第6話 ひび割れ
市姫さんと帰った日から、一週間が経った。
あの日から、中野さんは俺に話しかけてこない。
その代わりと言っては何だが、市姫さんとはよく話をするようになった。
「かなやっち、今日も一緒に帰ろ?」
ここ最近、市姫さんに毎日誘われる。
かなやっちとは、どうやら市姫さんが勝手につけた俺の愛称らしい。
断る理由を持ち合わせていない俺は、
「わかった」
と、枯れ果てた笑顔と共に返事をする。
キーンコーンカーンコーン。
放課後の時刻を告げるチャイムが鳴る。
すると、市姫さんが、
「かなやっちー」
と、俺を呼ぶ。
「何?」
「なんでもないよー。呼んでみただけ」
市姫さんは、意味もなく俺の名を呼ぶことが多いため、
この返答も大体予想ができていた。
こうした会話の中で、隣の席の中野さんは淡々と帰りの支度をしている。
「結、早く帰ろうぜ?」
教室の前で、俺の知らない他クラスの男子が中野さんを呼んだ。
その男は、
「失礼します」
とだけ言い、教室にずかずかと入り、中野さんの机の前に立つ。
すなわち、俺の右斜め前だ。
「あ、カイ君。ちょっと待ってて」
そういって、中野さんはいそいそと準備を終えて、カイという男と並んで帰る。
「かなやっち、あの人のこと知ってる?」
俺が、二人を注視していたためか、
市姫さんは俺の顔を覗き込みながら、訪ねてきた。
「知らない」
「そうなんだ。私、あの人のことなら少しだけ知ってるよ?」
だから、どうしたというのか?
ニヤニヤしながら聞いてくる市姫さんを、見て面倒くさいと思ってしまう。
「かなやっちが知りたいなら、教えてあげるけど?」
こういう時は、知りたいと言って
相手の話に興味があるというアピールをするのが正しい。
なのに俺は、
「いや、いいよ」
と、素っ気なく返事をして話題を変えようとしていた。
「早く帰ろう?」
「今日のかなやっちはツレないね」
そう言いながら、市姫さんが俺に手を伸ばす。俺は伸ばされた手を、何も言わずに握ると、そのまま誰もいなくなり静かになった教室を出て行った。
「あのさ、かなやっち?」
「何?」
俺は歩調を保ちながら聞いてみた。
「さっきの男子、高木海君は”彼氏にしたいランキングトップ5”
の一員なんだよ?」
どうやら、さっきのカイという男のことを俺に教えたかったらしい。
「そのランキング、誰が作ったの?」
市姫さんは「んー」と口元に指をちょこんと触れさせ、考える素振りをする。
そして、市姫さんは、こちらに向き直ると
「内緒」
とだけ言って遠くの方を見る。
市姫さんが、なぜ内緒にしたのかわからないが、
教える気がないのをわざわざ聞き出そうとするのも億劫なので
その話は流すことにした。
そろそろ市姫さんの家に着きそうだ、というところで、市姫さんは
「かなやっち・・・今日、暇?」
と聞いてきた。
今日は課題も出ていないため、暇かと言われればイエスだ。
「暇、かな」
「じゃあ、家に上がっていってよ。美味しいケーキがあるんだ。
いつも送ってもらっているお礼にと思って」
「じゃあ、お言葉に甘えようかな?」
俺は、前に同級生の男子が俺に無理やり読ませた、ライトノベルの主人公と同じセリフを使わせてもらった。
「ふふ、楽しみにしててよ」
その言葉の少しあと、市姫さんの家に着いた。
もう数回は来たことのある家。
ただし、入るのは今日が初めてだ。
初めてだろうと、特に関係はないのだが・・・
「お邪魔します」
「さあ、どうぞ」
家に上がると、そのまま市姫さんの部屋へと案内された・・・
サイコな俺と、パンピな彼女 ヤナカノカナヤ @syouset3
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