概要
助けたその人は、お礼でも、名前でもなく、「どうして」と言った。
三年間、俺はあの人と一度も目が合ったことがない。
篠宮。中学が同じで、高校でも二回クラスが同じになって、その三年のあいだ、廊下ですれ違うとき、向こうの目は俺の肩の少し上を通っていった。嫌われているとは思わなかった。嫌うには、まず認識しないといけない。
帰り道のアーケードで、前を見ていない自転車が、前を見ていない女子の背中へ真正面から近づいていた。間に合わないな、と思ったのと走り出したのは、たぶん同時だった。
二人で倒れ込んで、顔を上げたら、三年ぶりに目が合った。
助けたのは、俺を三年間無視し続けてきた本人だった。
翌日から、彼女は毎日、俺の席へ来るようになる。礼を言うために。ただし毎回「あの」で始まって、毎回途中で止まる。
――そして、俺の名前を一度も呼ばない。
篠宮。中学が同じで、高校でも二回クラスが同じになって、その三年のあいだ、廊下ですれ違うとき、向こうの目は俺の肩の少し上を通っていった。嫌われているとは思わなかった。嫌うには、まず認識しないといけない。
帰り道のアーケードで、前を見ていない自転車が、前を見ていない女子の背中へ真正面から近づいていた。間に合わないな、と思ったのと走り出したのは、たぶん同時だった。
二人で倒れ込んで、顔を上げたら、三年ぶりに目が合った。
助けたのは、俺を三年間無視し続けてきた本人だった。
翌日から、彼女は毎日、俺の席へ来るようになる。礼を言うために。ただし毎回「あの」で始まって、毎回途中で止まる。
――そして、俺の名前を一度も呼ばない。
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