、まして意図的に放火したわけでも無かったそうだ。

 しかし、一度広まった噂、それも面白おかしい悪い噂は、田舎では忘れ去られない。

 娯楽が少ないせいもあって、いつまでも話題にされ続ける。


 ぼくが街で不良になって、ゲームセンターに入り浸った挙げ句、ついに補導されたという話も、地元では延々と語り継がれるだろう。

 なまじ真実に近いうえ、両親がかたくなに箝口令を解いてくれないから、強く否定することもできやしない。

 かと言って、帰省する度に不快な思いをして、ついには故郷のことを嫌いになってしまうというのも悲しい。

 ぼくだって生まれ育った土地には愛着がある。

 故郷には気持ちよく帰りたいし、昔からの知り合いとは笑顔で接したい。


 ……なので、噂自体はそのままで、別の意味に変えられないかと考えた。

「ゲームセンターに入り浸って」のところに「コンピューターに興味を持って」という動機を付け加えることができれば、噂の意味するところが少し変わるんじゃないだろうか。

 ゲームセンターに入り浸っていたのも嘘じゃないなら、コンピューターに興味を持っていたのも嘘じゃない。

 購入した本は何でも熟読するぼくは、ベーマガも全ページ目を通していた。

 最初はちんぷんかんぷんだったプログラムコーナーも、ベーシックの入門書を何冊か読み込み、半年も経つ頃には、リストの意味をある程度理解できるようになっていた。

 理系に進み、コンピューター関係の仕事に就けば、ゲームセンターの一件が別の解釈で捉えられるようになるかもしれない。

 不良になったためではなく、コンピューターに興味を持ったからゲームのことも研究していた……ということになるかもしれない。


 ならないかもしれない。


 でも、この進路選択がマイナスの効果をもたらすことも無いはずだ。

 これからの時代は、どう考えてもコンピューターが社会の中心に来る。

 勉強しておいて損は無いだろう。

 理系の道に進んだからって、本が読めなくなるわけじゃないしね。



 そして今、ぼくは故郷から遠く離れ、アスファルトと鉄筋コンクリートに囲まれた大都市にいる。

 引っ越しの片付けは昨日で一区切り。

 今日は朝から大学と、それから通学に利用する電車の下見に出向いた。


 ……地元のバスが心から懐かしい。

 噂には聞いていた通勤通学ラッシュの凄まじさに、早くもへこたれそうだ。


 それでも――。


 大学のキャンパス。人と車に満ち溢れる通り。多種多様な無数のお店。間近にそびえ立つビルディング。

 見慣れない景色に胸が踊る。いろんな場所を闇雲に見て回りたくなる。

 まるで『南』に入学した直後のような気分。

 ぼくは気の向くまま、付近を散策することにした。


 その途中、不意に、懐かしい電子音が耳に届いた。

 軽快なシンセサイザーのメロディー。絶え間なく響く銃撃音に爆発音。


 心臓が激しく高鳴る。

 胸の奥に、かさぶたをはがすような痛みと、それを上回る強烈なノスタルジーが蘇る。

 半ば無意識のうちに、音の発生源を探す。

 少し先にある細い通りの入り口。音はその方角から聞こえて来る。

 迷わず足を踏み入れる。

 飲み屋さんや雑居ビルが立ち並ぶ、ごちゃごちゃとした雰囲気の通り。ほんの少し、あの裏通りを思い出す。

 見つけた。ゲームセンター。

 自動ドアが開けっ放しで固定され、入り口近くに配置された大型筐体が見える。

 その中に……あった! 【スペースハリアー】!

 残念ながらムービング筐体ではなく、固定されたシートに座るシットダウン筐体だ。

 でも……【スペースハリアー】だ。

【スペースハリアー】だ!!


 周囲に警戒の目を向け……ここが地元ではなく、そしてもう『南』の生徒でも無いことを思い出す。

 軽く苦笑いしながら入店。

【スペースハリアー】は、スーツを着たおじさんがプレイ中だった。

 十七面、最終面の一歩手前で、ロボットや石像の攻撃を避け続けている。

 しかし高速で、おまけに大量に押し寄せる「柱」の群れを、ついにかわし損ねた。

 ゲームオーバー。


 おじさんは軽く肩をすくめ、ハイスコアネームを入力することもなく席を離れた。

 久しぶりにプレイするぼくが、あんな先の面まで行くのはまず無理。

 でも、ここで遊ばないという選択肢は無い。

 思いがけず実現した【スペースハリアー】との再会、無かったことになんてできない。

 シートに座り、百円玉を投入。

 スタートボタンを押す。


   WELCOME TO THE FANTASY ZONE.

   GET READY!


 電子音声による歓迎の言葉に、涙がこぼれそうになった。



 もうかなり古い機械だからだろう。

 数年ぶりの【スペースハリアー】は、レバーの根本がガタついて細かい操作が効かなくなっていた。

 その代わり、以前には経験したことの無い連射機能というものが付いていた。

 引き金を引いているだけで、ハリアーがマシンガンのように銃を連射してくれる。

 これは、楽だ。それに気持ちいい。

 敵の出現パターンをほとんど忘れていたので、わずか六面でゲームオーバーになってしまったけれど、後ろに並んでいる人がいないことを確認して迷わず再プレイ。

 ぼくは夢の中にいるような気分で、【スペースハリアー】の世界に没入した。


 立て続けに三回プレイして、ようやく人心地がついた。

 シートを離れ、店内の様子に目を向けてみる。


 当然のことながら、知らないゲームばかりだ。

 大型筐体で目に付くのは、まるで戦闘機のコクピットそのまんま、カプセル状の筐体の中で前後左右に座席が揺れ動く【アフターバーナーⅡ】。

 今時のゲームとは思えないシンプルな画像に、驚嘆するほど滑らかな動きのレーシングゲーム、【ウイニングラン】。ゲームと言うより、まるで車のシミュレーター。そうか、これがポリゴンって技術か。

 モニタ三台分ほどの横幅を持つ筐体は【ニンジャウォリアーズ】。さっきから響いている三味線の音は、どうやらこのゲームのVGMらしい。ものすごくカッコいい曲だ。CDが出ていたら絶対に買おう。

 テーブル筐体の方に目を向ければ……なにこれ? なんで同じゲームが四台も並んでるの? しかも席が全部埋まっていて、行列待ちまでできてる?

【テトリス】って、そんなに面白いゲームなんだろうか。四角いブロックが四つ組み合わさったものが落ちて来るだけの、ごくごくシンプルなパズルゲームにしか見えないのに……。

 その奥にあるのは、【マーブルマッドネス】のようなトラックボールで黄金の竜を操作する全方向スクロールのアクションゲーム、【サイバリオン】。

 ブロック崩しタイプのゲームに使うパドルが発射ボタンになったような、特殊なコントロールパネルを持つシューティングゲーム、【ロストワールド】。ボタンを回転させることで、三百六十度どの方向にも銃が撃てるようだ。

 どこかのホラー映画に出て来たようなホッケーマスクの主人公が、不気味なモンスターをぐちゃぐちゃに叩き潰しながら進む横スクロールアクション、【スプラッターハウス】――これはちょっと、ぼくはパスかな。


 十年一昔と言うけれど、ビデオゲームの世界はそんなにのんびりしていない。

 見るゲーム、見るゲーム、どれもグラフィックからサウンドからシステムから、三年前とは比較にならないほど進化している。

 このゲームも、雪やオーロラの表現が目を見張るほどに美しい。タイトルは【ノースポール・クライシス】。



【ノースポール】……。



 タイトルを認識した瞬間、その場から逃げ出したい衝動に襲われた。

【スペースハリアー】の存在に気が付いた時と同質の、しかしはるかに大きな心の痛み。

 同時に泣きたいぐらいの郷愁と、抑えきれない好奇心。

 相矛盾する激しい感情にぼくは動けなくなり、流れるデモ画面を、ただ眺め続ける。


 石造りの街で、緑の森で、静かな農村で。

 それぞれの日々の生活を送っている、カール、ウィル、ポックル。

【ノースポール】の事件が解決したせいだろう。世界は平穏そのものだ。

 しかし一転、空がかき曇る。遠い北の果てから角笛の音が届く――実際に筐体から、美しい笛の旋律が鳴り響く。

 それは、北極柱の危機を伝える大角笛、「鳴風なるかぜ」の音。

 カールがマントを身に着け、大剣を手にする。

 ウィルが細剣を腰に差し、弓矢を背負う。

 ポックルがフキの葉っぱを傘のようにかざす。

 雪だるまスノーマンがすっくと立ち上がる。


 ……って、最後の雪だるま、誰だ!?

 もしかして「雪ン子」? あれ、「サンタ・クロースからの手紙」では、雪だるまじゃなくて人間だって書いてあったよね?


 ああ……これは、初めてポックルを見た時と同じ感覚だ。

 このゲームは間違い無く【ノースポール】だ。

 同じ開発者が手がけた、【ノースポール】の続編だ。


 意図的に、記憶の奥底に封じ込めていた。

 なにかの拍子に思い出す度、胸の痛みで動けなくなった。

 実家の本棚の前に立っても「サンタ・クロースからの手紙」は決して手に取らなかった。

 がんばって、成し遂げて、そしてすべてを失った【ノースポール】というゲームは、ぼくの中で大きな傷となっていた。


 それを全部「雪ン子」が吹っ飛ばした。

 もうなんか、悩んでいたのがバカみたいだ。

 とりあえずやってみよう。遊んでみよう。

 ゲームは遊びだ。「遊び」なんだ。

 楽しむために存在するもので、くよくよ思い悩むためのものじゃない。


「ちょ……ちょっと待った!」


 は……?


 席に座ろうとしたところを、いきなり制止された。

 声をかけて来たのは、真新しいスーツが今ひとつ似合っていない、茶色っぽい短髪の青年だった。

「これをやるのは、ちょっと待って。ほら、これはまだロケテ始めたばかりだから、いきなりクリアなんてされると、困るって言うか……」


 ……いや、なに言ってるの、この人?


 ロケテと言うのは……確か、ロケーション・テスト。

 発売前のゲームを試験的にゲームセンターに設置して、売り上げやプレイヤーの反応を元に、最終調整を行うことだったはず。

 それはわかるけど、ぼくのプレイを止める理由がわからない。

 いきなりクリアなんて、そんなのぼくにできるわけないじゃないか。


 そうは言っても、こんな変な人に目を付けられて、それでもゲームを始めようって気にもなれない。

 せっかくやる気になったのに残念だけど、【ノースポール】の続編を遊ぶのはまた今度にしよう。


「あ、あの……」


 歩き出そうとしたぼくに、その男性は不審げと言うか、どこか睨むような目を向けて来た。

 これって、いわゆる「ガンをつけられた」状態なんだろうか?

 でも、そういうのって、似合わないとは言えスーツ着た社会人のやること?


「ひょっとして……俺のこと、覚えちょらん?」


 地元の言葉?

 いやでも、幼なじみにこんな人はいない。

『南』は女子高で、しかもぼくは生活に色々と縛りがあったから、同年代の男性と知り合う機会もほとんど無かったし。

 強いて言うなら、一年の時にゲーム・パラダイスで出会った常連の人たちぐらいだけど……。


「……………………」


 彼は無言のまま、睨むような目をぼくに向け続ける。

 睨む……とは、違うのかな。緊張して、うつむき加減になって、それで睨んでいるように見えてるだけ……?

 うん、少なくとも敵意を向けられてるわけじゃ無さそうだ。

 目付きが悪いのは確かだから、仮に帽子とか前髪で表情が良く見えなかったら、ずっと睨まれていると勘違いしたままだっただろうけど。


「あ……」


 長髪の陰から覗く、睨むような目。

 覚えがある。

 この目、この髪の色、ひょっとして……。


「<MOR>……?」


 破顔一笑。

 彼は……<MOR>は、輝くような笑顔を見せた。


「久しぶりちゃな、<HAL>!」



 自動販売機でオレンジジュースをご馳走になりながら、話をする。

<MOR>は、ゲーム会社に就職したらしい。それも、【ノースポール】の開発会社に。


「まだバイト扱いちゃ。それに採用してもらえたんは、ほとんど<HAL>のおかげやしね」


 ぼくのおかげ?


「あん時のビデオちゃ。ほら、<HAL>がノーダメージ・ノーキルクリアやった時の。最後に俺がゲーム機ん上にこけたの、覚えちょる? あん場面で俺が映ってるの見せたら、気に入ってもらえたんじゃら」


 ノーミス・ノーキルクリアは確かに達成したけど……あれ、ノーダメージだったっけ? 敵から一発もダメージを受けなかった?

 そんな完璧なプレイができていたなんて、今の今まで全然気が付いてなかった。

 あーあ、もったいないなあ。そんなプレイが、永久パターンのせいで日の目を見なかったなんて。


「日の目て……<HAL>、なんも知らんの?」


 知らないって、なにを?


「<HAL>んこと、ゲーメストで記事になったちゃ! 【ノースポール】のプレイヤーで<HAL>を知らんやつなんて、日本中に一人もおらんよ?」



 なんだか、とんでもないことを言われたような気がする。

 激しいめまいを感じながら、とにかく<MOR>の説明を聞く。



 永久パターン発覚につき、ハイスコア集計打ち切り――。

 ゲーム・パラダイスの面々は、それでおとなしくあきらめたりはしなかった。

 ぼくのプレイを記録したビデオをダビングして、ベーマガ、Beep、ファミコン通信を始めとする家庭用ゲーム誌、それにアーケードゲームの専門誌であるゲーメストに片っ端から送りつけた。

 即座にゲーム・パラダイスへ連絡を取って来たのが、ゲーメスト編集部。

 翌月には【ノースポール】の攻略記事と共にゲーム・パラダイスの一件が掲載され、大反響を呼んだと言う。


「編集部ん人も、<HAL>にインタビューしようて、ずーっとがんばっちょったんやけどね。『南』ん先生が絶対に許さんかったそうちゃ」


 あー、なるほどー。

 先生たちが、ぼくに対して警戒を解かなかったのは、それが理由かー。

 ぼくのプレイを取り上げてくれたのはうれしいけど、悪気なんて全然無いのもわかってるけど、色々と巡り合わせが悪かったなー。


「店長もずっと<HAL>んこと気にしちょったよ? ゲーパラ閉める時も、<HAL>が自分のせいち勘違いせんか心配しちょった」


 店長……?


あねさんち。ほら、いつも眠そうにしちょった<BNG>」


 姐さん……エプロン姿のお姉さん?

 あの人、店長だったの?

 しかも……<BNG>!?


「<HAL>て、本当にゲーパラんこと知らんかったんなあ」


 さすがに<MOR>が苦笑する。

 一言もない。

 いつゲーム・パラダイスに行っても、必ず店内にいたお姉さん。

 そしてぼくは、お姉さん以外に店員の姿を見たことは無い。

 いくらお店の中にいる時間が短かったとは言え、気が付いて然るべきだった……。


 そうそう、これも聞いておきたい。

 ゲーム・パラダイス、どうして閉店したの?

 お姉さんの心配通り、ぼく、あの時の騒ぎが原因かもって不安でしょうがなかったんだけど……。


「全然関係ないちゃ。あれは……んー、あれは、なあ……」


 何故か<MOR>は口ごもった。


「ほら……ゲーパラん二階に、変な店があったやろ?」


 あったね。


「あそこが、法律的にやっちゃいかんサービスやっちょったとかで、警察ん来てなあ……」


 脳裏に怪しげなバニーガールのネオンが蘇る。

 本当に……本当に、高校生が入り浸るには危険な場所だったんだな、ゲーム・パラダイス……。

 二階と一階は別のお店とは言え、そりゃ先生たちも立ち入り禁止にするよ……。


「でも店長、去年新しか店ばオープンしたちゃ。女子が普通に入るるようにするち、すごい明るい雰囲気の店にしちょった」


 その分、俺たちはちょっと入りづらくなったけどね、と<MOR>は笑った。

 それは、決してお姉さんの選択を否定するような笑みじゃなかった。


 そうか。お姉さん、またゲームセンターを開いたのか。

 お店の場所を聞いて、次に帰省した時は訪ねてみようかな。

 女の子が普通に入れるゲームセンター……うん、すごく興味がある。行ってみたい。

 もう『南』は卒業したんだし、地元でゲームセンターに入っても、別にいいよね……?


「<HAL>が来るようになっちから、ゲーパラん客、ばり増えたけんなあ……本人はやっぱ気が付いちょらんかったか……」


 え、なに?


「なんでんなか。それよか、<HAL>はなんでここにおるん? 俺と違うて進学やろうけど、大学がこの近くなん?」


 隠すようなことでもない。

 ぼくは大学名と学部を<MOR>に告げた。



「へえ、それはすごい。彼と同い年なら、現役合格だよね? 確かに彼が言ってた通り、優秀だ」



 応えは、ぼくの背後から聞こえた。

 見知らぬ男性が、いつの間にかそこにいた。

 年齢は……二十代? それとも三十代?

 背格好や服装で言うなら落ち着いた大人の男性なんだけど、全身に稚気のようなものが満ち溢れていて、実年齢がよくわからない。


「げっ……あの、これは……」

「あー、大丈夫、大丈夫。仕事さぼってナンパでもしてるようならお仕置きだなーと思ったけど、そうじゃないのは、話を聞いててわかったから」

<MOR>が、ほっと胸をなで下ろす。

 察するに、<MOR>の会社の上司さんだろうか。

 と言うことはつまり、ゲーム会社の人。


「【ノースポール】のディレクターちゃ」


<MOR>が、ぼくにささやく。

 ディレクター……監督さん? つまりこの人が、【ノースポール】の生みの親?


「初めまして、<HAL>さん。お会いできて光栄です。お世辞でも社交辞令でもなく、本当に一度お話したいと思っていたんですよ?」


 それは、こちらも同じこと。

 あんなにも熱中した【ノースポール】。ある意味、ぼくの人生を根底から変えた作品とも言える【ノースポール】。

 その開発者に対し、話したいこと、聞いてみたいことは、山のようにあった。

 あったんだけど……あまりにも突然のことで、とっさに言葉が出てこない。


「とりあえずですね、まず真っ先に、これを聞きたいと思っていたんですけど……」


 その人は、にこりと笑って、ぼくの人生にさらなる爆弾を投げつけた。



「ゲーム開発の仕事に興味はありませんか?」




















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