本稿は『《光背》のユヴォーシュ』完結に際し、筆者史上最長連載となったことで溜まったあれこれを徒然なるままに暴露・解説したりする文章になります。
その性質上、ビックリするほどネタバレだらけ、かつ自分語り作品語りの嵐のため、それを理解したうえでスクロールをお願いします。
さて、『《光背》のユヴォーシュ』は前作『Crackers:How to go』執筆時のある想いから書かれた物語になります。
───『C:Htg』は流行りを気にせず好き勝手に現代伝奇異能バトルを書いたから、じゃあ次は流行りに乗っかったらどうなるんだろう。
そう、きっかけはストレートにPV欲しさ。あとは純粋な好奇心。自分は流行に乗っかれるのか、乗っかったとしてどういうものが出力されるのか。
どこまで行けるか。よし、やってみよう。
というわけで分析の結果「俺TUEEEEE」「異世界」「追放」「ざまぁ」でやってみようと決定しました。
要素が決まればプロット構築。主人公は自分ではどうにもできない理由から理不尽に追放刑に処され、しかしそれがきっかけでスーパーパワーを手に入れる。それを用いて好き勝手生きることで、統治者の胃を痛めつけるタイプのざまぁでいこう。スーパーパワーを授けてくれるのは女の子で、狂言回しにもさせられるようなヒロインにすれば完璧だ。よし、王道王道。王道にしては処刑とかやってるけど多分王道。ヒロインが仮面を外さないけどそれも王道。
……というところまでを考えつつ、裏では主人公の痛めつけ方を考えます。
神サマからもらった力で俺TUEEEE、美味しい話には裏があるもの・好き勝手するところまで黒幕の思惑通りということにして、自分のせいで大変なことになるように仕組みます。そこらへんが6、7章の話で、最終的に神サマにノーを突き付けて自由を勝ち取ってハッピーエンドまで決めつつ、そこにたどり着くまでに滅茶苦茶時間がかかったのは御覧の通り。
いやあ長かった。
書き始めた時点で6~7章構成ということ、各章が決着するための条件までは決めていたものの、1章がどのくらいの文章量になるかは明確ではありませんでした。001話公開の時点で区切りがいい『神誓破談』まで書き終わっていたので、早々に1日2話公開に切り替えたこともあって「多分1章につき60話くらいだろうなあ、だから7月……夏休みいっぱいかかることはないだろう」と高を括っていたのが甘かった。
2章はまだしも、3章、補足のための補章、4章……と着々と60話をオーバーしつつ、どうにかこうにか突入した最終章。なんと122話。急に倍。
もともと熟す内容が多いので覚悟はしていましたが、それでも80~90くらいじゃないかなあ、という見積もりをガードの上からブチ抜かれる筆者。悶絶。書いても書いても書くべきことが尽きないという地獄を味わいました。かといって章で区切る部分もなく、ただひたすら旅の終わりを目指して走っていたのは筆者も同じと言えましょう。いやそれは流石に烏滸がましいか。
ちなみにプロットでは、「2章:魔術師を追いかけて西方へ向かう」「5章:《妖圏》を旅する」とだけ書かれていたため、そこでも別種の地獄を見ました。もうちょっとなんか書いとけ。書き溜めを使い尽くした戦犯はそこいらへんです。計画ダイジ。
全体としての語りは(今思いつく範囲だと)こんなところにして、ここからはキャラクターについて。
★ユヴォーシュ・ウクルメンシル
主人公。書いてみたら思ってたのと割と違った人。ややこしいことをあれこれ考えるわりに行動だけみると滅茶苦茶に考えなしの脳筋野郎。それと自分の影響力に無自覚。社会的規則や規範に縛られることに驚くほどに反抗的で、割と001話までの人生が気になるところ。割と早い段階から信庁に目を付けられていたのでは?
物語の題名にもなっているだけあって、基本的に彼の視点から《九界》を描きました。面白いもので、筆者も彼の視点を通して《九界》という大きな石を削り出し、何があったかちょっとずつ掘り出していくような気分で執筆したのが印象的です。神を信じられないことで割と現代日本的な観点を持ちつつ、決定的に違うのも描写したつもりでしたが出来ていたかしら。
防御寄りの異能にしたのは「主人公なんだし敵の攻撃を受けて酷い目にあいつつ適度に死なないで耐えてほしい」という筆者からの要請と、ヒトの縁を集める器がそう簡単に壊れてもらっちゃ困るという《暁に吼えるもの》の要請が重なったかたち。背に光を負って戦う剣士というのは絵的にめっちゃ映えるはずなのですが、悲しいことに絵がない。描いてくれ。
《光背》……実は名前が先行して存在していた異能。当初は自己バフ能力の案とかもありましたが、紆余曲折を経て防御(?)能力に。覚醒してからはかなりの割合を《背教》に奪われましたが、そこはタイトルにもなっている《信業》、キメるときはきっちりキメるために見せ場も予め考えていたのです。
《火焔光背》……《光背》のアレンジ技。作中ではニーオの《火起葬》からインスピレーションを得て開眼しているこれも、ニーオより先に案が出ていたり。本編後はこれで《真なる異端》や《暁に吼えるもの》の気配をサーチしていると思われます。《九界》を破壊することを夢想すると突如燃え上がる(無傷)という怪現象の主。
ちなみに読みは「バーンハイロウ」です。ルビふったことなかった……。
《背教》……ユヴォーシュ固有というか、彼が彼の意志で作り上げた初にして唯一の《信業》と言ってもいいもの。魂を創造する力として使っても強いところを、応用して「魂が健在な限り存在を保証する、ただし意識を失って《信業》の発動を維持できなくなれば解除」という無敵モードがかなり強い。これがなければ6章の悪獣化身との戦闘&7章のディレヒトとの決戦と、少なくとも2回ユヴォーシュは死んでた。でも別に痛みの軽減とかないはずなのであの鈍感さは自前です。ショック死……しないですか、そうですか。
これもルビを振っていなかったことに気づきましたが、「レネゲイド」です。
当初は借り物の力でイキっている面もありましたが、それら全て奪われたところからウルトラCを決めて自分の力を獲得してからはこれでもかと打ちのめされたりしました。ヒウィラがいなかったら割と《暁に吼えるもの》と相討ちになって死ぬくらいの勢いでテンションが乱高下したイメージなので、一人じゃなくて良かったと思いました。
ちなみにユヴォーシュの名前は完全に中───《九界》由来。《九界》の固有名詞については筆者が心の赴くままにつけた造語のため、おそらく読者の皆様がたには多大な苦労をおかけしたことでしょう。とはいえユヴォーシュについてだけはちょっと例外で、元になった言葉が実はあったりします。ユヴォーシュはドイツ語で“超人”を意味する「Übermensch」、ウクルメンシルは同じくドイツ語で“原始人”を意味する「Urmensch」の音からインスピレーションを得た……んだと思います。名付けた当初は気付いていませんでしたが、多分そうだろうなと思ったので記載。
彼の両親については裏で蠢く悪だくみなど一切知らない一般《九界》人でした。ユヴォーシュも異端であることを告白したりはしませんでしたが、おそらく薄々勘付いてはいたと思います。筆者の作品で言及される中では上等な方の両親。他は酷い親が多い。というか孤児率高い……。
ちなみに彼は世界設定からしてとんでもないことをやらかしていたりします。けれどもこれは別の物語、いつかまた、別のときに話すことにしよう。
★バスティ(とケルヌンノス)
メインヒロイン……の皮を被った元凶。太源たる《暁に吼えるもの》は『C:Htg』にもチラっと触れられており、そこからも分かるように本作とは実は世界観を同一にしております。そちらも間違いなく面白いと太鼓判を押せる出来……というか進行形で連載した本作『《光背》のユヴォーシュ』よりもクオリティは高い自信があるので、是非読んでください。読んでくれ!
さておき、彼女らに関してはプロット時点からその役割が定まっていたキャラクターです。ユヴォーシュの相棒として彼を導き、助け、語らい、裏切って討ち滅ぼされる。あらかじめ決めていた通りに動いてくれたため、全体として予定からブレが少なかったキャラと言えましょう。より上位の存在に操られるキャラということで、そこらへんでも“らしさ”を醸し出せていたらいいのですが。
仮面の美少女バスティ。彼女の最大の特徴たる仮面は《發陽眼》を隠すためのものでした。彼女は記憶を失っていましたが、「自分が肉体を得たとしたら《發陽眼》を宿している」こと、また「《發陽眼》は秘して誰にも見せないようにしなければならない」ことの二点は無意識に認識していました。カストラスに作らせた時点の義体は通常の瞳でしたが彼女の神体が宿ったことで自動的に《發陽眼》になったのを隠すため、安物の仮面を用意してまで隠していたのが真実です。それがなければ妖精王ウーリーシェンとの謁見で大騒ぎになっていたので、正しい判断だったと言えましょう。
二人の名前については《九界》の外由来の存在のため、こちら側の神話から引っ張ってきた名前を使っています。ケルヌンノスはケルト神話の有角獣神(某作で登場して笑いました)、バスティはバステト───エジプト神話の獣頭女神からです。後者については《九界》送りの際の衝撃で情報が欠損したこともあって、中途半端な名前になってしまいましたが。もしもう一人くらい外由来の化身がいれば、ガネーシャあたりだったかもしれないですね。
ケルヌンノスは化身たちの中で唯一、その目的を把握していたため裏でひっそりと苦労をしょい込んでいました。ユヴォーシュやバスティが死んだらそこで終わりのため、そうならないようあれこれ手を回していたのです。バスティと合流してからのユヴォーシュはまあ彼女がどうにかするとして、バスティの神体が壊れればそこで五百年の計画はおじゃん。危なかったのは1章のロジェスとの戦い、4章でのニーオとの対峙あたり。もしそこでバスティが死んでしまえば、今回の計画は破綻したとして、ケルヌンノスは聖都のど真ん中でひっそりと自害したことでしょう。そしてその亡骸から悪獣化身が出現して大暴れ、《人界》は壊滅……という結末になっていたはずです。
悪獣化身をユヴォーシュが退けられたのにもカラクリがあって、あれはユヴォーシュがまだ《暁に吼えるもの》の化身としてのアカウントのようなものが残っていたからです。《魁の塔》でケルヌンノスを取り逃していればユヴォーシュの化身認定は削除され、悪獣化身への攻撃は一切通らなくなります。そうなればいくら《背教》で耐えても勝ち筋はなく、ユヴォーシュは挽肉にされて死ぬしかなかったのです。勝つにはあの時あの場でしかなかったという意味で、最速で突っ込んだのは正しかったと言えるでしょう。
ユヴォーシュが彼らに負けていれば、彼を旗頭に瞳を硫黄色に染めた眷属たちが集結し、《暁に吼えるもの》を招来する儀式をおっぱじめて《人界》はしっちゃかめっちゃかになります。《九界》の滅亡まであり得る最悪のバッドルート。
《暁に吼えるもの》の特徴、硫黄色に燃える《發陽眼》は世界を跨いで共通のものです。ユヴォーシュも一時それに侵されはしたものの、最終的に振り切るという流れが欲しくて青藍の瞳の設定にしました。どうして藍かと言われれば……サカナクション、いいですよね。
彼らについて知りたかったら、前作『Crackers:How to go』を読みましょう。果たして求めている情報が得られるかは───その目で確かめてくれ!(宣伝)
長くなってしまったので一旦このあたりで。
次回はヒウィラと聖究騎士たち(一部)になるかと。