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連載終了『書額堂奇譚』のこと

私はいつも吸血鬼小説を書いております。

『書額堂奇譚』は綺想編纂館(朧)様( @Fictionarys )の2021年11月の企画 ノベルバー参加作品です。

ノベルバーとは、11月中、毎日設定されたお題に従って物語を投稿する、というもので、続き物でもいいし、読み切りでもいいし、毎日でなくて興味のあるお題のみでもよい、12月に入ってからの投稿になってもよい、という比較的緩い企画です。

たまたま、10月2日に別の企画で300字SSを書いており、そのSSのために作った設定をこのノベルバーに使えないか……とひらめいたところから、私の約2ヶ月の戦いが始まりました。

ちなみに下記、その300字SSです。
登場人物の性別が違っていたりしますが、これが元ネタです。
これが最後には9万字に増えたんですよ……

☆☆☆☆☆
天子松柏は雄月の皇胤にして泉名元年、宝祚し給う。

誤りに気づき、筆を止める。
――天子たるは宝祚ののち。
小刀をもって竹簡を薄く削る。
皇胤といえど、登極せねば人である。
人として過つ余地が、まだあるということだ。
しかし天子が道を誤れば、咎めるのは天のみ。
それすなわち国土と民を損なうということだ。
「まこと、宝祚とはなんであろうな。まるで……」
呪いのようではないか、という言葉を、私は呑んだ。
墨の削がれた竹簡に書き直し、巻いて書庫に収める。
人一倍生真面目だった従弟の、今日の勢威を思い浮かべながら。
――私は君の足跡を余さず書き記し、この書庫を守りましょう。
いずれ、それこそが真の宝となりましょうから。
☆☆☆☆☆

「史書の編纂とか保管をやってる官僚の吸血鬼の話を書く!! 中華風ファンタジー! しかも大河っぽく千年単位で古代から現代へ時間が流れていくやつ!」
まあ、私の物を書く動機なんて、こんなものです。

一話ごとに時代背景が変わるので、読みにくさはあったかも知れませんが、それも味だと思ってやってください。
時々出てくる「漢文の読み下し文っぽいもの」は、もちろん「似非」です。
昔、ちょっと漢文の読み下し文らしき物を書いてみたくて練習していたのであまり悩まず書いていますが、たぶん細かいところで間違いがあると思います。そのあたりは気がついても見逃してください。

ちなみに二十三話「レシピ」の最後に出てきた「百姓は昭明にして、万邦を協和せしむ」は『書経』の一節で、日本の「昭和」の元号のもとになった文章だったりします。
また、二十九話「地下一階」に出てきた繁旼鳥の退位宣言は、清国末代皇帝の溥儀の退位宣言を参考にしています。


本作は、第一話で、汎砂によって「書物の王国」に導き入れられ、その世界の広さを知った稀梢が、三十話でみずからの意思でまだ見ぬ世界に旅立っていく、という話になっています。
親しい人をどんどん失いながらも、顔を伏せるのではなく、前を見続ける。
三十話で彼がそのような行動を取れたのは、書物によって「世界」に憧れる気持ち、知りたいと思う気持ちを持ち続けていたからだと、作者は思っているのですが……読者さまの解釈も、聞いてみたいなと思ったり。
よろしければご感想などいただければ幸いです。

本作品につきましては、2022年5月頃、同人誌として発行することを目指しています。
そのとき、汎砂視点の話を付け加えられたらと思っています。
稀梢がいかに手のかかる弟子だったかとか、松柏の一件で面倒に巻き込まれそう(※)になった稀梢が(彼の気づかないところで)難を逃れていた件とか……
※禁軍の蒔櫂将軍は絶対、稀梢に対して怒りを覚えているはずです。


余談ではありますが……稀梢くんのこの旅立ち……日光も大蒜も聖水も十字架も効かない、しかも自分でマメに死体処理までやるんで足も付きにくい、ほとんど弱点のないやっかいな吸血鬼が世界デビューしたのでは?! という気がしなくもないんですが、まあ、お気になさらないでください。私は概ね、吸血鬼に甘い作家です。

2件のコメント

  • こんにちは。こちらのコメント欄に突然失礼いたします。尾八原ジュージと申します。
    この度は拙作『Novelber 2021』に素敵なレビューをいただき、ありがとうございました!どうしても一言お礼申し上げたく、こちらにお邪魔させていただきました。
    暖かいレビュー文、とても嬉しかったです。あの奇妙な世界やそこに住む住民たちのことは、私自身いとおしく思っていますので、大変感慨深く読ませていただきました。

    宮田さんもNovelberを完走されたとのこと、まずはお疲れさまでした。完結おめでとうございます!
    300文字のSSを9万字にまで発展させたなんて本当にすごいです!同人誌にされる予定とのことですが、きっと読み応えのある作品になることと思います。
    ご作業の順調な進捗をお祈りすると共に、改めてお礼申し上げます。
  • ご丁寧にありがとうございます。
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