ヒーローが生まれ、そして消えゆく伝説の始まりと終わりをこの目で見届けた事に対しての圧倒的読後感が、完結まで読み終えた後の胸に燃え上がるように広がっている。至近未来の東京を舞台に覆面ヒーロー「ブギーマン:ザ・フェイスレス」が様々な手段を駆使して戦うリアリティや、単純な善悪論で片付けられない社会悪と対峙するドラマの奥深さに、どこまでも惹きつけられる作品だった。
友人の自殺をきっかけに始まったヴィジランテ活動が、果ては国際テロリスト集団との壮絶な戦いにまで発展する。"顔のない男"「ブギーマン:ザ・フェイスレス」として戦う主人公、憂井道也と、卓越したサイバー技術を駆使した近未来的戦法で戦う奇人ヒロイン、羽原紅子のコンビが魅せる戦いの最中、学園生活や思春期らしい恋愛、新たなる仲間たちが入り乱れながら進む、主人公周りの人間ドラマも凄く魅力的だった。
現代にも通ずるインターネット社会の功罪、移民問題や3.11以後の社会不安から生まれたどす黒い巨悪に対し、如何に正義の鉄槌を下すかという問題に葛藤しながらも、高校生らしい思春期の青臭さで進んでいくドラマに引きつけられ、そしてブギーマンらの市街地戦闘や羽原紅子の仕掛けるサイバー戦には常に先の読めない、疾走感を覚える面白さがある。
リアリティある設定の中で道也の「敢えて覆面で視界を隠す」戦い方はフィクションらしい斬新さがあり、後に登場する「ブギーマン・ザ・タンブラー」のパルクールを駆使した高速戦闘など、設定自体は常にどこか現代社会と地続きなリアリティを残しながらも外連味あるアクションで迫力を持たせた作風の塩梅がとにかく気持ち良くて、その点アメコミヒーローや特撮好きに刺さる内容かつ、物語自体の骨太さが社会派ドラマとしても相当高いクオリティを有していると思う。
とにかく、読者に訴えかける「力」がある作品だと思った。放心するほどの読後感、言葉にしなければ収まらない衝動を生む作品で、そのエネルギーを最後まで失わないまま走り抜けた作品なのだと思う。この作品に出会えた事、憂井道也達の戦いを見届けられた事に今はただ、感謝したい。
非常に読み応えのある作品で、物語が展開するにつれぐいぐい惹きつけられます。
現代社会において罪は、それを裁く法が機能して初めて認定され、罰せられます。では法が定める範囲に届かないもの、罪だと認定されないもの、そもそも社会に露見することがないものはすべて罪ではなく、したがって罰を受けなくていいのか。そんな現代のどうしようもないやりきれなさがしっかりと描かれ、胸に迫ってきます。
人の悪意はいつでもどこでも存在していて、程度の大小に関わらず誰かを害している。そして小賢しい者はまっとうな追及の手を逃れ、安穏と悪事を繰り返し、人々を害し続ける――。そんな胸糞悪いやつらを見逃さず、まっとうでないやり方で罰を受けさせるため、主人公の憂井道哉と羽原紅子は奇妙な協力関係を結び、奔走します。それがなんとも痛快で、心から彼らを応援したくなります。息もつかせぬ巧みな戦闘描写、合間に交わされる軽快かつ秀逸な会話。読んでいて本当に快いです。
それでも悪を罰した後はいつもハッピーエンドとは限らないし、彼らが救った人々が全てまったくの善人という訳でもありません。ただ、理不尽に何かを奪おうとする者を彼らは許しません。
ヴィジランテとは崇高なのか、愚かなのか。複雑化した現代社会の中で、高校生という平穏を維持したまま存在し続けることができるのか。深刻な問いに彼らは正面から向き合い、時に悩み傷つき、足を止めながらも闘い続けます。驚異的な才能や技術を持っていても、彼らは十代の少年少女であり、一面には確かにそれぞれ等身大の感情も抱えています。顔のない仮面の下には血の通った心があり、それがより読み手を惹きつけてやみません。
深いテーマを内包する社会派小説の要素もありながら、エンターテイメントとしても非常に面白い、読み応えのあるヒーローアクション小説です。この作品に出会えて本当によかったと思います。